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二十一話

 そんなこんなで一週間過ぎた頃……大規模遠征の準備として国中の隊が集まる事になった。

 国が用意した大量の馬車で目的地へと向かう事になる。


 出発前に、遠征に出る兵士達が選定される。

 まあ元々戦う気が無いギルドの管理や受付担当、武器屋や酒場の給仕等の補佐系の連中は最初から不参加だ。

 遠征に行って兵士達が全員留守では治安にも関わるしな。

 一応志願制だそうだ。


 この大遠征で新兵や弱い連中が行うのは冒険者や騎士、戦闘が得意な兵士達のサポートだ。

 どんな任務が多いのかと言うと、大人数で攻略するダンジョンの浅い階層の調査と物資調達。

 中階層は冒険者達に一任で、国のトップは深い階層の探索なんだとか。

 一度その大規模ダンジョン前の街でいろんな部隊が合流する事になる。


 とまあ前置きは置いておいて、俺達は志願して当然の事ながらダンジョンへと行く事になった。

 地獄のような日々がやっと明けたって感じだ。

 そんな行きの馬車……と言うか乗り物に乗って移動をしようとしている最中の事。


 一応、キャラバンと言うかダンジョン前の基地へと移動する際には無数の冒険者も一緒に乗り物に乗って移動する。

 そっちの方が何か不測の事態が起こった際に対処しやすくなるからのようだ。

 何だかんだ危険な魔物が通る地域を横切るらしい。

 ダンジョンまでの道も厳重に検問が敷かれていて安易に侵入する事はできない。

 それだけ大きくて危険なダンジョンなんだろう。


「はぁ!? なんでダメなんだよ!」


 ここで聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「ふざけるなよ! 俺は金を払ってこのチケットを買ったってのに乗せねーっつーのかよ!」

「ですから、ムーフリス大迷宮に入る際には冒険者カードの提示が必要でして、このようなチケットで行けるなんて話はございません。観光地ではないんですよ?」


 と、一般冒険者用の馬車への搭乗の許可が降りない事にクレームを付けているっぽいな。


「だが、ギルドに居た奴がこのチケットがあれば乗れるって売ってたんだ! 確認しろって言ってんだろ!」

「えー……おそらく詐欺の類かと思いますので被害届を最寄りのギルドに提出していただけるとよろしいかと存じます。案内員を派遣しましょう」

「ふざけるんじゃねえよ! 異世界地雷十カ条! 融通の利かない登場人物! こっちは詐欺の被害者だぞ! 連れていけっての!」

「許可の無い方を危険なダンジョンに連れていく事はできません」

「死ねよ! クソ野郎共!」


 このシャウトは間違いない。藤平だ。

 ははは、トーラビッヒのブラックパワハラに比べればかわいいもんだ。

 だがブチ切れているところ悪いが、この間のクッキーの代金を払ってもらおうじゃないか。

 さて、と立ち上がる。


「ブ?」

「どうかしたんですか?」


 ブルとフィリンが俺が立ち上がった事で声を掛けてくる。


「ちょっとね」


 軽く合図を送ってから乗物から降りて藤平に……と、周囲を見渡したのだが、居ない。

 この短い期間でどこに行った?


「さっき大声を出してた奴は?」


 受付をしていた被害者の先輩兵士に声を掛ける。


「怒りの形相で大声を出したかと思ったら走って行っちまった。なんだったんだろうな」


 あらら……近くに居るなら探すべきか?

 あそこまで激怒するって事は驚くほど異世界がつまらないんじゃないかと思うぞ?

 俺にチートが降り注ぎますようにとか望んでそう。


「そろそろ出発するから席に戻れ」

「あ、はーい」


 こりゃあ探す時間は無さそうだ。

 そのまま座席に戻って座り直す。

 すると程なく馬車が走り始めた。


 ぼんやりと馬車の隙間から後ろを見ていると……あ、藤平が不機嫌そうに歩いている姿が見えた。

 気付くかと軽く手を振ったら視線が交差して、藤平の眉が跳ね上がった。


「異世界地雷十カ条! 不公平な――」


 なんか言ってるけど、馬車の足が速くて藤平の声がもう聞こえなくなってしまった。

 不公平な……状況? あるいは差別とかだろうか?


