二十二話
「しかし……こんな僻地の部隊に重要機材の輸送任務とは……輸送部隊が足りなかったのか?」
ライラ上級騎士が何やら呟いていたが、この手の問題は会社とかじゃ日常なんじゃないかな?
クラスメイトが教えてくれたバイト時の苦労で聞いた事ある。
予定がドンドンずれ込むから至急人手を増やしてどうにかしたって話。
日本でも異世界でも、人のする事は変わらないんだな。
と、その時俺は特に疑問に思う事無く、街の観光をする事にした。
どこもかしこも人人人……露店も無数にあっていろんな商品が売られている。
えーっとここに来る前にライラ上級騎士や先輩(笑)のトーラビッヒ派閥の連中が詐欺等もあるから十分に注意し、検挙する話をしていたっけ。
まあ、ここじゃ兵士の中でも俺達下っ端には逮捕権限は無いらしい。
なんとも世知辛い話だ。
どちらにしても俺の立場は普通のファンタジー的に言うなら一般人に毛が生えた程度なんだろう。
この世界の冒険者って地味に権力あるっぽい。
もちろん、上級冒険者ならって事らしいけどね。
元兵士じゃ程度が知れる。正式な国民扱いって奴だね。
「フィリンはこの後、何か予定でもある?」
「生活必需品を補給しようかなと思ってますね。良かったらユキカズさん達も街を見て回りません?」
「ブー」
「良いね。じゃあ色々と見て回ろう」
そんなわけで新兵三人揃って街を見て回る。
フィリンが欲しがったのは歯ブラシだった。他に櫛や化粧液。
俺の方もボロボロになった下着と靴下などを買い足した。
ブルはー……補修用の布を買ったみたい。
「しかし……兵役中で悩むんだけど、武具って買った方が良いのかな?」
一応食費や泊る場所の代金は無い。貰える給料も雀の涙だ。
まあ、国から衣食住が支給されるから困らないけど。
なんでこんなに少ないのかと言うと、二年の兵役を終えた際に、高額な冒険者カードを買うために積み立てられているかららしい。
そんな薄給で武具なんて買ったらあっという間に貧乏街道まっしぐらだ。
ちなみに俺が先に冒険者になったらブルを準冒険者として勧誘しようかと思ってる。
兵役4年コースだと思うんだよね。ブルの立場だと。
……まだ三カ月半の新兵が何を言ってんだとも思うけどね。
「任務毎に武具は支給されますよ?」
「そうなんだけどさ」
一応、新兵であっても任務の際は武具が支給される。
兵士の剣と鎧ね。
ダンジョン前の見張りとかをする場合は鎧のほかに槍も支給されたっけ。
但し借り物なので仕事が終わったら返却するわけだけど。
武具の清掃やメンテナンスをさせられたから大分やり方が分かってる。
なんて言うか冒険者になってから必要な事の全てを教わっている気がする。
これだけやれば冒険者として人に迷惑を掛けないってのは理解できるね。
「ダンジョンに挑むとなるとどうなのかなーって思って」
「そうはいっても私達は任務で潜るだけなんで変わらないと思いますが……」
確かになー……。
「やっぱ正式に武具とかで頭を悩ませるのは冒険者になってからでいいのか」
「ブー」
サーベルウルフの牙とかはあくまで代用品だもんね。
冒険者になった後も、税金等を支払うし、活動には金がそこそこいるけど。
ま、そんな悩みは兵役中は考えなくて良いって事か。
「どっちにしても折角の大遠征なんだ。任務外の自由時間は定められた範囲なら出入り自由だし、トレジャーハントをしたいね」
「そうですね!」
場所が場所なので兵士は定められた範囲なら出入り自由になっている。
随分と時間がかかったけど、将来楽しむ事になる冒険を期待していきたい。
「とりあえず……いざって時用の薬とかを用意しておいた方が良いかもね」
「ブ」
ああ、ブルは既に準備してると言いたいのね。
確かに……出発前に作ったもんね。
「ブー」
そんな感じで街の一角を見終わった頃には日が大分傾いていた。
そろそろ宿泊している場所に戻って明日に備えるべきかもしれない。
何だかんだ言って先輩達の世話という名の風呂焚き、料理などをしないといけない。
ライラ上級騎士も本来の新兵がしなきゃいけない仕事に関しちゃ厳しいもんね。
トーラビッヒ達が街に出て用意した風呂に入らず、飯を食わなかったとしてもね。
なんて帰ろうと歩いていると…………おや?
