二百七話
驚きを食べるとかよく分からん説明をしてるが、ムーイは甘いもの全般で能力上昇するスイートグロウが能力にある。
それに該当する能力って事……なのかもしれない。
「じゃあお前は?」
「オデは虫が好物なんだな。とっても美味しいけど兄貴はよく食えるな。って呆れてたんだな」
で、エミロヴィアは昆虫食なのね。
実にカエルらしい……見た目に合った食をしてる事で。
ただ、本当にべらべらと喋る奴だなー。
「お前等の目的はわかったが……」
結局ムーイが狙いって事で良いのか? まあ、ムーイもコイツ等の力の源を奪うことで強くなるっぽいけど。
カーラルジュもムーイの力の源を手に入れて相当強くなっていたし。
「オデだって痛いのは嫌なんだな。でも、兄貴と一緒に強くなってなんか願いを叶えてくれる神様ってのに会えば、こんな事せず誰も傷つけずに平和に暮らせる様になるって教わったんだな」
願いを叶えてくれる神様……俺達と目的が同じ? 迷宮種は聖獣の試練に挑めるのか?
健人の話を思い出せ……聖獣を四体倒して神様に会って願いを叶える。
ただ健人でも聖獣には敵わない。じゃあ勝てそうなのは? 今の俺はイレギュラーな存在かもしれないから除外で考えると……この世界には迷宮種って災害に該当する化け物がいる。
強さは健人を超える可能性はある。
聖獣に挑んで勝利すれば……願いは叶うか。
そんなカラクリがあるのか? コイツから聞いた情報だけが判断基準にはなり得ない。
くそ……俺の背後で見聞きしてるはずの奴がしっかりと教えてくれれば分かるというのに。
俺を選んだ神獣よりも無口というか声を出さないから性質が悪い。
「じゃあお前は人を傷つけるのは好きじゃ無いんだな?」
「当たり前なんだな」
「その割には妙なちょっかいを出さなきゃいいものを……相手を見て勝負は挑めよ」
「そう兄貴に注意するんだな。こんな所でやられる訳にはいかないんだな。この前ももの凄い気配がする奴から逃げてきたんだな。きっと分かってくれるんだな」
「もの凄い気配? それも迷宮種か?」
「そうなんだな。遠目で見た時オデも震える程の、時々姿を消して出会う相手を果物に変える奴だったんだな。恐怖に震える相手を見て笑っていたんだな」
……それってたぶん、カーラルジュだよな。
姿を消すって所やムーイから奪った力の源で物質変化させている所から考えて。
そいつは俺の進化の苗床になったよって言ったら怖がらせてしまいそうだな。
「オデは兄貴と平和に頑張るんだな」
「頑張れ。ここから逃げ出せるならな」
こう、なんだろうな。このエミロヴィアって奴の素直さやフレーディンを慕う気持ちってのは理解出来ない訳じゃ無い。
だって俺はブルに助けて貰って慕って居たし力になりたいって思いながら兵役をしていたし、魔物化した後もムーイと出会って強くなる手伝いをして貰っていた分、ムーイの為に喜ぶものを食べさせたいと思ったんだ。
そして……ムーイが瀕死になった時、何があっても力になりたいとパラサイトになって命を繋いだ。
だから兄貴の為にって頑張るエミロヴィアを笑ったり馬鹿にはしたくない。
いや……誰かの為に頑張る全てを俺は馬鹿にしたくないんだな。
ムーイも俺の為に付いてきてくれている。だから俺もその思いに答えなきゃいけない。
もうすぐムーイ達が戻ってくる。エミロヴィアをどう処分するかを相談しないとなー。
やっぱり殺さないと行けないのだろうか。
「キュウア?」
「神獣の申し子様?」
ラウとリイが俺の返事に首を傾げている。
フクロウの獣人みたいだから首が良く回るね。
「なんだな?」
「逃げられるならって言ってんだよ。頑張って願いを叶えてみれば良いだろ。人に迷惑を掛けずに挑むなら文句は無い」
迷宮種が災害認定されるのは人里に迷惑を掛けるから起こる事だ。
……ラウの故郷を壊滅させたカーラルジュの例があるけど、同様にムーイがみんなを守ろうとした。
このエミロヴィアはどっちなんだろうかと判断に悩む。
今ここで注意すれば人里に災害を及ぼさない可能性は無いだろうか?
