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二百十九話

「いってぇーーーー!!」


 フレーディンを倒したのを確認してホッとした直後、堪えきれない程の激痛に俺はそのまま転げ回ってしまった。

 うう……しまらない。

 人間だった頃、異世界の戦士の力で臨界に達した時の痛みには耐えきれたのに、痛みで転がって叫ぶとか情けなさ過ぎる。


「ユキカズ大丈夫か!?」


 ムーイが俺に駆け寄って抱き上げた。

 ラウは……どうやらおかしな状態は解けた様で成り行きを見守っていた様だ。

 今はリイに抱きかかえられている。


「ああああ……」


 エミロヴィアがフレーディンの亡骸を見つめて声を漏らす。

 それからエミロヴィアは俺へと視線を移した。

 今はとにかく痛みを堪えろ。


「酷い傷なんだな……こんな酷い傷を自分で付けるなんて」

「ぐ……こんなの慣れっこだ」

「ユキカズ無茶しすぎなんだぞ! アイツへのトドメはオレが刺しても良かった」


 そこはアレだ。

 出来ればの話なんだけどムーイとエミロヴィアが仲良く出来ないかと思って手を汚すのは俺がしたかったんだ。

 って言ったらムーイは怒るかな?


「大丈夫大丈夫、この程度すぐに再生するから……う……」


 傷が深くて中々回復してかない。

 するとエミロヴィアが手をかざし、薬草が生えて折り重なりしずくとなって俺の焼けただれた腹部の目に落ち染みこんで行く。




 スーッと痛みが引いた。

 痛み止めの薬草の汁って感じだろう。回復効果も多少あるのか傷も大分治ってきた。

 完治には遠いけど……我慢だ。


「ありがとう。エミロヴィア」

「ど、どういたしましてなんだな」


 立ち上がった俺とエミロヴィアの間に沈黙が流れる。

 健人はヤレヤレと傍観していて、ムーイも事態を見守っているようだ。

 ラウとリイも気になるが……エミロヴィアとは話をしておかないと行けないよな。

 俺はフレーディンの亡骸へと視線を向ける。


「恨んで良い。なんであろうとお前にとって大切な奴だったんだろう?」


 エミロヴィアとの付き合いは浅いが、少なくともフレーディンにできる限り話し合いを望んで居た。

 ほぼ殺されたに等しい状況でも、悲しんでいたし形勢が逆転しても敵意は持たない奴だ。


「なん……だな……」


 エミロヴィアはフレーディンの亡骸に近づきすがりつくように触れる。


「兄貴……なんで、今までの出来事は本当にオデを利用する為だったんだな……?」

「……」


 全てフレーディンの口から放たれた言葉であり、それが真実であるのは誰の目にも明らかだ。

 これで実はエミロヴィアの事を考えて一芝居打って、敢えてやられたとかなら……罪悪感が今よりも遙かに強かっただろう。

 けれど……意味も無くラウを誘拐し、エミロヴィアを盾にして迷宮種を倒して力を独占、俺を獲物として狙いつつムーイまで殺そうと画策して、しかも弱ったエミロヴィアにトドメを刺したのだから役満だ。

