二百五話
「そりゃあ重曹とクエン酸を体内生成して出していた。炭酸水の調合なんだからな」
カルメ焼きの段階で重曹がどこから出てきたと思って居るんだ?
人体から生成出来る成分で作って居たに決まっているだろうに……。
「なに当たり前みたいな顔してんだ! きたねえなこら!」
「汚いのかー? シュワシュワしてるぞーユキカズ、武器のメンテナンスの時に似たのを使ってたー」
「汚れ落しに重曹は便利だからな」
兵役経験がある故に掃除はそこそこ出来る様になってしまっている。
重曹は万能素材だ。炭酸水も出来るし。
で、言われて考えて見る……まあ、仲間の体から出された代物をその場で調理して飲むってかなり勇気がいる行為か……。
成分的にも問題無いし、鑑定スキルにも注意項目は無かったのだけどな。
「排泄物を出してる訳じゃないから良いかと」
こう、スカトロじゃないんだから大丈夫だと思ったんだけどなー。
「そういう問題じゃねえよ! コーラが飲めなくなっちまったじゃねえか!」
「深く考え過ぎだと思うがー……」
クエン酸を生成出来たから料理に使って居ただけなんだが……。
健人も気にするみたいだからしょうがないか。
「今度熱殺菌をしてから作るから我慢してくれ」
そもそも異世界の豪華客船の飛空挺には炭酸水があったぞ。
割と良くある飲み物なんだからな。
「うー……ビールやエールさえもコイツの体液で出来てるんじゃないかって思うようになっちまいそうだ」
「泡立つもの全ては気にしすぎだ。どんだけトラウマにする気だよ」
そこまでの事を俺はしてないと思う。
ったく……っと、毒づいた所で健人の耳がピクリと跳ねる。
俺も勘というか何かを感じ始めた。
それはリイも分かったのかラウを抱き上げて周囲を警戒し始める。
「んー?」
ムーイも同様にサッと近くにおいてあった剣に手を伸ばす。
直後、遠くから笛の音のような音が聞こえ……なんだ? なんかピリッとしてくる。
「……ッキュー……」
ふら、ふら……とラウの様子がおかしい。
「ラウさん?」
リイが様子のおかしいラウに意識を向けた所でドドド! っと20匹近いヴェザーマウスという魔物が飛びかかって来た。
「「「チュウウウウウ!」」」
マウスと言いつつ大きさは子犬くらいはある魔物で、20匹ともなると相当面倒だ。
「おうおう。随分と大量に来やがるな!」
健人が槍を振りかぶり飛びかかってくるヴェザーマウスを弾き飛ばし。
「やるぞー! とー!」
ムーイが乱暴に剣を地面に叩きつけを行いなぎ払う。
俺は目を開いて援護を行おうとするのだけど……なんか変だな。効果が薄い。
「神獣の申し子様もこちらに!」
「俺は気にしないで良いから」
「いえ、できる限りラウと共にお守りする役を私は担っています」
わー……リイの真面目な返答。実験でちょっと魔物と戦ってくるとは状況が違うって事なのかな。
一応、俺の方がたぶん強いんだけどな。
強さが基準じゃないって事なんだろう。健人が気に入ったイイ女って事なんだし。
なんとなくライラ教官やフィリンも持ち合わせている真面目な所な気がする。
待機させているマンイータージャイアントグリズリーに乗り込んでなぎ払うか?
ズモモモ! っと突如地面から無数のツタが生えてマンイータージャイアントグリズリーの体を締め上げる。
な……こんなの熱線で焼き飛ばしてやるか!
