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二百十五話


「わかんなくても見つける!」

「そりゃ結構……んじゃ急いでアイツらを探すか、みんな。村の近くで待機させてるマンイータージャイアントグリズリーに乗ってくれ」

「あいよ」

「おう!」

「はい!」


 って事で俺達は急いで村から出てフレーディンとエミロヴィアを探すために出発した。

 案の定というか村の外には見覚えの無い足跡が残っていた。

 ついでに無数のネズミの足跡。

 確定だな。

 村の子供は無視してラウだけ狙うとか露骨にも程がある。

 さて……匂いで追うか、それともムーイの気配察知で追うか。


「ムーイ、何処にアイツら居るかわかるか?」

「んーとあっちに何か複数気配がある! きっとあっち!」

「OK」


 ムーイの指し示す方角に道なりに進んで行く。

 昨日調査した範囲の山奥だな。

 調査済みだけど大型の魔物の体で進むとまた感覚が異なるな。

 コース取りを間違えると大回りになりそうだ。


「ん……なんだ? なんか三つ気配がするぞ? 一箇所にいる」

「迷宮種同士が力を合わせて結託してる……って所か?」

「勝てねえから同盟を組んでムーイを待ち受けるってか?」

「無くは無い可能性だけど、ムーイって奴からするとそんな脅威に思われてるって事か」


 カーラルジュ然り、ムーイがそこまで上位の迷宮種って事なのかね。

 こんな悪巧みが出来るのはエミロヴィアは不可能だろう。

 どちらにしても同罪、心置きなく処分するしかない。

 ……ムーイみたいで可愛い所あるなと思っていたのに残念だ……。

 と、ムーイの示す方向へと向かった所で……。


「……三つの気配の内、一つが消えてもう一つが大きくなった。たぶん、フレーディンって奴の気配」


 迷宮種が一匹減ってフレーディンが強化された?

 それって……と、進んだ所で俺は言葉を失う事になった。

 元々はラウが何処にいるのかを見つけて人質を救出してから主犯共へと突撃する手はずだったけど、そんな作戦を実行しようという考えが吹っ飛んでしまった。


「あ……が――」


 大きな戦闘の爪痕が発生したと思わしき山中の一角で、フレーディンらしき奴がエミロヴィアの胸に腕をねじ込ませている光景に遭遇したのだ。

 ヴェザーマウスの死体も無数に転がっており、激戦だったのが分かる。

 エミロヴィアは全身傷だらけで、何があったのかと思って確認すると後方に迷宮種ザヴィンって言う……サイのような姿をした奴が絶命していた。

 逆にフレーディンらしき奴は無傷に等しく前回会った時よりも更に体付きが良くなって居る。

 僅か数日でここまで変化するとなると……状況的に見てエミロヴィアがザヴィンの攻撃をその身でもって耐え、フレーディンが隙を突いてザヴィンから力の源を奪い取って勝利した……という所か。

 ムーイが察知したのはザヴィンを仕留めた瞬間か。

 だが、なんでフレーディンはエミロヴィアにまで襲いかかってんだ?


「あ、兄貴……な、なんで……」

「なんでって決まってんだろ。このままじゃ勝てねえから勝ち目を増やすためにお前からも力の源を頂くだけだ」


 ズルゥ! っとエミロヴィアの力の源を胸から引きずり出す。

 ドクンドクンと脈動する魔石とも異なる器官が露わになる。


「兄貴……やめ、やめて……それ、取られたらオデ……死んじゃう」

「やめるわけないだろ馬鹿か」


 ブチ……っと、エミロヴィアと繋がっている力の源の管が一本切れる。

 まだ数本繋がっているが引き千切られるのも時間の問題だ。


「そんな……兄貴……オデ、兄貴と一緒に頑張って……神様に会って願いを……もっと、もっと頑張るから……許して……」


 それは命乞いの様で……許しを請う願い。


「ああ? んな事話したなー悪いが最初から俺だけで行くつもりだったんだよ。ったく、頭数が多い方が有利だからお前には色々と教えて駒として使っていたが、ここまで力を付けたらもう要らねえ。最後まで俺の役に立てて良かったな」


