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二十三話

「では私は先行して安全を確保しておく。トーラビッヒ隊は依頼通りに物を受け取ってから来るのだぞ」

「は!」


 そう言った後、ライラ上級騎士は俺の所まで歩いて来て小声で囁いた。


「大遠征の前にトーラビッヒは更迭し、然るべき罰を受けさせる予定だったのだが、私の権限を以てしても許可が下りなかった。これは明らかにおかしい。何かあるかもしれん。十分注意してくれ」


 は? それはどういう?

 俺が尋ねる前にライラ上級騎士は先発部隊として出発していった。


 忙しそうだなぁ。

 本当は最前線で戦ったりする人なんだろう。


 しかし……ライラ上級騎士でもトーラビッヒを罰せられなかったってどういう事だ?

 見た感じトーラビッヒは権力に屈してライラ上級騎士に頭が上がらない感じだけどな。

 つまりトーラビッヒ自身が知らない所で何かあるのかもしれない。


 そして俺だけに言うって事はライラ上級騎士の知り得る情報から怪しいのが俺の経歴関連だと考えたのだろう。

 ならばライラ上級騎士の言う通り、注意しておこう。




 それから数時間した頃……積み荷が俺達の所属するトーラビッヒ隊に届けられた。


 なんだこれ?

 棺みたいな大きさの箱だ。

 妙にがっしりと作られていて、真ん中には宝石みたいな物が埋め込まれている。

 魔法的仕掛けのある機材なんだろうなってのは分かるけど……。


「これが積み荷か?」

「そうらしい」


 トーラビッヒが届けられた積み荷の書類を読みあげる。


「ふむ、どうやら新たに投入された特殊兵装の様だな。厳重なロックが掛っているそうだ」

「この箱の中に何が収められているのでしょうか?」

「知らん。どちらにしても私達が運ぶのは途中までだ。余計な詮索をする暇があったら運ぶ準備をしろ」


 と言う訳で俺達は荷物を受け取った足で出発する事になった。


 支給された装備品は兵士用の鎧と剣や槍、それと食料を入れたリュック。

 他にダンジョンの入場証を兼ねるアクセサリー。


 これは安物みたいで遠征に来た兵士全員に支給されているそうだ。

 凄く安っぽい腕時計にも見えなくもない。

 とは言え、特殊なアクセサリーで弱い電磁波の様な物が出ていて、ダンジョン内で兵士同士の行動をチェックし、マッピングを行うそうだ。

 冒険者カードやターミナルなどで確認するとマップが見えるとか。


「えー、トツカ新兵は……これだな」


 と手渡され、腕に付ける。

 とりあえず全員がこんな感じで武装した形だ。


 後は個人で持つ武器。

 これは人による。

 俺は投擲用の短剣(調理用のナイフ)と尖った石だ。 


 ガタンガタンと運ぶべき品を乗せた荷車は進んで行く。

 飛行船とかドラゴンとか大層な物があるのに荷車での輸送なんだなー……。

 俺達はその積み荷を守る様に陣形を組んでの移動だ。


 ダンジョンの中へと向かい、入り口を確認する。

 入口大きいな。

 まあ、ドラゴンみたいな生き物も入れるとなるとしょうがないのかもしれない。

 パッと見は……石造りの遺跡かな?


 なんて思いながら石造りの洞窟を進んでいると……何かぶよっとした幕の様な物を抜けた気がする。

 ダンジョン内に入ったって事かな?

 迷路みたいな馬車も余裕で通れる大きな道を進んで行く、どことなく迷いそうだとは思ったけど、地図が既に出来ているので、俺達は続いて行くだけだ。


 やがて階段と言うか地下へ続く緩やかな道を下る。

 それから少し進んだ所で、草原みたいな場所に出た。


 は?

 なんだこれ……?

