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二百四十話


「手元に残ったのはデリルインの力の源くらいか」


 ここから情報を引き出せれば良いけれど、そこまで深く調べる能力を俺は要していない。

 カーラルジュの様に進化の苗床にしたら内包出来たけれど、不可能だ。


「……」


 エミロヴィアがデリルインの亡骸を見つめている。


「アイツ……ユキカズの兄貴を味わわせて貰って最後、嬉しそうだったんだな」

「そうだな」

「ユキカズ、ご飯じゃないけどきっと凄く幸せな気持ちだったんだろうな。オレもユキカズが作ってくれたお菓子を食べたりしてるから分かるぞ。死ぬ前の最後のご飯だったなら……嬉しかったんだと思う」


 ムーイも思った事を言ってる。

 なんとも微妙に後味悪いけど、やって行かなきゃ始まらない。


「それでデリルインの力の源をこうして手に入れた訳だが……」

 思わず俺が奪った力の源を抱え込んでしまっている訳だけど、力の源を迷宮種であるムーイとエミロヴィアは取り込む事で自身の強化が出来る。


 迷宮種同士の戦い、勝者の権利として発生する心臓部だ。

 フレーディンの例を参考にすると能力と食性を引き継ぐ様だ。

 まだ色々と分かって居ない部分はあるんだけど、新たに手にした力の源をどうするか二人に問う。


「どんな能力があるのかよく分からなかったぞ」

「そうだな。攻撃方法から推測してどれが本来の能力か分からん」


 高圧縮された水の刃なのか、それとも毒攻撃なのか、それとも幻影を見せる霧なのか。

 ハンドレットダガーは違うだろうというのは想像出来る。


「なんとなくオデ、霧を出す能力だと思うんだな。毒と霧は同じ能力だと思うんだな」

「オレもそれだと思うぞ。他の能力は本来の能力じゃなく強くなって使えるようになったんじゃないかー?」

「ほう……二人がそう分析するって事なら違いは無いかも知れない。で、俺を狙ったとすると……戦闘中はエミロヴィアと同じく昆虫食って推測だけど、聖獣とか神獣を専門に食べる迷宮種かも知れないな」


 聖獣や神獣を食べる迷宮種ってのが居ても不思議には思わない。


「んなピンポイントに厄介な食性の奴がいたら苦労しそうだな。ずっと飢えてそうだぜ?」


 まあ……さすがにあり得ないか。


「ユキカズがエミロヴィアに寄生しようとしたら気配がしたんだぞー? 今のユキカズから考えて虫だと思うぞ」


 ムーイはこの辺りの理解度早いから間違いは無いかー……可能性としては少しはあってほしかった。


「それでだ。この力の源は二人の内どっちに渡すと良いかな」

「え? ユキカズが持つんじゃ無いのか?」

「俺が持っても宝の持ち腐れだろ」


 精々エミロヴィアに寄生した時に更に強化するって事になるが限定的過ぎる。

 もっと有効活用出来るように二人の内どっちかが手にして欲しいもんだ。


「何より、デリルインがどんな奴だったのかを知る事が出来るかもしれないだろ」


 俺への怨嗟が寝てると聞こえる気がするんだぞ?


「そんな事出来るんだな?」

「出来ないのか?」

「分からないんだな。フレーディンの兄貴も力の源を手にした所為でおかしくなったんだな?」


 それはどうなんだ? アイツは当初エミロヴィアを仲間として面倒を見ていたのか? それとも最初から利用していたのか。

 アイツの言動から後者っぽいんだよな。


「そこは実験で良いと思うが、健人はどう思う?」

「そんなもん、雪一。お前が決めろで良いだろ。二人ともお前が面倒見てんだからよ。ま、俺の意見を参考にするってならムーイの方に偏らせた方が基本的な強さが伸びるんじゃねえの?」


 健人はムーイ押しか。

 確かにその手が無難ではあるか……フレーディンが所持して居た力の源は汚れるって感じにムーイが嫌がって俺が持ってるし、エミロヴィアは遠慮して断るからな。


「んっとなオレ、ちょっと気になる事があるんだぞ」

「何を?」

「えーっと……その……」


 ムーイがモジモジとしている。

 何を遠慮してるんだろうか?


