二百十七話
「お前は……なんで力の源を持ってるんだな」
「そこなんだがなー……まあ、言う必要は無かったんだが、色々とあってたぶん、お前がムーイに会う前に感じて居た凄い気配を宿していた奴から奪ったもんだ」
「なんだな!? そっちの凄い奴じゃなくてお前、ユキ……カズの方が化け物なんだなー! そんな化け物が俺のお腹に入って体を操ってるんだな!?」
いやーその驚きはかなり想像通り、ムーイよりもヤバイ奴に寄生されてるって事に驚かれてしまってるなぁ。
暴れようとしても今や俺がエミロヴィアの体を掌握してるのでエミロヴィアは抵抗出来ない。
「エミロヴィア、さっきも言ったがお前の兄貴分だったフレーディンはお前を騙される奴が悪いと吐き捨てたが、俺はそうは思わない。俺はお前のその素直な所、誰かを心配できる所は美点だと、生きていて欲しいと思う長所なんだ。だからこうして無理矢理生かした」
異常事態に認識が追いついてエミロヴィアは悲しげな表情でフレーディンを見つめる。
今まで慕って居た裏切った兄貴と、体に寄生して自身を褒める化け物では複雑な心境だろう。
「なんだな……オデ……オデをユキ、カズが認めてくれるんだな?」
「ああ……お前は立派に頑張った。そこだけは例えお前自身であっても汚すことを、俺は許さない。お前の夢だって応援してるって言ったろ?」
「そ、そうなんだな……う……うう……」
エミロヴィアは嗚咽を漏らし始める。悲しませてしまっているよな。
死なないんだと安堵してくれてほしい。
「ここから先は身勝手なエゴで、これからやる事もお前に何の責任も無い。全部俺の所為だ」
本当はムーイみたいにエミロヴィアが自らの意志でフレーディンに見返して欲しいけれど、それは俺の身勝手な期待だ。
何より、俺自身が奴を殴り飛ばさないと満足出来ない。
俺はフレーディンを指さして言い切る。
「どれだけ力を重ねても、お前なんてエミロヴィアに比べたら如何に小物であるか、このエミロヴィアの体で証明してやる! 掛かってきやがれ! 信用に背いた報いを受けろ」
「ほざけ! この獲物如きがぁあああああああああああああ! 雑魚のエミロヴィアが俺に勝てるわけねえだろぉおおおお!」
俺の挑発を受けてフレーディンが雄叫びを上げた。
「という訳で、ムーイ、健人、リイ。お前達は下がってろ。コイツは俺がやる」
「ったく、相変わらず妙なこだわりを持ってる奴だぜお前はよ。何か気に入ってるみてーだけど、俺には理解できねえぜ」
「ふん。健人、お前にわかりやすく言えばエミロヴィアはな? おバカだけど素直で献身的なイイ女なんだよ。それが信用してた兄貴に裏切られて捨てられた現場に遭遇したようなもんだ」
「は、抜かしやがる。でも言いたい事は分かった。やりたいだけやりやがれ。しっかりてめえのケツはてめえで拭け」
って健人には皮肉で返されてしまった。
「ユキカズ……」
ムーイはどう答えたら良いのか分からないって顔をしていた。
「って訳だ。俺はなムーイ。お前の信頼に応えるためにもここで見捨てる訳にはいかないんだ。お前に散々助けて貰ったからさ。誇れる自分でありたいんだ」
「……オレ、ユキカズの事凄いとずっと思ってるし、今も変わらないぞ」
「そうあり続けたいもんだ。しっかりとラウを、みんなで守っててくれ」
「わかったぞ」
で、リイの方に視線を向ける。
「神獣の申し子様の命ずるままに……慈悲深さに感服します」
「そんなもんじゃない。俺の身勝手なエゴだ」
慈悲深くなんか全く無い。だって……エミロヴィアの事を勝手に考えて死なない様に体を乗っ取っていないとフレーディンと戦えないんだから。
「まずはコレでも喰らえ!」
っと、フレーディンは指笛を吹くとヴェザーマウス達が現われてこっちに群がろうと走ってくる。
おうおう。間抜けに来るもんだ。