 なんとなく勝ったような気がする。

 羨ましいだろう。

 お前が詐欺られて行けなかった場所に俺は正しい手順で入る事ができるんだぜ。


 って……まあ、ちょっと性格が悪いか。

 トーラビッヒの件から、心が汚れてしまった気がする。

 ああ、ブル。俺を癒しておくれ?


「ブ?」


 よし、ちょっと癒された。

 俺、これから心を入れ替えてお前みたいに良い奴になるよ。


 ともかく、ダンジョンの前にある基地に行く前に藤平を見る機会があったって話だ。

 アイツは入れないのは間違いない。

 だからこそ、どうにかして入りこもうとしたんだろうしな。

 まあ問題を起こしそうな奴が近寄れないのは良い事だ。




 そんな藤平が入れなかったダンジョンの入り口前の基地……キャンプ地に到着。

 なんかドラゴンとか機械っぽい乗り物とか、飛行船とか異世界っぽい乗り物が街に入る前に見えた。

 かなり興奮するな。

 ここが一応の入り口の基地で、ダンジョンの中にも中継地点ではキャンプ地がある。

 そのキャンプ地はあまりにも大きくて、仮設テントで作られた街みたいになっているそうだ。


 で、その先にもキャンプ地はあるんだけど、それは最前線の上級騎士や冒険者が攻略するとか。

 なんでこんな事をしているのかと言うと現代の技術じゃ作れない代物や強力な武具……アーティファクトの探求を行うんだってさ。


「おーっす。そっちの研修はどうだった?」


 訓練校時代の同期や先輩が俺達を見つけて声を掛けてくる。


「一週間前まで地獄だったよ」

「どこも同じじゃないのか?」

「比喩じゃなくて完全ブラックだったんだ」

「あー……だろうな。お前等が行った所は悪名高い隊だったぜ。後でどんなだったか教えろよ」

「OK。事実を冗談とかで聞き流すなよ。先輩達の優しいって意味が確かなものだと知った事をな」


 なんか俺、割と染まってきてないか?

 言葉遣いが悪くなってきた気がする。


 ちなみに地方にあるダンジョンとかもいろんな武具が見つかるし、トレジャーハントも活発だ。

 ただ、大規模遠征で向かう事になるこのムーフリス大迷宮ほどの規模は滅多にないんだとか。

 その分、見つかる物の良さも上がる。


 この大迷宮は未だに最下層にまで至った人はいない……らしい。

 浅い階層は兵士が危険な魔物の排除を行っているので、脇道にでも入らない限りは安全に到着する。

 ただ……このダンジョンという場所は定期的に形が変わるらしく、常に安全とは限らないので注意は必要なんだとか。


 大遠征中はその道を行き来するのが、俺達の仕事になるっぽい。

 俺達の仕事ってのは最初の中継地点に物資を届けるという、それなりに簡単な仕事だ。

 仮に魔物が出現したとしても、この隊でも簡単に処理できるレベルの魔物しか出現しないとわかっている。


 さて、ライラ上級騎士はあくまで派遣された監査官でしかなく、俺達は現在もトーラビッヒの部隊所属だ。

 トーラビッヒは近々解雇というか、権力が使えない所に異動になるのかもしれないけど、それはライラ上級騎士でも即日にできなかったらしい。

 大遠征と時期が重なっていた事も理由だろう。


 まあ、どちらにしても……今回の遠征が終われば研修も終わって別の所に派遣かな?

 それっぽい事を兵士仲間に聞いたし。


 そんな感じの活気のある街に着いた俺達は、まあ兵役中だけど目を輝かせていたと思う。

 俺だけかもしれないけど異世界の町並みというのはなんとなく現実感を喪失させてくれる。

 夢のような場所って言うのかな?

 ゲームの中に入り込んだような感じ。

 まあ……兵役に就いてから散々な事が多いけど、どちらにしても活気のある街並みというのは少しばかり楽しい。


「任務は明日……届ける物資が到着してからになる。それまでは特にしなければならない事は無い。自由時間とする。新兵達はこの地の雰囲気に慣れるためにも周辺を見て回るのも良いだろうな」


 おー!

 既に街に来ていた兵士達が色々とやってくれたお陰で俺達にはまだ仕事が無いのか!

 考えてみれば国中から兵士や冒険者が集まっているわけで、酒場とかギルドとか商店とか武器屋とかいろんな所にたくさん人がいるもんな。

 何よりまだ到着報告をしただけで、人手が足りない所に割り振る前に任務を達成しなきゃいけないんだもんな。

 それまで待機って感じか。


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