二百三十八話
「うへ……今度はカタツムリってか?」
確かにそれに近いと言えば近い。
体と背中の貝の隙間から管みたいな物を出してこっちに向けて発射してきた。
その体には……見覚えのある文様が浮かんでる。異世界の戦士の力……?
神獣の力を授かっているのかこの迷宮種は……一体どんな理由でそんな力を?
神って奴が授けたのか? 自身の世界でこんな化け物を作って何を考えてやがる。
『心外な……幾ら僕でもそんな真似をするはずないだろう?』
おい! 見てるなら答えろ! 訂正するためだけに声を掛けるんじゃねえ!
と、内心怒鳴るが以降の返事は無い。
違うって言いたいだけで喋るとか、他の時でも幾らでも声をかけれるだろうに。
なんて内心毒を吐いているとデリルインの管からブシューッ! と、水の刃が放たれる。
「なんだな!」
エミロヴィアが前に出て防御の姿勢でみんなを庇う。
流れるように迷宮種デリルインは管から煙というか霧を散布させていた。
「ルルルルル!」
デリルインは俺が寄生して居るエミロヴィアに凝視しつつ怒気の孕んだ声を上げていた。
獲物を横取りした相手とばかりの声だ。
「よくも狙撃してくれたな! 村をメチャクチャにしたのはお前か!」
「ルルルル!」
接近した俺の詰問にデリルインは問答無用とばかりに管を俺達に向かって突き刺してきた。
エミロヴィアは防御の姿勢を取ろうとしたけど俺は回避を意識して避ける。
サッと目視で辛うじて避けた。
管の先端を見ると針が飛び出ている。
しかも毒液が出ていた。
随分と殺意高いな。
「なんだな!」
パァ! っとエミロヴィアが植物操作を使ってデリルインの放つ霧を中和させる。
その光景は魔法による光で結構幻想的に見える。
「キュルルル! ル! ル!」
「おっと! その! 攻撃を! いつまでする気だよ!」
プスプスとデリルインは針で突こうと何度も攻撃してくる。
その猛攻を避けつつ回し蹴りでデリルインの顔面を蹴り飛ばしてやったぞ。
エミロヴィアはこう言った直接攻撃は得意としてないから俺がやってる。
ムーイ直伝の蹴りだけどどうだ!
「キュルルル!」
グラッと蹴られて仰け反ったデリルインだったけど即座に立て直してサッと背中の殻というか貝? に体を入り込ませる。
防御形態ってか?
と、思ったけど殻に引っ付いて居る品々がこっちに狙いを定める。
ぞわっと嫌な気配!
「みんな! 避けろ!」
デリルインの殻からハンドレッドダガーが生成されて周囲に放たれる。
「ムーイ! 健人を任せた! 俺とエミロヴィアは大丈夫だ!」
「わかった! ケント!」
「うお!」
ムーイがケントを抱えて飛び上がってハンドレットダガーを避け、俺とエミロヴィアは横薙ぎに放たれたハンドレットダガーを……ブリンクでデリルインの背後に瞬間移動して避けた。
「ルルル――」
突如目標が消えた事で僅かにデリルインの動きが止まる。
「喰らえ!」
ここで俺はエネルギーバーストを発動、至近距離でエネルギー噴出を起こして衝撃波をぶち当てる。
ガギィイイイン! っと火花がデリルインに発生する。
が……致命傷にはほど遠いか。尻尾で追撃の叩き付けを行うけど固くて弾かれたぞ。
くっそ殻が固くてビクともしない。
狙撃はするし固いし毒はばらまくし、隙がねえな。
動きが思ったより遅いのがせめてもの救いか。
だがな……その動きが遅いのが短所だ。
「とー!」
落下風味にムーイが竜騎兵用の剣を叩きつける。
ガギン! っとやはり甲高い音が響いた。
ムーイの怪力すら耐えるとかとんでもないな。
「くそかてえな! やっぱ身を狙うのが良いよな!」
と、健人も受け身を取りつつ殻の中へと槍を突き刺すが、蓋も完備で身に入れる事が出来なかった。
それでデリルインは何をするかと思ったら殻を操作して装着されている武装をぶっ放してくる。
バシュッと……大きな水の玉が火炎放射器……じゃなく散水機だったものから放たれるんだが、あれって……。
「なんだな!」
エミロヴィアが健人目掛けて放たれた水の玉、アシッドボールをその身で受け止める。
ジューッと周囲に焦げ臭い匂いが立ちこめる。
水属性攻撃無効と俺の酸耐性能力が無かったらかなりのダメージになりかねない攻撃だぞ。
ボフゥウウウ! っと殻の隙間から霧を噴出する。
う……なんかぼんやりとしてくる。
ドスッとデリルインの突き刺しを健人を庇った隙を突かれて腕に受けてしまった。
ドクドク! っと一気に毒を流し込まれる。
「な、なんだ……な」
く……エミロヴィアの全身に毒が回り始めた。
神経毒なのか制御関係が混雑し始める。
が、俺は寄生能力を持ってるんだぞ。宿主の危機に対処する力が無い訳は無い!
