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二百十六話


「ユキカズ……お前もユキカズが目的だったのか!」


 カーラルジュの時と状況が重なる。

 迷宮種ってのは素直過ぎる奴かとんでもないクズ野郎のどっちかしかいないのか?


「そりゃあそうに決まってんだろ。そこの極上の獲物を一目見たときからな」


 極上の獲物……?

 エミロヴィアから聞いた話にフレーディンが力の源を入手した際に食べれるものが増えたって言ってた。


「お前……増えた源で得られる食事は」

「おう。ガキが美味そうでしょうがねえんだよ! あそこの村にいるガキも少しずつ頂いてやるぜ!」


 ――やっぱりそうか。

 エミロヴィア相手に俺がいたずらにやった食性変化を変化無しでフレーディンは俺から感じて居たんだ。

 極上の獲物って認識で。

 俺の今の姿は聖魔獣ラビュリントスイーター(幼体)、つまり俺は子供食いの食性を持つフレーディンにとって高級食材って事なんだろう。

 とんだ悪食で迷惑な話だ。

 ピクリとムーイが拳を握った直後、フレーディンはムーイ達へと視線を向ける。俺は取るに足らないとでも?


「下手に動くとこの赤ん坊の首がどうなるか保証出来ないぜ?」

「く……卑怯な奴」

「ゲスが……」

「……」


 ムーイをはじめとした健人、リイがラウを人質にされて下手に動く訳にはいかなくなってしまっている。

 ここまで計算ずくで俺達を呼び出したのか?

 カーラルジュに匹敵する狡猾な野郎で反吐が出る。

 いや……カーラルジュ以上に俺は苛立ちを覚える。

 それは異世界の戦士として俺達を呼び出し、力を奪い取って異形化させたあの野郎を相手にした時と同じくらいだ。

 俺は……誰かの信用を裏切り、利用するだけ利用して嘲笑い自らの強化しか考えない奴が心の底から……大嫌いだ!

 まだカーラルジュの方が手段は卑怯だけどマシだ。

 アイツは卑怯者ではあるが仲間を裏切るとかはしていない。


「オデ……おで……あああ……騙されて……こんな……お前、その……ごめんなさいなんだな。悪い事をしたから……神様からバチが当たったんだな……ゲホ……」


 エミロヴィアの声が徐々に弱まってくる。

 このままだとムーイの時と同じように死ぬ……。

 そして……エミロヴィアは俺へと謝った。

 ムーイが死んだあの時を思い出す。

 カーラルジュ不意打ちを受け、俺が人質にされ、ムーイの力の源が奪われたあの時を。

 俺は……また、謝られながら誰かに死なれるのか?

 イヤだ。

 死なれるのはごめんだ。ムーイの時は死なれてしまって……それがイヤでどうにかしようと知恵を巡らせてどうにかしたけど、本当はどうにかなっているのか調べていない。

 ムーイが、本当にムーイなのか、俺の思い描く身勝手な願いで作り上げたムーイなのか。

 あの後悔は二度とごめんなんだ。

 異世界の戦士として、みんなの末路を見た。

 俺は……後悔を二度としたくない。

 誰かの為に命を賭けて戦える、親友のように、考えずに動いて後悔しない生き方をしたいんだ!

 だからこれは何度も犯す俺の身勝手な選択だ。

 それで神に裁かれるなら、人間ではなく化け物と言われるのなら幾らだって罪を犯してやる!


「神様? 悪いが俺はその神様って奴に文句を言いに来てる訳だし、バチだって言うんだったらクソ食らえだ」

「な、なんだ……な?」

「騙される方が悪い? 騙した奴が悪いに決まってんだろ。騙されるってのはその分、誰かを信じたって事だ。エミロヴィア……ムーイにも言った事があるが、俺を恨んで良い。感謝なんて求めない。これは……俺のエゴだ」