 降りかかる火の粉は払わなきゃ行けない。

 そんな酷い奴だったとしても、エミロヴィアからしたら大切な仲間だった。

 共感できない訳じゃ無い。

 もしもブルが腹黒で悪人だったとしても、俺の為に頑張ってくれたという出来事はある。

 そんな思い出がエミロヴィアには間違い無くあるのだ。

 信じたいという思いは消えない。


「ユキカズ……ど、どうしたら良いんだ?」


 ムーイが困った様な顔で俺に聞いてくる。

 まあ、ムーイからしたら完全に他人でラウを利用した悪人でしかない相手なので同情はできないよな。


「そっとしてあげてやりたい所ではあるが……」


 フレーディンもエミロヴィアも迷宮種って厄介な魔物であるのは変わりようがない。

 できればエミロヴィアには時間を与えてあげていたいのだけどそうも言ってられない所がある。


「エミロヴィア」

「なんだな……?」


 悲しみに満ちた瞳をエミロヴィアは俺に向ける。


「非情な事を言うが、迷宮種の力の源をこのまま放置するのは危険だ。時間が必要なのは分かって居るけどせめて力の源を俺が取り出して良いか?」

「……兄貴を倒したのはユキカズなんだな。だからユキカズが手に入れるのは当たり前なんだな」


 絞り出すようにエミロヴィアはそう告げた。

 弱肉強食の掟に従って強者は全てを手にする。エミロヴィアはそう、答えた。


「わかった」


 俺はフレーディンの亡骸に手を入れて力の源を全部抜き取る。

 ここは勝者の権利としていただかねばならない。


「ムーイ」

「オレはいらない」


 迷宮種の力の源は同じ迷宮種が奪い合う。

 源を得ることでパワーアップする性質があるようだからムーイに渡そうとした所でムーイがムッとした態度で拒否をする。


「ラウを人質にしてユキカズを殺そうとした奴の力なんて要らない」

「いや……あのな? ムーイ」


 エミロヴィアの事は考えろというのは酷なのは分かるけどな?


「ユキカズが持ってて! オレいらない!」


 不機嫌なムーイに拒否されてしまった。

 俺では力の源なんて使えないんだが……かといってこのまま放置して良い代物では無さそうなのが持っていると伝わってくる。


「俺が持って良いモノなのか?」


 こう……俺ってカーラルジュを取り込んで今に至る訳だけど正確には迷宮種では無い。

 取り込んだ部位が僅かに反応してフレーディンの持っていた力の源を体内に収納する事は出来た。

 ……んー、エネルギーの総量が増えたような気はしない。

 やはり俺の体は迷宮種の力を上手く変換できては居ない様だ。


「……ユキカズなんだな」

「なんだ?」

「兄貴から得るものは終わったんだな?」

「……ああ」

「わかったんだな」


 エミロヴィアは俺から了承を得た後、そのままフレーディンの亡骸の前で腰掛ける。


「これから……兄貴をどうしたら、良いんだな……兄貴……教えて欲しいんだな」


 フレーディンの亡骸は答えない。

 ムーイもそうだったけど、迷宮種は無知な事が多い。

 大切な相手が死なれたら、どうしたら良いのか? という問いへの答えを魔物の感覚でしか知らないけど、それ以外に何ができるのかを考えてしまうんだ。


「……あのな。大事な相手なら、この後お墓を作るんだぞ。他の魔物とかに取られないように埋めるんだぞ」


 ムーイがここでエミロヴィアに教える。

 ラウの元々居た村での事から助言をしているのだろう。


「そうなんだな。オハカって奴を作るんだな」

「他に……皮を剥いで装備とかに使ったりするけどユキカズ、きっと違うよな?」

「そ、そうだな」


 うん。魔物の処理としては間違って無いのは否定しない。

 カーラルジュの皮とか未だに俺達は持ってるもんな!


「どっちが良い……んだな?」


 う……凄い判断に悩む質問だ。

 人間の道徳で考えるなら埋葬が当たり前だ。

 けど魔物、仮に愛着のある相棒的なペットが死んだ場合の狩人とかだったら死しても共にって事で皮を装備に使ったりもあり得る。

 フレーディンはエミロヴィアを利用する相手として見てたけど、エミロヴィアはフレーディンを大事に思って居た。

 ならば生き残ったエミロヴィアがフレーディンの亡骸を何かに利用したいと考えたって駄目ではない。

 けれどこう……どれが正しいって答えはない。

 敢えて言うなら故人を惜しむものの考えでしかないだろう。


「エミロヴィア、それはお前が決める事だ。勝者の俺が奪った力の源の様にな?」

「……わかったんだな。ユキカズ、兄貴みたいに教えてくれるんだな」


 少しだけ笑いつつエミロヴィアはフレーディンの亡骸を植物操作をして地面へと埋めていった。

 エミロヴィアの力で育った植物は墓標として誇るように大きく一本の木として伸びた。


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