って所で更に笛の音みたいな音が聞こえる。
するとヴェザーマウスが隊列を組んで俺とリイ、ラウの方へと顔を向けて掛けて来る。
必殺の高威力熱線で焼き払うのはムーイや健人が射線上にいるから危ないな。
「ムーイ、健人。顔をこっちに向けるなよ! 魔眼にはこう言った使い方が……あるぞ!」
俺は腹の目を一度閉じさせて大きく見開き、強烈な閃光を放つ。
「「「ヂュ!?」」」
閃光によって目潰し状態になったヴェザーマウスたちがふらふらとしていると再度笛の音が聞こえ、目では無く鼻でこっちに向かってくる。
随分と整った指揮がされてるな。
「こりゃあ近くに命令を下してる奴がいやがるな」
「そうだぞー! なんか気配がする。あっち!」
健人とムーイが首謀者の気配を感じ取り指さす。
目を熱線モードにしてムーイが指さした方を先に照射する、ライト代わりに照らされ夜の闇を暴く、するとその先にいる魔物……じゃない、相手がいた。
大柄の……ヒョウみたいな獣人? ただ、肩幅というかガタイが全体的に良くてヒョウのようなスラッとした見た目じゃない。
それと……なんか反対側にもなんか感じるので振り返る。
するとそこにもカエルの獣人みたいな大柄の奴がいた。
「み、見つかっちゃったんだな!? 兄貴!」
「ッチ!」
その相手はこっちを忌々しいと見ながら舌打ちをして背を向けて走り出した。
後に続くようにカエルみたいな奴も別方向に逃げて行く。
というか人語を解するのか? 言語はリイと同じルロフ言語だ。
早い! 居場所を特定されたから逃げたって事か!?
けど問題はその見た目じゃない。
俺にはその相手の名前が表示されていたのだ。
迷宮種・フレーディン
迷宮種・エミロヴィア
ヒョウみたいな奴がフレーディン。カエルみたいな奴がエミロヴィアって名前だったぞ。
「あの野郎が襲撃の犯人共か! 混乱と闇に紛れて近づくのかよ」
大将を逃がすためにとヴェザーマウスたちが俺達に襲いかかって来る。
「は!」
リイがラウを抱えつつ何本もナイフを出して投擲、ヴェザーマウス達を地面に刺して動きを鈍らせる。
「おらよ!」
「おおお!」
健人とムーイが各々力を込めてヴェザーマウスたちを吹き飛ばす。
足止めは終えたとばかりに生き残ったヴェザーマウスたちも一目散に逃げ出す。
「あ、待てこの野郎! アイツ等の気配……」
「まてー!」
「アイツら、迷宮種だった」
「くっそ、見つけるまで気付くのが遅れた」
「え!? なんで気付かないんだケントー前にオレの気配わかったよなー?」
「そりゃあお前の気配は一際強いだろ。力の源が戻ってから、他の気配が気付きづらい位にはでかいんだよお前」
と、健人がムーイへと注意する。
まあ……なんて言うか俺の場合は目で判断してムーイが強いんだろうって判断したけど健人の場合は独特の気配で分かるらしいからな。
確かにムーイは相当強いのは揺るがない。
カーラルジュもムーイとの正面戦闘は避けるほどには強いんだ。
「とにかく、主犯っぽいヒョウみたいなアイツを逃がす前に追いかけるぞ。雪一!」
って所で健人は乗り物代わりにしていたマンイータージャイアントグリズリーへと視線を向ける。
そこには太い大きな蔓が巻き付いていて、すぐには移動出来そうには見えない状況だった。
配下の魔物と蔓を操る迷宮種……って事だろうけど。
「ケント! オレも行くぞ!」
「大丈夫かムーイ」
「ユキカズの方こそ注意して、なんかラウの様子がおかしい」
「……ッキュー……」
ぼんやりとしたラウがリイの手から脱出しようとぼんやりとした表情で暴れている。
これは確かにおかしいな。
「早くそいつを使えるようにして追いかけてこい! 俺達はアイツを追撃する」
「手伝うかー?」
「いや、ムーイは健人と一緒に行ってくれ、そっちの方が早く済む」
「でもユキカズ大丈夫かー?」
「多少はな。前みたいな事にはさせないよ」
「わかったー。まあ、アイツらそんな強く無いからユキカズなら大丈夫なはずだぞ」
と、なんかムーイが余裕を持った返事をしている。
なんでそんなすぐに分かるんだ?
俺が疑問を浮かべて居ると察したのかムーイが健人の方を追いかけつつ大きな声で答えて走って行った。