 ぶわっと尻尾が膨れ上がり、俺はエミロヴィアに覆い被さる。


「な、何を……うぐう――」


 俺はエミロヴィアの胸の穴を開き……体をねじ込ませるのだった。






「さーて、後はお前を――!?」


 フレーディンがラウを人質に動けないムーイに致命的な一撃を与えようと近づいた瞬間。

 ドスゥ! っとフレーディンの腹部目掛けて重たい拳が突き刺さり、同時に抱えられたラウが奪い取られる。

 ズザザザ――っとフレーディンが大きく土煙を上げて退かれた。


「な、なんだ!?」


 そこでユラアァ……っと隠蔽状態が解いて俺は姿を現した。

 エミロヴィアに寄生して体を操ってすぐに隠蔽状態になり、急いで接近。

 殴りつけてラウを奪還したが思いのほか上手く行ったもんだ。

 今の俺の姿はベースはエミロヴィアだけど上半身は体毛が生え、尻尾が二本生えている。

 腹部には目玉が見開き……控えめに言って異形の存在だよな。


「……これ、一体どうなってんだな!?」


 で、件のエミロヴィアも自身の体の状態は把握出来ていない。

 何せ俺が体を操っているんだから。


「ムーイ、ラウを」

「キュー……あー……」


 ぼんやりと放心状態のラウを唖然としているムーイに手渡す。

 それから俺はエミロヴィアの体の状態を把握に努める。

 手を開いたり閉じたりしてと……うん。思った以上に馴染むような気がするな。

 パラサイトに進化した時、ムーイの体に馴染むのに随分と時間が掛かったが今では一瞬か。

 成長とでも言うのかね。


「ユ、ユキカズ……なのか?」

「ああ。エミロヴィアの体に寄生させて貰った。個人的に死なれるのがイヤだったからな」

「オデ……なんで? 死ぬはずだったのに……お前は一体……それになんでこんな力が溢れるんだな」

「ユキカズ、ユキカズとエミロヴィアから今、迷宮種の気配が凄く出てるぞ。カーラルジュと同じくらい」


 ムーイの説明に考える。

 うーん……もしかして、俺のスキルになっている神迷コアって奴だろうか?

 こう、ムーイの話だと聖魔獣ラビュリントスイーターに進化した際にカーラルジュの気配や力の源が変質して迷宮種としての気配が感じられないと言っていたけど、適した寄生先、器があると変質した力の源が反応して出力が強まるみたいな感じ。

 俺単体では迷宮種の力の源の性能を引き出しきれず体も負荷に耐えきれないって事か……。

 だけどこうして寄生した時の負荷はー……ムーイの体に無理に寄生して生かしていた時の辛さは無い。

 大分楽に操る事が出来る。


「なんだお前は!?」

「なんだって……分かってるだろ? さっきまで話をしていた獲物で、今はエミロヴィアの体に宿ってこうしてお前と相対してんだよ」


 フレーディン、俺はお前が嫌いだ。

 なんで嫌いなのかってそれは仲間、自身を信じて付いてきた奴を容易く利用して利用価値がなくなったと判断したらすぐに切り捨てた所だ。


「ユ、ユキカズ。凄く怒ってる?」


 ムーイが苛立つ俺に恐る恐ると言った様子で尋ねてくる。

 おいおい。怯えすぎだろ。


「わからないのか? コイツを俺は許しちゃ行けないんだ。じゃないとムーイ、俺はお前を利用出来るだけ利用して最後は殺して捨てるってのを認めるような物……それだけは認める訳にはいかない!」


 俺は今までいろんな人たちに助けられてここまで来た。

 右も左も分からない所で、初めての魔物との戦闘で同僚のブルに助けられ、ライラ教官から色々と教わり、フィリンに迷宮内で助けられた。

 ブルに至っては困った時に非常に頼りにしていた位で、魔物になってしまった後もムーイに沢山助けて貰い、頼り切ってきた。

 それは今でも変わらない。

 健気に俺に聞いて回る……いわばムーイの兄貴分をしている俺からして、弟分の信用を裏切るのは……許せない。

 エミロヴィアを利用するだけ利用して惨たらしく心を傷つけて殺すなんて……見過ごせないんだ。


「お前……いや、その……なんだな」

「ああ、名前を名乗って無かったな。エミロヴィア。俺の名前は雪一、兎束雪一って名前の……身勝手な介入者だ」

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