元々好戦的なタイプでは無いみたいだし。
「笑わないんだな? 兄貴とは別行動中に話した奴はオデに無理だって馬鹿にしたんだな。聖獣様にお前が勝てるはず無いって」
他にも話をしたことがあるのか。よく答えたな。
……類似した種族がいるらしいし、そっちと勘違いされたって所か?
「いいや?」
だって俺達もやろうとしてることは同じだ。
件の聖獣に挑む為に移動している最中だし。
「なら……これでも喰らうんだな!」
トン! っとエミロヴィアが押さえつけられている体勢のままもう片方の手を地面に付けると何か力の流れが発生し、マンイータージャイアントグリズリーに巻き付いていた蔓の一本が俺目掛けて素早く伸びてきた。
「おっと! この程度で手を離すと思うなよ――」
っと、尻尾で弾き上げようとした所で蔓から蕾が生えて開き、バフゥ! っと花粉というか煙を吹き付けられる。
「うわ!? ゲッホゲッホ!」
煙が巻き起こり、それでもエミロヴィアを抑え込もうとしたのだけど蔓が俺にぶつかって来て弾いたのだけどその僅かな隙でエミロヴィアは拘束を振りほどいて逃げ出してしまう。
「し、神獣の申し子様!」
「ッキュー!?」
「ああ!」
急いで声のする二人の元へ移動して二人を尻尾で支えて飛び上がる。
今の俺ならゆっくりとだけどラウとリイだけなら抱えて飛べる。
「それじゃあバイバイ。なんだなー!」
急いで飛び上がり、煙がもうもうと立ちこめる地面を見ながら二人を確認する。
どうやら二人とも怪我は無いようだ。
で、地面を見ると煙を突っ切りながらエミロヴィアが走って逃げる姿が目撃出来る。
煙で途切れ途切れだけどな。
やがて茂みの中へ消えて言ったかと思うとバシャって音がして……水の中へと逃げて行ってしまったようだ。
そうか、エミロヴィアがこの蔓を出したのか。
そうだよな。フレーディンがヴェザーマウスたちを操っていたなら植物の方は誰がやったんだ? って考えはあるよな。
フレーディンは他の迷宮種の力も使えるっぽかったから考えが足りなかった。
「ユキカズー! 何かあったのかー?」
「悪いな。あの野郎、雑魚を盾にして足止めしやがって逃げられた。鼻で追跡しようと思ったけど川で匂いが途切れちまった」
「逃げ足は速かったぞー」
「こっちにカエルの方がノコノコやってきたから生け捕りにしようとしたら思わぬ抵抗を受けて逃げられちまったよ」
健人に伝わるようにざっくりと説明しつつ煙が晴れた地面に着地する。
「両方、逃がしちまったか……面倒くせーことになっちまってるな」
「神獣の申し子様……」
リイが俺をちょっと咎める視線を向けてる。
わかってるって、エミロヴィアが憎めない奴だったから手心を加えちゃったのは否定しようが無い。
襲撃者だし迷宮種だから仕留めないと行けないってのも分かっちゃ居るさ。
「なあムーイ」
「なんだー?」
「やっぱりアイツらは仕留めて力の源を取ってムーイ自身がパワーアップさせた方が良いんだよな?」
俺の質問にムーイは少し小首を傾げつつ頷く。
「うん。アイツらから取ればオレ強くなれると思う」
ただー……ってムーイは今来た道を振り返る。
「アイツら倒してもあんまり強くなれないと思うけど」
「そうなのか?」
「うん。追いかけて分かったけど、アイツはオレの半分くらいの力しかないぞーユキカズがあった方はもっと弱いぞー」
「半分ってそこそこだと思うが」
「オレが手に入れても……ちょっとしか強くなれないぞ。たぶん」
アレか? 格下を倒してもそこまで強くなれない的な感じなんだろうか?
経験値も半分となると雑魚って感じで塵も積もればで強くはなれるけど敢えて狙うのはどうだろう?
って次元。
となると相当の雑魚だったのかアイツら。