俺は腹部の魔眼を大きく見開いてヴェザーマウス達を睨み付ける。
「「「ヂュ!?」」」
それだけでヴェザーマウス達はそのばで動く事が出来ず固まる。
「あ?」
視線さえ合えば雑魚ならあっさりと動きが止められんだよ。
「お前が掛かってこい。雄叫び上げてるだけじゃなくてよ」
さて……と、俺はムーイに竜騎兵用の剣を寄越すように手で合図を送り、ムーイが俺に投げ渡すので掴む。
エミロヴィアの体は……まあ、迷宮種なだけあって頑丈ではあるが、ムーイとは感覚が色々と違う。
ムーイと同じような運用をしたらヤバイだろうな。
マシュマロみたいで切ったってすぐにくっつくムーイと異なり、エミロヴィアはカエルの獣人みたいな体をしてる。
傷の手当ては出来ても潰されたり引き裂かれたりしたら再生に手間取る。
その点で考えても基礎能力でムーイは相当恵まれてるんだなぁ……とエミロヴィア達の感覚から納得出来てしまう。
「ほざけ!」
フレーディンが地面を踏みしめると大きな蔓が無数に生えて俺に向かって伸びてくる。
エミロヴィアの能力をそのまま使いやがったな。
どう対処するか、竜騎兵用の剣で考える。
俺のエミロヴィアの能力を対抗策で出す事は出来ない。
やるにはエミロヴィアの意識を乗っ取って命ずるプロセスが必要だけど、俺はムーイの時と同様、そんな真似をしたくない。
だから俺が固有に持つ能力で対処をするしかない。
「なん――だな!」
フレーディンの出した蔓を遮るようにエミロヴィアが手をかざすと地面から植物が伸びる。
その植物はトゲに力強く覆われているようだ。
「兄貴……攻撃するの止めて欲しいんだな。オデ……今、オデを助けようとしてくれてるユキカズに申し訳ないんだな。お願いなんだな! 兄貴、もっと良い方法があると思うんだな!」
だから、もう戦いをやめようとエミロヴィアがフレーディンに語りかける。
「うるせえ! 俺に命令すんじゃねえよ。折角お前の力も手に入れたのにまさかそんな力を持ってる奴から力を与えられるなんてよ! 力を得たからって調子にのんな!」
へへ……っとフレーディンは嘲笑いながら構えて突撃してくる。
「そっちに居る奴はともかく、エミロヴィアとお前の力はまだ俺の方が上、そんな雑魚の体で俺に勝てると思うとか笑わせてくれるぜ! 新しく手にしたこの力を受けて見やがれ!」
っと、フレーディンの腕の筋肉が盛り上がり、力強くツメを出して切り裂かんとしてくる。
それはそこに転がっているザヴィンの能力と言った所か。
ムーイに始まり、カーラルジュ、エミロヴィアが各々変わった能力を所持して居るが……パッと感覚で判断すると剛力とか切り裂く力とかそんなシンプルな奴だろうか。
で、フレーディンの力の源の総量はムーイ以下で俺……カーラルジュ以上との分析をしてるんだな。
「……舐められたもんだな」
戦闘の申し子のムーイによる天才的な動きとか、ムーイの力と合算のカーラルジュ、異世界の戦士の力を振りかざす藤平、トーラビッヒのような圧倒的な格上力によるものならともかく、ほんの少し能力が上程度でしかも直線的な攻撃を俺が対処出来ないと思ったか!
フレーディンの攻撃を受け止める……訳はなく目を見開いて紙一重で避けつつ、流れるようにアクセルエアをフレーディンの背中にたたき込む。
「なんだな!? オデの体じゃないみたいなんだなぁあ」
「ぐあ!? な、なんだと!?」
「どんだけ力を積んだとしても、そんな攻撃じゃ勝てる相手も勝てねえよ。獣のそれじゃないか」
猫系の魔物の攻撃パターンとほぼ同じ挙動、ステップとかも適度に挟んで来ているけど、間合いから一気に詰めたり相手の視界の外から攻めようとする動きに、対処が出来ない訳では無かった。
エミロヴィアの体は俺の体から流れるエネルギーで動いて居て、ムーイよりも鈍重だけど見切れればどうにかなる。