トーラビッヒらしき奴を発見。
酒場っぽい所でエールを飲みながら誰かと話をしている。
あっちは俺達に気付いていないみたいだ。
何をしてるんだろ?
フィリンとブルも俺の視線に気づいてそっちの方へ顔を向ける。
自然と無口になってしまうな。
相手は……ローブを羽織っていてよくわからん。
妙に真剣と言うか食い入るようにトーラビッヒは相手の話を聞いている。
何を話しているのか分からないけど見つかったら面倒な事になりそうとは思いつつ近寄る。
「本当に、そこにあるのか?」
「ああ、間違いない。定期的にそこに出現する。それさえ手に入れれば魔法を覚える等――」
なんだ? 何を話しているんだ?
というところでバッとトーラビッヒとローブの奴が辺りを見渡している。
あぶね! 見てるのに気づかれたか。
俺は隠密なんて練習してないからな。
どちらにしてもこれ以上の接近や聞き耳を立てるのは難しいか。
何だかんだ言って活気があるし、雑踏の音で聞き取り辛い。
みんなでそれとなくその場から離れる。
「何を話しているんでしょう?」
「さあ……」
トーラビッヒって割と当たり前のように酒場でいろんな奴と話をしていたから特に不思議な光景じゃない。
「ライラ上級騎士に報告すべきでしょうか?」
「……うーん。酒場で情報収集と言う冒険者等からすると当たり前の事をしていたようにも見えなくもないからなぁ」
この程度の事は日常の範囲だ。
「そう……ですね。後は……竜騎兵とか魔導兵が来てるらしいから見学に行きたいです」
物珍しいからって様子でフィリンは言った。
田舎者が観光に見に行く感じかな?
「OK。ついでに見に行こう」
というわけで……新兵が近づける範囲で竜騎兵がいる区画へ見に行った。
空港の近くに金網があるみたいな感じで立ち入り禁止になっていたぜ。
遠くでドラゴンと二足歩行で歩く車みたいな物が見えたなぁ。
フィリンが目を輝かせて見ていた。
良い所の家の出らしいのに珍しいの?
それから少しばかり、待っていると見るのを中断してフィリンが振り向く。
「じゃあ、帰りましょう」
「もういいの?」
「はい……いつか、もっと近くで見られるようにがんばります」
「ブー」
「わかった」
俺達はトーラビッヒ部隊のために早めに宿泊施設に戻って準備をした。
まあ、予想通りアイツらは帰ってこなかった。
そのまま自分達で食べた。
風呂に関しちゃ同じ訓練校の連中が沸かしていたのでフィリンは利用していたっけ。
俺とブルは遠慮して行水で済ました。
なんて感じにダンジョン前の街での準備が整った。
ライラ上級騎士は俺達の先行部隊として安全な道の確保をするらしい。
上からの指示だそうだ。
本来、ライラ上級騎士がこの場にいる事自体が間違いなんだというのはなんとなく分かる。
それだけ偉い立場の人らしいしね。
トーラビッヒ隊のする事は、ただ言われた通りに積み荷を持っていくだけだ。
「ふむ……積み荷が来るのが遅れているな」
先発部隊としてライラ上級騎士が朝の会議の場で呟いた。
それから何やら道具を取り出す。
「緊急事態を想定しての脱出アイテムまで支給された。随分と待遇の良い任務が来たものだな」
ライラ上級騎士が道具をチェックしながら呟く。
ダンジョンでは緊急用の脱出アイテム、帰還のオイルタイマーというアイテムが支給された。
相当レアなアイテムだそうで、このアイテムをダンジョン内で使うと元々時空が歪んでいるダンジョンの空間を更に歪ませて入口へと弾き飛ばしてくれるんだとか。
コレは部隊のリーダーとしてトーラビッヒが所持する事になった。
「隊長に所持を指定……まあ、使う事は無いだろうが、隊長として誇れる行動をするのだぞ?」
ライラ上級騎士は微妙な顔付きでトーラビッヒに命じる。
「は! 国の期待に応えられるように努力する所存であります!」
一応敬礼してるけどトーラビッヒじゃ不安だよなぁ……。
その想いはライラ上級騎士も同様のようだ。
とはいえ、今回の依頼が来たのはライラ上級騎士にではなく、トーラビッヒの部隊なのでライラ上級騎士も決定には逆らえないといった様子だ。





