二百四十四話
「健人……泥棒じゃねえの?」
「えー……ご安心を。神獣の加護を授かっている者が見つけた場合、所有権が認められています」
リイがここで咎めようとした俺へ問題無いと返答してきた。
問題無いの? 大丈夫? 異世界の戦士の特権、この世界でもあるって甘く無い?
「ただ、ケント。神獣の申し子様の方が加護の力が強いので貴方はお尋ねしてから所有して下さい」
「雪一の方が権利あるって事か?」
「ええ」
健人が眉を寄せつつ俺に顔を向ける。
何時の間にかリーダーが俺になってる的な顔だ。
「雪一、欲しいか?」
「俺もまた人間とは違うからな……」
進化出来るLvになったら進化することでLvが1に戻るし魔物化してしまっているので限界に達した事は無い。
「んじゃ良いな! リイ、お前が使うかー?」
え? 独り占めをするために飛びついたんじゃないのか?
「私は皆さんに付いてきているだけですので貰うわけにはいかないでしょう」
「そう言うなよ。これからの戦いでもしもの事があったらどうすんだよ。いざって時に備えて使っておくのも良いと思うぜ」
「ケント、貴方が使っては如何です?」
「俺も出来れば欲しいけどそれよりリイが使うべきじゃね?」
なんか意外だ。健人って強くなる為にこの辺り欲深いかと思ったけど気に入った相手を優先するんだな。
ふとここで考える。
仮に俺が魔物化せずに何事も無く兵役を終えて冒険者になり、ブルと冒険してトランセンドシードを手に入れたらどうするか。
『よーし! まずはブルに使おう!』
『ブ!?』
え? 自分に使うとか欲しがったりしないの? って顔をブルはすると思う。
『何言ってんだ。ブルが強くなる事でもっと出来る事が増えるだろ? 俺はブルが強くなってくれて心の底から嬉しいんだ』
うん。間違い無くブルを強化させようと俺は思ってテコでも動かないな。
ブルはきっと売値を知っているから頷かないと思うけどそれでも使わせたい。
そう思うと……健人の気持ちが分かるような気がする。
気に入っている相手に譲りたいって奴。
なるほど……健人のイイ女が好きってのは本当なんだな。
「遠慮します。健人、私が使うよりは貴方が使って下さい。そちらの方が有意義です。目的があるのでしょう?」
「そうだけどよ」
「どうしても躊躇するのでしたら保留にしましょう。その所為でいざという時に力が及ばない事もあるでしょうがリスクは覚悟して下さい」
リイも真面目だなぁ。ライラ教官を思い出すや。
「はあ……しょうがねえか」
「ケントの兄貴、使わないんだな」
「使いたくない訳じゃねえよ? もう少し考えてからでも良いだろって話よ。ぶっちゃけ雪一とムーイ、それとカエル。お前等がしっかりと強くなって聖獣と戦えりゃ良いだけだからよ」
Lv20よりも俺やムーイ達と協力して聖獣を倒せりゃ良いってか。
まあ……Lv20で大きく差が開くかって言えば開きはするけど聖獣に勝てるかは判断しかねるんだろう。
「キュ」
なんて話をしているとラウが自慢げに宝玉を俺達に見せ続けている。
綺麗な宝玉だな。見つけて良かったな。
「それでこっちの宝玉も受け取って良いの?」
「ええ、先祖がラウに加護と共に授けたのでしょう」
「キュー」
うーん……貰って良いのかな?
「良かったなーラウ」
「キュー!」
先ほどよりもラウの歩みがしっかりとしている。
加護を授かったというのは本当かもしれない。
「何かここで得られる情報とか……他にあるかな?」
「もう少し調べて見ましょうか」
と、俺達は破壊された神殿内と探索したがそれ以上の収穫は無かった。
ただ……石像のあった部屋の壁画がちょっと気になった。
そこに記されて居るのは一匹のフクロウがこの世界の人たちと手を取り、四匹の獣を相手ににらみ合いをした後、光へと向かって行った後に家庭を持ったような絵だった。
オウルエンスの先祖の物語らしいが……リイの話だとオウルエンスの英雄の物語だそうだ。
聖獣に仲間と共に挑んで何かしらの願いを叶えて家庭を持ち、この始祖のお陰でオウルエンスは繁栄したとか何だとか。
うーん。
何かあるような気がする。解析も絵に反応してるけど、%が20%で止まってしまったので分からない。
露骨なヒントを提示されるのがなんだかな。
俺を傍観している神様って奴も何か言えば良いモノを。
『何か』
……挑発をしてくるな。何か言えと言って何かとだけ答えるとか、答えないなら嫌がらせだろコラ!