 座学とかで聞いてはいたけど驚きの声を隠せない。


 遺跡に入ったのになんで日の光があるんだとか色々と言いたい。

 フィリンやブルは特に何か不思議な事を感じた様な顔をしていない。

 そう言えば馬車で揺られた時も似た様な感覚があった。

 いきなり砂漠になったりしたし……。

 異世界に来て数カ月経ったけど、まだまだ経験していない事があるんだなー。


 なんて思いつつ、トーラビッヒをリーダーとした輸送部隊は順調にダンジョンの中を進んで行く。

 道中、時々見張りというか、兵士達とすれ違う。

 時に採取をしていたり、伐採をしていたりとダンジョン内であるのだと思わせない光景だ。

 とはいえ、不自然に草が道を遮ったりしていたりするので違和感はそこそこある。


 そんな道中を俺達は順調に進んで行った。

 任務の内容は事前に聞いてある。

 確か……地下10階にある中継地点に積み荷を届けるんだったっけ。

 既に攻略済みの道を進んで行く挙句、浅い階層故に出て来る魔物は雑魚……だそうだ。


 時々飛び出してくる魔物をトーラビッヒの配下が遭遇と同時に即座に殲滅して行く。

 怠けていてもこの程度の魔物は苦戦もしないって事なんだろう。

 出て来る魔物も本で読んだ限りだとスリープラビット程度だったし。

 ライラ上級騎士の部隊が事前に先行しているお陰かもしれない。


 話によると階層毎に強力な徘徊型のボス魔物やゲート前に君臨するボス魔物とかいるらしいけど、討伐済みだそうだ。

 ちなみにダンジョンの間取りが変わる毎に復活するらしい。

 藤平が喜びそうな設定だなぁ。


 ダンジョンの内部が変わるにはそこそこ期間が必要で、浅い階層の場合は大丈夫だ。大遠征はその安全な期間内で構築されるらしいしね。

 俺達が来る前にそこそこ先発隊が駆逐しているのだから問題は無い……はず。

 そもそも既に深い階層に中継施設が設置されたそうだし。


 工程は順調だった……目的の中継地点まで後少しと言う所に来るまでは。

 コロコロと変わるダンジョン内を進んでいた俺達、現在は……なんだろう?

 薄暗い、松明の明かりがずっと続く石造りの迷宮内だ。

 ピラミッドの中みたいな雰囲気のある壁画と上からスーッと砂が落ちている場所。


 道中は色々と変化があってピクニックって訳じゃないけど、新鮮な気持ちで歩いていたらあっという間に目的地に近づいたって感じだった。

 遠征中はこの工程を調査と言う名のマッピングして行くのかなー、なんて思っていた。


「そこを右だ」

「え?」


 トーラビッヒの配下が声を漏らした。


「何をしている」

「は、はい」


 なんだ? 覚え違いとかか?

 そう思いながら進んで行く。

 で……。


「ここだな」


 トーラビッヒが石壁を押すと、その壁がガコっとボタンの様にへこんだ。

 四個くらいそんな仕掛けを解くと、物音と共に壁が上にせり上がって道が出来た。


 うわぁ……こんな仕掛けまであるのかー。

 そういやスキル内にトラップ感知とかあった。

 まさにダンジョン攻略をしているんだな。

 こんな仕掛けを突破しないと次の階層に行けないとか、中々面倒だなー。


 なんて思いつつ、トーラビッヒを先頭にして俺達は同行していると……。


「あった! あったぞ! ふはははは!」


 道の途中に無造作に宝箱が置いてあったのをトーラビッヒが見つけて駆け寄る。


「ま、待ってください、隊長!」


 配下が焦りの声を上げる。


「一体どう言う事ですか!」

「ただの寄り道だ。この品を手に入れてからでも予定の時間には間に合う」

「そうですが……」

「何を怖気づいているんだ! お前等! それでも栄えある私の隊員か!」


 問題はそこじゃないだろ。

 輸送任務中にそんな真似をしてどうするって言う事だよ。

 これでダンジョンの探索、調査が任務なら文句は言われないだろうがな。

 ライラ上官にチクってやる!

