二百四十一話
「ドラゴン……カタツムリか貝で考えるとルカルコルか蜃辺りが出てくるな」
「そんなのがあるのか? 魔物か?」
「ああ、魔物にいるぜ。竜の吐く息が楼閣を現すなんて話から蜃気楼って言う話があるくらいだ。その魔物名が蜃ってな」
なんとなくデリルインの特徴と重なったような気がする。
「つまりデリルインの由来する能力が幻覚を見せる代物だったって事か」
そんでエミロヴィアとは力の源の相性が良いと。
「エミロヴィアの能力はいばらの魔女だろ?」
「なんとなく薬の組み合わせが増えた気がするんだな。強くなった気はするんだな」
と、答えた所でエミロヴィアが俺を凝視してきた。
「どうした? 力の源に乗っ取られそうか?」
「そうなんだな? よく分からないけど、ユキカズの兄貴……ちょっとオデの舌に触って欲しいんだな」
べろってエミロヴィアが舌を伸ばしてきたのでエミロヴィアが喜ぶように触れる手だけ昆虫の手に変化して触ってやる。
「ああ……あ……」
エミロヴィアが目を細めて俺の手の感触を味わっている。
このままバクッとされるかと思ったけど、俺を捕食せずにエミロヴィアは舌を引っ込める。
「力の源が……オデに対して抵抗せずに何か流れ込んで来るんだな」
「抵抗か」
そう言えばフレーディンに入って居た力の源を含め、カーラルジュもそうだけどまとまりが無かったもんな。
だからこそムーイやエミロヴィアの力の源を引き千切って取り戻せた訳だけど……消化中って感じとも言えるか。
「ぼんやりとだけど分かるんだな。何か思い通りに動けなかった所をユキカズの兄貴が視界に入って来て自分の意志で戦えた記憶みたいなんだな」
「そんな事も分かるのか?」
「本当によく分からないんだな。これが力の源の影響なんだな?」
恐いんだな……とエミロヴィアが少し震えている。
「ちょっと寄生してエミロヴィアの力の源を確認してみるか。場合によっては引き離すぞ」
「お願いするんだな」
「おう。じゃあ寄生するぞー」
「わかったんだな。あむ……」
と言う訳でエミロヴィアに寄生して力の源を確認する事にする。
エミロヴィアの力の源が入って居る心臓に位置する所を目で確認すると……取り込んだデリルインの力の源とエミロヴィアの力の源が繋がり始めて居る。
スッと間に手を差し込むと繋がりはすぐに切る事は出来た。
ただ、フレーディンみたいに無理矢理くっつこうとしている訳ではなく、温かな感じに繋がっていた。
何せデリルインの力の源の方がエミロヴィアの力の源よりも大きいのに、エミロヴィアへと中に入っている核みたいな物を渡そうとするような動きでくっついていたんだ。
そっとエミロヴィアの体へと流れ込む記憶って奴を神経接続で確認してみる。
ムーイに寄生して居る時にゲームや映像を体感させた奴に似た感じだな。
すると……力の源に内包された記憶みたいなものなのか、解像度は悪いけど意識のような魂とでも言う代物なのか判断し難い意志が流れ込んで来る。
何者かに捕らえられ、実験台みたいな所に拘束されて何かを植え付けられる恐怖の感情、操られてここに来た所で食指に非常に影響される我を忘れるような獲物として俺を感じ取って植え付けられた拘束から一時的に解き放たれた。
エミロヴィアの言っていたのはコレだな。
で、俺とエミロヴィアに抜き取られた力の源がエミロヴィアを経由して自身の体の最後を目撃。俺を求める意志が伝わってくる。
……お前の力は何なんだ?
俺が語りかけると霧で幻覚を見せる力という言葉では無い意志が返って来た。
お前が背負って居たマシンミュータント・コントロールフォートレスは一体?