で、返事はしない。
神獣の方は俺が聞こえなかったってのがあるけど本気でこっちは性格悪くてしょうがない!
『そこまで罵詈雑言を言うならしょうがないな。願いを彼は叶えたんだよ』
で、ブツッと声は途切れた。
まあ、描かれている絵を見れば分かるけど……何を叶えたと言うのだろうか。
「ユキカズの兄貴? どうしたんだな?」
手分けするって事でエミロヴィアと分離している訳だけど、エミロヴィアが神と話をしている俺に聞いてきた。
「ああ……ちょっとな。この絵は神様に会って願いを叶えたオウルエンスの先祖なんだそうだ」
「そうなんだな。オデ、この最後の部分、先祖さんが平和に過ごしてそうで好きなんだな」
エミロヴィアの神様への願いは平和に過ごすだもんな。
迷宮種であるエミロヴィアに安寧は訪れるのか……そんな願いを叶えてくれるのか? 俺をこんなにした性悪神様が。
何かトンチでもして悪さをしそうだ。
「叶えて貰えると良いな」
「なんだな」
エミロヴィアの夢は大事な物だ。誰だって平和で居たいと願うだろう。
あー……俺も平和に、ブル達と再会して冒険者として過ごしたい。冒険者が平和かと言えば怪しいけど少なくとも魔物と化してよく分からない世界で戦うのは違うだろう。
ムーイとエミロヴィアをみんなに紹介して驚かせつつ仲良く冒険したり楽しく行きたい。
色々と諦めれば今でもある程度平和には過ごせそうだけどな。
何にしても進むしか俺には無いか。
そんで探索を終えてみんなで集まった所で健人が口を開く。
「それらしい痕跡は無いな。先を急ぐか」
健人の提案に俺達は頷く。
「行こう。早くこんな事をした奴を見つけないと」
マシンミュータント……変な奴がこの世界で悪さをしている様だし、見える範囲でやっていくほかない。
こうして俺達はオウルエンスの先祖を奉る神殿を後にして村を壊滅させた奴の足取りを追いつつ聖獣のいると言う町の方へと向かったのだった。
聖獣への道の道中での事。
二股に道が分かれている所で俺が寄生して巨大化させ、みんなを乗せるエミロヴィアは足を止める。
どっちの道だ? なんとなく左の道の方に足跡が多く残されて居るような気がする。
リイを見ると左の方を見ているのでおそらく目的地は左だろう。
「こっちだぜ」
そこで健人は右を指さした。
本当かー?
するとリイが深くため息をしてから答える。
「どちらかと言えば左の方が聖獣様の元への近道ではありますが右には町が存在します。他地方との交流が盛んな中継地点でもあります」
「被害が出てるかも知れねえだろ? 俺が普段は拠点にしてる町だから気になるんだよ」
まあ……別に良いけどさ。
「村ならともかく町って大丈夫なのか? 被害が無かったとして」
こう、俺はともかくムーイ達を連れてって良い場所なのか?
「扱いは変わらねえよ。結界があるのは同じだしよ。早く行こうぜ。行かねえなら俺は行くぜ。リイも来るよな?」
「私は神獣の申し子様を優先しますよ」
「……随分と急かして強引だな。健人」
「そりゃあそうだろうよ。あそこにはイイ女達がいるんだぜ。気になるに決まってんだろ」
はあ……なんとも健人らしい事で。
女の安否が大事か。
気持ちは分からなくも無い。異世界の戦士の力を所持するマシンミュータントと迷宮種が闊歩してるかも知れないんだから遠回りでも立ち寄りたくもなる。
「皆はどう思う?」





