二百二十七話
翌朝。
起きたムーイとラウ、健人達が出発の準備をしている所で声を掛けて村の外へと案内し……物陰に隠れて居たエミロヴィアを引っ張り出して対面させる。
「ユキカズの兄貴……なんか恥ずかしいんだな」
「今さら何言ってんだよ。良いから自己紹介だよ。そんな訳で迷宮種のエミロヴィアだ。ちゃんと俺が責任を取って面倒を見るからよろしくして欲しい」
「よ、よろしくなんだな」
「えー……」
ムーイが若干不満そうに恥ずかしそうにしている。
「結局引っ張って来やがったな。予想を外さない野郎だ」
健人が相変わらずの悪態を吐いた。
「責任は取ると言っただろ」
「そんなカエルの何処が気に入ったのか理解に苦しむぜ」
「前にも言ったがお前のイイ女と同じだから理解しろ」
「はいはい。大上健人だ。一応、知ってるか分からねえが雪一と同じく異世界の戦士って枠で人間だ。雪一はその中でも異常な方だからな」
「色々と余計な紹介ありがとう」
健人は色々と余計な説明をしてくるなー……エミロヴィアが理解出来るか怪しいぞ。
「ケントの兄貴なんだな。よろしくお願いするんだな」
お? 健人も兄貴枠、つまり男は兄貴って感じか。
「キュー」
「神獣様が決めた事ですので抗議はしませんが、よろしくお願いします。この子はラウで私はリイです」
俺が決めた事だからと念を押したリイがラウを抱えて紹介する。
「よろしくなんだな。ラウの坊ちゃんとリイの姉貴なんだな」
エミロヴィアは、ナイフを投げつけられた事とか気にする事無く一礼してラウにも軽く手を振ってから握手とばかりに手を差し出す。
「キュ」
その手をラウは握り返し、そのままエミロヴィアに引っ付いて登る。
「おっとっと危ないんだな」
落さない様にと心配そうに支える手つきをするエミロヴィアの様子にリイも警戒が若干緩んだようだ。
うん。健人達とは上手く馴染めそう。
ただー……一番の問題はムーイか。
迷宮種同士、奪い合いをする仲って事で仲良くするのは難しいのかな?
「……迷宮種・ムーフリスだぞ。みんなにはムーイって呼んで貰ってるんだぞ」
若干不機嫌そうにムーイがエミロヴィアに自己紹介をした。
俺の面目を潰さない様に配慮はしてくれたか。
「ムーイの兄貴なんだな」
「ムーイかムーフリス! 兄貴はイヤ」
強めの口調でムーイは返す……ちょっと刺々しいなぁ。
「わ、わかったんだな。ムーイ……なんだな」
うーん……やっぱりムーイの反応が良くない。
「頑張るんだな……できれば、オデを食べないでほしいんだな」
「いらない。欲しいほどじゃない」
ムーイはエミロヴィアをとても弱いと評価していたっけ。
わざわざ欲しがるほどの力の源を持ってないって言いたいのだろう。
「あんまり邪険にしないでやってくれスイートレッドベリィはエミロヴィアが出してくれたもんなんだからさ」
「えー……」
「ほ、欲しいなら出すんだな」
「今はいらない。ユキカズ、ごはん食べよう」
「はいはい」
ムーイとエミロヴィアの関係はちょっと気になるけど特に争うって事は無いようなので一安心って所かな?