エミロヴィアの頭の信号をダイレクトに代用しつつ血流に流れる毒を一箇所に集めて体外に放出する。
残った毒の回った部分は解毒魔法で対処。
未知の毒でも回りきる前に解毒したし、エミロヴィアは毒使いで俺も毒使い。
完全治療にそこまで時間は掛からない。
が、何故か俺の視界にレラリアの冒険者ギルドが広がっていて扉が……。
「兄貴達! 大丈夫なんだな?」
パァ! っと目の前にあった冒険者ギルドが消える。
幻覚か!?
「この息、幻を見せるみたいなんだな」
「ああ、幻覚に掛かりそうになった」
とんでもない奴だなコイツ。
「うう……見覚えのある建物の玄関で立ってる光景が見えたぞ」
ムーイにも状態異常が回ってたのか。
「コイツの攻撃、もう大体分かるんだな。たぶん、幻や夢を見せて虫さんを騙して捕まえるのが得意なんだな」
「ふむ」
元々はそう言った習性で動いて居たのが何らかの強化でここまで厄介な的になったって所か。
エミロヴィアが何でここまで対処出来るのかと考えると、相性が良いというのもあるけどエミロヴィアの能力名がいばらの魔女。
なんでなのか分からないけど、そう言った能力名でいばらの魔女と連想出来るのは……童話の茨姫とかだよな?
植物由来だけど眠りを誘うものには反応出来るのかも知れない。
とにかく、今は刺さったままの針を抜こうとした所でデリルインの針が付いた管の部分が下がり……ブワッと開いて俺とエミロヴィアを包み込もうとしてくる。
しかもご丁寧に刺さった針の部分からも何か伸びてきて体内にある力の源へと伸びようとしてるぞ。
「う……コイツ、何か日本の方のテレビだったか何かで見た事あるぞ。イモガイみたいだ」
健人が覆い被さろうとしてくるデリルインに向かって言ってくる。
「けどさせねえ!」
「させるかよ!」
ドスッと健人が槍で突き刺した所でビクッとデリルインは俺とエミロヴィアを捕食しようとした針を引っ込める。
俺の方も体内で針の部分を力強く締め上げて阻止してやった。
お前なんかにエミロヴィアの力の源を渡すもんかよ! ムーイみたいに取らせる訳ないだろ!
「ルルル――」
で、俺の見せた幻覚の方もデリルインには掛かって居るようで再度針を突き刺し、エミロヴィアが出した植物を突いて食べていた。
けれど口に合わなかったのか吐き出してる。
「殻にこもってるからこれを殴って切り落とすんだぞ!」
ムーイが管を踏みつけて切り落とす。
「キュルルルルル!?」
肉は効果ありだな。
ビクビクンと怒りを露わに高圧縮の水の刃を周囲にぶっ放しつつまたもハンドレットダガーでなぎ払ってくる。
うーん。絶妙に隙が無い。
「もう見慣れたぞ。今度はこれを喰らえ!」
ムーイが手をかざして物質変化を発生させる。
攻撃はしてくるけど避けるって事はしない相手だからな。
デリルインの殻目掛けてムーイが変化を施すが……効果あるのか?