……返事が無い。分かるのは経緯と感謝の意志、力がどんな物かだけだ。
ただ、なるほど……少しだけ力の源がどんな構造で肉体に作用しているのか分析出来た。
「ユキカズの兄貴、デリルインの力の源とお話してるんだな?」
「話とは言い難いな。強いて言うなら思念みたいな物に触れたと言うべきか」
「そうなんだな?」
エミロヴィアの体を操作する状態にしてムーイ達に顔を向ける。
「デリルインの力は霧で幻覚を見せるってのが正解みたいだ。それとエミロヴィアに大きく影響はするように感じないな」
「やっぱりそうか」
「他のはオマケか」
「そうなる。何にしてもエミロヴィアは幻覚が使える様になったって事でよさそうだな。問題は力の源が解れてエミロヴィアの力の源に混ざろうとしているみたいだが……」
「たぶん、消化だと思うぞ」
「なんだな」
ここでムーイとエミロヴィアが揃って同意した。
「消化?」
「あのな。オレもよく分からないんだけど、本来は自分がなくなるなんてイヤだからできる限り残ろうとするけど、限界が来ると解けて一つになるんだと思う。だけどデリルインの力の源は持ち主の源とくっついて純粋に一つになろうとしてるんだと思うぞ」
「ムーイは経験済みなのか? 他の力の源を得たりさ」
「オレ、オレ自身の力の源以外、手に入れた覚えないぞ」
つまり迷宮種の本能で分かる話か。
ってムーイの力の源を取り戻すって頑張ってたけどいずれはカーラルジュにムーイの力の源って消化されて消えかねなかったって事か?
危ないな! タイムリミット付きだったのかよ。
……まあ、あの状態はいずれ俺が限界を迎えた訳だけど。
「つまりよ。食性の変化とかも一時的な要素でしばらくすると力の源は一つになるって事か?」
「それは分からないんだぞ?」
「ユキカズの兄貴、ケントの兄貴、デリルインの力の源はオデに凄く馴染むような気がするんだな」
そういやフレーディンの力の源もくっついてるのあったもんな。
「相性とかもありそうだな。少なくともエミロヴィアとデリルインは相性が良い組み合わせって事でよさそうか。デリルインもエミロヴィアを乗っ取るとかする訳では無さそうだ」
「ちょっと恐いんだな」
「それが出来たらカーラルジュにやられた時にオレが乗っ取ってるぞ」
ああ……確かにそうだな。
少なくともムーイの方がカーラルジュよりも正面戦闘の能力は高かった訳だし、力の源が出来る限界はあるって事か。
どうも操られていたのを倒す事で解き放ってくれたって意味でデリルインの力の源は抵抗せずに居るって事でよさそう。
体は木っ端微塵になってしまって再生は出来ないみたいだけどさ。
少なくとも乗っ取られるとかは無いと言う事か。
「力の源の影響は受けるけど明確に意志を乗っ取ると言う事は無いか」
となるとフレーディンの行動は食指の増加はともかく増長して俺を狙ったのは本心って事か。
「ユキカズの兄貴が持って無くて良いんだな? デリルインはユキカズの兄貴を求めてたんだな」
「エミロヴィアが持っててくれ、お前が一番理解してあげれる。その方が良い」
俺への執着をされてもな。
何より、エミロヴィアを通じて満足してくれ。その方がデリルインも喜ばしいだろう。
「わかったんだな」
「気分はどうだ?」
「今まではフレーディンの兄貴が手に入れていた事でオデが手に入れるってのは感じた事が無かったから……やっぱりちょっと恐いんだな」
臆病というかなんと言うか、エミロヴィアは実に不器用なタイプのようだ。
「デリルインの能力は蜃気楼か……肉体変化は殻を背負うだな」
いろんな特徴が出るもんだな。
こうして俺達はデリルインを倒し、リイとラウと合流して事情を説明した。
「キュ」
ラウは勝利に親指を立てている。
言葉はしゃべれずとも意志はしっかりと表示する様になったな。
「結局、村を壊滅させたのはデリルインでよろしいのでしょうか?」
「わからないな……それが出来る程の力があるとも判断し難い」
少なくとも俺に反応してノコノコ姿を現したに過ぎない。
何にしてもマシンミュータント・コントロールフォートレスってのに操られていたのは間違いは無さそうだ。
俺を相手にして逆にマシンミュータント・コントロールフォートレスを操っていたとも言えるのかも知れない。