 スタッと健人とリイ、ムーイが俺から降りて臨戦態勢に入る。


「んじゃ、別の獲物が来ちまったみたいだし、さっさとやらねえとな! どうだこの俺の強さはよ!」


 ブン! っとフレーディンは力の源が付いたままのエミロヴィアの管を引き千切って俺達の方へと投げ捨てる。


「アギャ――」

「おい! しっかりしろ!」


 俺は投げ捨てられたエミロヴィアを受け止めてマンイータージャイアントグリズリーの手に置き、分離して本体で近づいて声を掛ける。


「ううう……兄貴……兄貴ぃ……」


 力の源が奪われて虫の息のエミロヴィアが嗚咽を漏らしながら自らの力の源と兄貴分であるフレーディンを涙目で見つめる。

 フレーディンはエミロヴィアから奪い取った力の源を最高級デザートを目の前にしたかのような表情で、見せつけるかのように口に流し込んで飲み下す。


「ああ……」


 自らの心臓部、力の源を目の前で食われたエミロヴィアが絶望の表情を浮かべる。


「んー……エミロヴィア、お前……最高に驚いてくれてるじゃねえか。マジ二度美味しい奴だぜ。俺の糧となって願いを叶えて貰おうじゃねえか。これからはずっと一緒だぜ? 力だけだがなぁああ」


 ベロォっと見せつけるようにフレーディンは言い切った。

 その表情に俺の中にある怒りの炎がどんどん燃え上がって行くのを感じる。


「おい……こいつは、エミロヴィアはお前の為に頑張ってきたんだろう? どうしてこんな真似をするんだ」


 俺の予想はラウを誘拐したフレーディン達を相手に戦う事になるって展開だった。

 戦闘にはエミロヴィアも混ざっていて、心苦しいが戦って倒す……命を賭けた決闘の果ての終わりであるはずだったのだ。

 だが実際は……これだ。予想外というより別の感情が浮かんで来てしまう。

 チュパチュパとフレーディンはエミロヴィアの力の源を握っていた指をしゃぶってから俺へと視線を向けた。


「俺の為? すっげー馬鹿だけど傷の手当てとか街の連中から情報収集するのに便利な薬の確保とかする便利な奴だったぜ。ただ殺して奪った場合、薬作りが疲れるだろ。俺が痛い思いしないように盾にもなるし、いざって時まで利用してやったに過ぎねえに決まってるだろ」


 利用するために色々と教え、戦闘では盾代わりに美味しいところだけ頂いたと……そんで利用価値が無くなって、俺達が近づいて来たから収穫とばかりに戦闘で弱って居るエミロヴィアから力の源を奪い取ったと……。

 俺は怒りから全身の毛が逆立つのを感じる。

 ああ、俺の体は感情をこんな風に現すように出来てるのか。と、冷静な部分が分析しているがそれどころじゃ無い。


「ゲホ……ゲッホ……」


 咳き込むエミロヴィアに意識を向ける。


「ううう……うう……オデ、おで……一生懸命、頑張ったのに……兄貴に褒めて貰えると思ったのに……」


 頑張った結果がこれは報われない。とんでもない理不尽な事だ。


「エミロヴィア、お前に教えてやるよ。騙される奴が悪いんだ」

「ふざけるなぁああああ!」


 全身の毛が逆立つ。

 何が騙される奴が悪いだ。相手を利用するだけ利用して、美味しいところだけ頂いていただけだろ。

 エミロヴィアの話だとザヴィン以外の迷宮種と相手した時もエミロヴィアと力を合わせて勝ったんだ。

 どうやら作戦は似たような扱いだったというのは想像に容易い。


「さて……これで、そこに居る奴と俺は同等……いや、もっと力を増した、メインディッシュと行くか」


 と、フレーディンはムーイへと視線を向ける。

 ムーイは非常に不快そうに顔を歪ませて竜騎兵用の剣を強く握りしめる。


「お前凄い不愉快な奴だぞ……」

「おっと、お前等。下手に動かねえ方が身のためだぜ? いやー目当ての美味そうな奴を呼び出そうって思ったけど引っかからずこっちが来やがったけど、使わせて貰うぜ?」


 サッとフレーディンが手を上げると茂みからヴェザーマウスたちが現われ、様子のおかしい視点の定まらないラウを運んで来て人質にする。

 で、目当ての美味そうなって所で俺に視線が向かっていた。


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