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二百二十五話



 ……この野郎……よくも俺を殺しやがったな――。

 ――呪ってやる。お前をその身に入れなければ――。



「……」


 目が覚めた訳だけど。


「すー……んにゅ……」


 ムーイがなんか可愛い寝言を言いながら俺とラウを抱え込んでいた。

 するっと抱え込む手がゆるんで寝返りを打っていく。

 今なら抜け出しても問題は無さそう。

 ヒョイっと起き上がって窓から外を見る。

 ……あれから、3時間って所かな。

 スタミナ回復力向上のお陰で睡眠時間は随分と短くなってしまったもんだ。

 なんか寝心地悪かったなーフレーディンとカーラルジュが夢枕に立って俺への呪詛を吐いているような夢を見た。

 もしかしたら夢じゃ無く力の源に内包された意志とかその辺りが干渉してきてるとかなのかも知れないけど。

 大丈夫か? 俺。

 と、尻尾を伸ばしたり体の様子を確認する。

 寝たら無意識に暴れてましたってならないよな?


「すー……」

「きゅー……」


 ふふ、二人の寝顔なんだか、なんだか微笑ましく感じてしまうな。

 ムーイもなんだかんだ子供みたいなもんだし、可愛げあるもんな。

 そんな気持ちで寝入る二人を見ていたところで……う……エネルギーが限界寸前。

 窓を開けて飛び出し急いでターミナルポイントへ向かい、エネルギーを放出する。

 寝なすぎとか言うけど短時間で放出しないと行けないんだから長時間睡眠なんて出来ないだろうに。


「ふう……」


 ……まるで夜間でのトイレみたいな感覚が嫌だなー。

 かといって熱線で放出しようものなら腹の目玉が焼けるし……多少強くはなったけど厄介な体になったもんだ。

 ザヴィンの体を使って村で力仕事でもしておいた方が良かったか?

 いや、この放出をぶち込んだら分離してもしばらくザヴィンが生きてるだろ。それは避けなきゃ行けないな。


「……」


 健人やリイを探して話でもするか……明日、ムーイに食べさせるお菓子でも作って居るか。


「いや……」


 俺は翼を広げて村から飛び立った。

 闇夜の飛行って危なそうに見えるけど俺の場合は暗視も出来るし温度を目視も出来るのでそんなに困らない。

 魔物だからこそ出来る楽しみだな。やっぱり。

 夜風がなんだか気持ちが良いような気もする。

 と、俺は夜空の飛行を楽しみつつ……とある地点へと向かった。




「ギャギャ!」

「ギャギャギャ!」

「はぁ……はぁ……なんだな」


 タンジェリンオレンジディノイクスの群れが逃げるエミロヴィアをいたぶるように追いかける。

 植物を出して必死で逃げるエミロヴィアだったがタンジェリンオレンジディノイクスの群れはその草木の隙間を潜ってエミロヴィアに襲いかかっていた。

 全身の所々を裂傷を付けつつ、エミロヴィアは逃げている所で回り込まれ四方を囲まれていた。


「う……うう……」


 恐怖に顔を歪ませつつ、それでも負けないと食いしばって構えるエミロヴィアだったけれどタンジェリンオレンジディノイクスに二匹に腕を噛みつかれ、振りほどこうとしている所で押さえ込まれてしまった。