「エミロヴィアがユキカズを凄く美味しいって言ってるだろ? それが分かると……オレ、困った事になりそうで」

「あー……」


 いや健人、何納得したように頷いてんだよ。

 エミロヴィアなんて何度も頷いてるぞ。


「ユキカズの兄貴の虫姿……オデ、おかしくなっちゃいそうになるんだな。本当に食べたい訳じゃ無いけど頭の中でグルグルするんだな」


 エミロヴィアに取っての悩みをムーイが背負う可能性が高くなるか。


「確かにそりゃやべえな」

「うん……だから遠慮するんだぞ」

「まあ、デリルインはエミロヴィアのお陰で倒す事が出来たようなもんだし、エミロヴィア。お前に渡そう。これで強くなるだろうし食性が同じなら影響も少ないだろう」

「オデ……恐いんだな。フレーディンの兄貴みたいにオデも変になっちゃいそうで」

「そうなりそうだったら俺がおかしくなる前にデリルインの力の源を引き千切ってやるよ。俺の信頼の証だと思え」


 と、俺はデリルインから毟り取った力の源をエミロヴィアに手渡す。


「ユキカズの兄貴……分かったんだな。ユキカズの兄貴の期待に応える様に頑張るんだな」


 そんな訳でエミロヴィアは渡した力の源をその身に取り込んだ。

 丁寧に力の源を飲み込んで……外見の変化はそこまで無さそうか?

 あ、なんかオタマジャクシみたいな尻尾が生えた?


「ど、どうなんだな?」

「尻尾が生えたな」

「え? あ、そうなんだな」


 エミロヴィアは振り返って尻尾を確認する。

 がヒュッと尻尾が体の中へと戻ってしまった。


「出し入れ自由みたいなんだな」

「ほう……」

「これ、何なんだ?」


 伸びた尻尾を触るとペタッと吸い付くな。

 触手……とも何か違う。

 思い通りに動いて持つことが出来る尻尾か?


「カエルからオタマジャクシに退化してないか?」


 健人……もう少し気を利かせてやれよ。


「ここはウーパールーパーとして言ってあげた方が良いだろう」

「似たようなもんだろ」

「ん……こんな感じなんだな?」


 くるんとエミロヴィアは石を尻尾に付ける。

 尻尾の全部に引っ付いたな。

 ほー……こんな使い方があるのか。


「……デリルインが背負ってた奴を付ける所じゃ無いのかー?」


 ああ、ムーイの提案が合ってそうだな。


「殻を背負うか、そういやカタツムリかと思ったけど殻は別っぽいもんな。デリルイン」

「なるほどなんだな」

「となると殻を用意して背負わせるとか出来る様になったのか」

「何でも吸い付くなら椅子でも付けて乗りやすいようにするって手もあるんじゃね」


 それも悪くはないか。

 健人曰く乗り心地悪いそうだし、荷物持ち的な変化と言えば良いかもしれないか。


「で、これがデリルインの能力か?」

「違うと思うんだな」

「違うのか」


 じゃあ何なんだ? 迷宮種の能力ってのは本当、よく分からん。

 まあ……大きなカエルにしか見えないエミロヴィアの能力がいばらの魔女で、マシュマロというか不定形のスライム系のムーイがミダスの手って能力なんだしな。


「そもそもカタツムリなのか貝なのかよく分からん奴の所持する目玉の能力が何なのかってのが分からん。エミロヴィア、分かるか?」


 推測だと霧を出す能力だと思って居たけど違うような気がしてきたぞ。

 で、エミロヴィアは自らの手を開いたり閉じたりを凝視していた。

 クンクンと健人がデリルインの肉片の匂いを嗅ぐ。


「僅かに竜の匂いがするな。デリルインって俺の知るあっちの世界の迷宮だとドラゴン系がよく出る迷宮だったな」

「へー……」


 あっちの世界での出来事を基準にして良いのか?

 それを考えたらエミロヴィアなんて薬草採取が盛んな田舎で、ムーフリスは大迷宮だぞ。

 まあ、ムーイの強さとかを考えると割としっくり来るんだけどさ。


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