 というか、嫌な予感が尋常じゃないんだが……。


「危険な罠の可能性も十分にあります。まずはトラップ解除のスキルを使用しましょう!」


 ……お前等も宝に目が眩んでるのかよ。

 爆発の罠とか引いてトーラビッヒが死んだとしても俺達の責任じゃない。

 命令無視になりそうだけど積み荷を後ろに下げる様にブルとフィリンとで目で合図を送る。

 コクリと頷いたフィリンとブルがトーラビッヒの部隊連中から積み荷を乗せた荷車を後退させて距離を取る。

 トーラビッヒ達は見つけた宝箱に夢中の様で、俺達が下がっている事は気にしていない。

 ライラ上級騎士の警告もあるし、取れるだけ距離を取るぞ。


「やめた方が良いですよー」

「うるさいぞ、新兵共! ここでは私がルールだ! 逆らうなら殺すぞ!」


 トーラビッヒが俺達に向けて不快そうに剣を向けつつ殺気を放つ。


「ライラ上級騎士が怖くないんですかー?」


 かなり遠くなったので声を掛ける。

 脅してやめさせたい。

 折角の遠征が命令無視で謹慎処分とかになったらたまったもんじゃない。

 安全だって言われるエリアで仲の良い仲間と一緒に探検しようと思っていたんだ。


「ふん、何を恐れているんだ、お前達! リスクを恐れては益は手に入らんぞ。そもそもこの宝箱に罠は無い!」

「ここに宝箱があるだなんてよく知ってましたね」

「ああ、毎度この時期になるとここにある宝が出現するらしくてな。なんと中身はマジックシードが必ず入っているそうだ!」

「なんと! と言う事は」

「そうだ! これで晴れて私も魔法が使用出来るようになる! そうなればあの偉そうなアバズレ女など怖くもなんともない!」


 やんややんやとトーラビッヒの配下の兵士が挙って褒め称える。

 いや……多分、魔法を使える様になった程度じゃライラ上級騎士を見返す事は出来ないと思うぞ?

 というかトーラビッヒ、お前貴族なのにそういうの使ってなかったんだな。

 下級貴族というのも意外と大変なのかもしれないな。

 受けたパワハラや現在の状況から同情したいとは微塵も思えないが。

 しかしコイツ、本当……絵に描いた様な無能上司だよなぁ……。


「さあ! 早く手に入れようではないか! マジックシードをな!」


 トーラビッヒが自らの栄光を掴むために宝箱の蓋に手を掛け、思い切り開く。


 ブウン!


 その直後、真っ黒な魔法陣が宝箱から出現し、結構離れていた俺達の足元まで包み込んだ。


「何!? バカな!?」

「これは魔法効果系の罠!?」

「ありえん――」


 おいおい! どんだけ大規模な罠なんだよ。

 凄く離れていたんだぞ。

 どんな罠が知らないけど急いで逃げないと――。


 そう思った直後。

 俺の記憶にあるあの瞬間に感じた物と同じ感覚が通り過ぎていた。


『お? 面白そうな事に遭遇したな。他の連中みたいな動きが無くてやや飽きていた所でもあったから良いぞ……とはいえ、死なれた方が困る。十分に気を付けろ』


 異世界に来た直後に聞いた声が、そう……囁いた気がした。




「あいた!?」


 ドカッと地面にたたき付けられる。


「いたたたた……」

「ブー……」

「な、なんだったんですかさっきのは」


 辺りを見渡すと、草の高い牧草地帯みたいな雰囲気のある場所だった。

 なんだったんだ?

 隣にはブルとフィリンが居て、積み荷を乗せた荷車もある。

 で、トーラビッヒ達はと言うと俺達と同様に転んだだけで済んだっぽい。


「罠だと! そんな話聞いておらんぞ!」

「どうするんですか!」

「そうだそうだ!」

「ええいうるさいうるさい! お前等は私を誰だと思っている! トーラビッヒ=セナイールであるぞ!」


 仲間割れと言った様子でトーラビッヒ一派は怒鳴り散らしている。


「宝はどうなったのだ!」

「ありません!」

「と言うかここはどこだ!」


 トーラビッヒが腕時計型のアクセサリーで確認を取る。

 俺達も緊急事態を想定した教えに従い、状況確認を始めた。

 えーっと……。


「そんな……バカな……」


 トーラビッヒの声に俺達も同様の声を上げるしか出来ない。

 現在俺達がいるのはムーフリス大迷宮地下……25階と表示されていた。

ここまでが長いのがお蔵入りしていた理由ですね。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >現在俺達がいるのはムーフリス大迷宮地下……25階と表示されていた。 何に表示されてたんだ? 支給された安物の入場証を兼ねるアクセサリーはただの発信機もどきやし
[一言] 帰り際に漁れば良いのに
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