「うあああ……なんだ、な。あ、兄貴……うう」


 抵抗を見せていたエミロヴィアだったが、ふと糸が切れたように項垂れ、目を瞑った。


「ギャギャギャアア!」


 トドメだとばかりにタンジェリンオレンジディノイクスのリーダーが押さえ込まれたエミロヴィアの喉元目掛けて飛びかかったその時。

 バシュ! っと閃光と共にタンジェリンオレンジディノイクスのリーダーに強力な熱線がぶつかり跳ね飛ばされる。


「ギャギャ!?」


 シュタッと俺は着地してエミロヴィアの腕に噛みついているタンジェリンオレンジディノイクスに突撃。

 一匹を蹴り飛ばし、残りの一匹に魔眼を仕掛ける。


「ギャア!?」

「ギャ――」


 一匹も跳ね飛ばし、残りの一匹は噛むのを止めてふらふらと何も無い所を見つめて居た。


「おら! 喰らえ!」


 尻尾で跳ね飛ばした奴の体を掴んで、魔眼が効いて混乱している奴に叩きつける。

 トドメとばかりに少しばかり力を込めて熱線を放って仕留める。


「あ……」


 目を瞑っていたエミロヴィアが来るはずの痛みが無く、状況の変化に気付いて顔を上げる。


「何やってんだよお前は」


 フレーディンの墓標近くでの出来事だった訳だけど、なんかエミロヴィアが魔物に群がられて死にかかっていた。

 鈍くさいとでも言うのか……こんな時間まで隠れもせずに居たのかね。

 で、魔物に襲われていたとか。

 迷宮種って災害指定で普通の魔物より強いらしいんだがなー……それくらい、エミロヴィアは弱い迷宮種って事なんだろうけどさ。


「た、助かったんだな……ありがとうなんだな」

「まったく……俺はお前がこんな所で死ぬ為に助けた訳じゃ無いんだぞ?」


 エミロヴィアはまだフレーディンの事を引き摺ってるのは見て取れる訳だけど、こんな所じゃ考える暇も無いか。


「……」


 申し訳なさそうにしつつ、かといってどうしたら良いのか分からないと言った様子でエミロヴィアは顔を逸らしていた。

 ぐうう……っとエミロヴィアの方から音が聞こえた。


「……はぁ。ちゃんとご飯食べてるのか?」

「……」


 エミロヴィアは返事はせずに顔を横に振る。


「とりあえず適当に虫でも捕るか」


 飛んで火に入る夏の虫とばかりに俺は光線を放って虫を引き寄せる。

 他の魔物も呼び込みそうではあるけど昼間そこそこ掃除してるし、俺の気配で魔物も近寄ってこないだろう。

 来ても迎え撃てる程度だ。

 で、集まって来た虫……エミロヴィアからしたら美味しいか分からない弱そうな虫の魔物を持ってきて目の前に置く。


「とりあえず食べろ」

「でも……なんだな」

「食って落ち着け」


 こう……兵士だった頃にもあったなー町人のお悩み相談的な仕事。

 兵士の仕事は多岐に渡り、痴話喧嘩の仲裁なんかにもかり出される事があったのだ。

 その際に大事なのは食事をする事だ。

 色々と感情が渦巻いて居ても腹が減る。腹が減った状態だと碌な答えは出ないものと言う事でそういうときは食事を取らせるのが手だった。


「じゃあ……いただきますなんだな」


 恐る恐ると言った様子でエミロヴィアは舌を伸ばして俺の差し出した虫を食べる。

 モグモグと少しばかり頬張った後にエミロヴィアは飲み込んだようだ。


「ふう……なんだな」

「とりあえず、後は手当だな」


 回復魔法を施しているとエミロヴィアも自身の能力で植物から薬を作り出して手当を行った。

 後は……フレーディンの墓標の前に戻ってから焚き火をしてエミロヴィアを座らせる。


「……」


 沈黙が俺とエミロヴィアを支配していく。

 そりゃあ大事な兄貴の仇な訳だし、エミロヴィアからしたらあんまり居たい相手じゃ無いかも知れないが、俺も助けた責任がある。


「……オデは」


 黙っていたエミロヴィアが口を開いた。


「オデは……これからどうなるんだな?」

「どうなるって? 俺はお前を殺しに来たとでも思ってるのか?」


 迷宮種ってのは危険な魔物だって扱いでこの世界では警戒されていると言うのは分かって居る。

 だから俺や健人、ムーイが始末するとでも思って居るのだろうか?


「それは違うと……思うんだな」

「まあな」


 あくまで俺個人の好みでエミロヴィアは生かしたと言うのは否定のしようがない。

 だけどさ、あんな利用されるだけされて殺される現場なんて不快以外の何物でも無かったんだからしょうがないだろ。


「そうじゃなくて……オデはこれから、どうなってしまうんだな。わからないんだな」

「……」


 今までエミロヴィアはフレーディンという兄貴分を慕って色々と生きてきた。

 その兄貴であるフレーディンが正体を現して命の源である部分を奪い取られ、俺によって取り戻した。

 ただ助けただけじゃダメだってのは俺だってわかっている。


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