そんな訳でみんなで食事を取ることにした。
エミロヴィアはここに来る前に食べさせたので食事の席で食べずに待機してる形だけどな。
まあ……虫をむしゃむしゃ食べるのはみんなの食事からしたら印象がよくないのを分っているっぽい。
ムーイにはスイートレッドベリィで作ったストロベリーアイスを提供したぞ。
エミロヴィアから貰った果物で作ったんだけど……普通に食べてくれてはいた。
「ユキカズ、美味しいぞ! アイスって奴だなー!」
「ああ、果物とミルクがあれば今なら結構種類多く作れるぞ」
「おー!」
「エミロヴィア、ほかに甘い果物とか出せるか?」
「味は分からないけど知ってる植物さんなら出せるんだな」
「んじゃ後でいろいろとお願いするかもな」
「任せてほしいんだな」
考えてみればエミロヴィアに頼めば植物系は結構自由に出して貰えるのは便利だ。
メープルシロップとかも用意出来るかもしれん。
「オレだって出せるぞ!」
「ムーイ、張り合わなくて良いから。そりゃムーイも知ったら変化させれるだろうけどな」
一応ムーイの能力は品質が少し落ちるけど知っているものへと変化させる訳だからエミロヴィアの植物から木の実を生成する能力の上位互換はできるだろう。
よく考えると……ムーイって迷宮種でも強い方なんだってわかるな。
「そ、そうなんだな。ムーイの方が凄いんだな」
「えっへん!」
「漫才でもしてんのかお前ら」
「別にしてねえよ」
ムーイがなんか張り合ってるだけだし。
気を使っているこっちの身になってくれ!
「お? そこにいるのは……」
「なんだな? あ、お久しぶりなんだな」
って何やら村人らしき奴にエミロヴィアが声をかけられている。
「お前もこの村に来たのかーあ、神獣様。自分はこいつに助けられたことがあるんですよ。無謀にも神様への謁見をするって言ってまして」
えっと……エミロヴィアと話をした人ってこいつ?
「前に笑ったんだな」
「そりゃそうだろ。一般の俺たちがそんな無謀なことを考えるなんて無茶だろ」
「あー……なんつーか……そいつが可笑しいのか、滑稽な状況だぜ」
「ええ……知らないというのは恐ろしいという事でしょうか。それとも彼がそれくらい弱いという事でしょうかね」
健人とリイが村人らしき奴の態度にあきれ気味に答える。
つまりあれだな。
迷宮種と思われてない。普通のグフロエンスって人種に思われてるんだ。
「悪いがー……エミロヴィアは迷宮種だぞ? 俺が保証する」
「え? またまたー。なあ?」
「本当なんだな。オデ、迷宮種なんだな」
頷くエミロヴィアに村人は本当? って感じで俺たちに顔を向ける。
なので頷く。
「いや、でもさ。こんな弱そうな奴が災害を起こす迷宮種だなんてありえないですよ」
「無害に等しいって気持ちはわかるがー……本当に迷宮種だ。な? ムーイ」
「そうだぞー」
さすがにムーイクラスとなるとおかしいってみんな認識するし、俺や健人が連れているからみんな警戒はしつつ受け入れてくれている。
そんなムーイにまで太鼓判をされて村人らしき奴の顔が引きつりながらエミロヴィアへと顔を向ける。
「そうだったのか」
「なんだな」
「なんであの時、手当してくれたんだ? 迷宮種って事なら殺したりするだろ、俺たちを獲物としか見てないって聞くぞ」
「虫さんなら食べたくなるけど困ってたから助けたんだな。ダメなんだな?」
「えっと……」
ま、その辺りはエミロヴィアの良い所って思う。
どうやらフレーディンもどうやら最近までは上手いこと人里に潜伏することが出来ていたらしい。
「俺が責任を取って連れて行くんで安心してくれ」
「わ、わかりました。お前、神獣様と行くのか……すげえな」
「凄くなんかないんだな。でも出来る限り頑張るんだな」
「頑張れよ」
って感じでエミロヴィアは話をしたって相手との雑談をしていたのだった。
食事をある程度終えた所でこれからどうするかの話をすることになった。
「んで雪一、これからお前はどうするつもりなんだ?」
「どうって……そろそろ目的地に向かって移動するんだよな。それまでの間にゲイザーに進化させておきたいが……」
ちょっと魔物を多めに狩って進化して進んで行きたいのはある。
時間というか期限があるわけでもないし。
「ま……ちょっとわき道に逸れるがトレジャーハントとしゃれ込んでも問題はねえよ。お前ら強いからな」
「危険区域へと出向くつもりですか」
健人の言葉にリイが察する。
この辺りで出没する魔物の処理を終えたので少し遠征して強めの魔物を倒しつつ宝さがしをするって事だな。





