二百四話
「大丈夫だな。そんな訳だからみんな乗って行こう」
「おうよ」
「では、失礼します」
「ッキュー!」
っとみんな背中に乗ったのを確認した俺はそのまま地面を蹴って走り出す。
懐かしいな。魔獣兵に乗ってブルやフィリン達を乗せて移動した時の事を思い出した。
「わー! ユキカズ凄いー! どんどん進んでくぞー! なんか面白い」
「おー中々悪くねえじゃねえか。こりゃあ雪一、期待以上にお前はやれそうだぜ」
そんな訳で俺達は進んで行くのだった。
道中魔物と遭遇したけど、大型魔物じゃない限りは魔獣兵で小さな魔物を倒すのと同じように戦いとは呼べない楽な戦闘で済んだ。
巨体の腕でなぎ払うとかで大ダメージを与えられるのは大きい。
そうして道中……野営を俺達は行った。明日は近くの村へと立ち寄るとの事だ。
マンイータージャイアントグリズリーの体で昼前辺りに到着するだろうという微妙な時間だな。
俺がみんなを乗せて進めば良いかとも思ったけれど一日中乗りっぱなしでは疲れるとの意見で野営をする事になった。
ターミナルポイントで結界とかあれば安心だが、そう簡単に見つかる訳でも無い。
ちなみに道中でマンイータージャイアントグリズリーと俺の力を合わせた攻撃を実験した所、もの凄い力で腕を振りかぶって殴りつける攻撃が放てるって所だった。
放った所でマンイータージャイアントグリズリーの体が大ダメージを受けるほどの威力だった訳だけどさ。
全身の筋肉が攻撃の威力に耐えきれず千切れかけた。
回復魔法と自己回復で治療させはしたけれど諸刃な手段だった。
非常事態には使えるかも知れないけれど……乱用して良い手じゃない。
しかもエネルギーの関係もある。
マンイータージャイアントグリズリーは名前の通り人肉を好物にしている肉食獣な魔物で、遭遇した魔物の肉でエネルギーを補充出来るけど、俺が寄生して居る影響もあるのか燃費が悪い。
足代わりに使って居るけど同格の魔物相手に下手に手傷を負えばそのまま乗り捨てる事になるだろう。
……実験で乗っ取った体だから良いのかも知れないが、やっぱり邪悪な運用だよなぁ。
ただ、道中の行程はかなり早く進めていると健人は言っていたので結果的に良かったんだと思う事にする。
普通に戦って倒すけど移動に時間が掛かり戦闘が増えるのと、寄生して乗っ取って体を利用して素早く移動して戦闘回数を減らす……どっちが正しいんだろう。
ちなみに経験値はそこそこ入っている。
「キュ、アア」
野営をしている所でラウがムーイや俺、リイ、健人の所へ元気よくハイハイをして声を出している。
時々、ぐぐっと二本の足で立ち上がろうとしている姿から歩き出すのも時間の問題だと感じさせるには十分だ。
俺はマンイータージャイアントグリズリーの体を休眠状態にさせて体から出て焚き火を前に菓子作りをしている。
「今日もお前は菓子作りか」
「普通の飯の方はリイさんが作ってるだろ」
リイさんは料理が出来るので普通の料理は任せている。
オウルエンスの村での料理をリイさんはしてくれているのだ。
「神獣の申し子様の口に合う自信はありませんけどね」
「ユキカズ、どうなんだ?」
「美味しいよ。別に謙遜しなくても良いよ。俺はムーイの飯を作ってるだけだし」
ムーイの主食はお菓子だからなー……普通の人間がムーイと同じ食事を取っていたら色々とヤバイ事になりそうな不健康なメニューになりそうだけどさ。
少なくともムーイに寄生して居る時の健康状態を確認すると普通の食事はムーイにとって効率は悪い。
腹も壊しかねない。
今回はチョコロールケーキを作ってムーイに食べさせて居る。
魔眼の冷凍光線で冷やすのもお手の物で簡易に作れて良いな。毎度思うけど本来はサバイバル時に出来る事じゃ無い。
チョコレートを作り出せたのだから色々とチョコレート関連のレシピをやっていけば当面は繋いで行ける。
「ユキカズ! 今日も美味しいぞーオレ、ドンドン力が出る気がする!」
ムーイはチョコレートが大層気に入ったのか食材の相性が良いのか絶好調だって何度も言うんだよな。
スイートグロウの強化が進んで居るって事かな?
日課の模擬戦や訓練をしているのだけど日に日にムーイの腕力が上がっているような気はする。
まだ成長の余地があるって事だよな。
そもそもムーイの迷宮種って話によると迷宮種同士が食い合ってパワーアップするっぽいし。
カーラルジュがそうだったように……ムーイってどんだけ強くなるんだろう。
「こんだけ菓子が作れるならよ。コーラとかソーダとかも作れねえのか?」
「ん? 健人はコーラとかソーダが飲みたいのか?」
「そりゃあ時々恋しくなるだろ。こっちにはさすがにねえよ」
コーラやソーダがか?
「しょうがないな。ちょっと待ってろ」
「は?」
唖然としている健人を無視して俺はコーラを作ってコップに入れ、健人に差し出す。
クラフトコーラって奴で一般的な黒いコーラ、ダークコーラって奴だな。
「お……おう」
健人がコーラの入ったコップに口を付けて飲み始める。
最初は試しとばかりだったけどやがてグビグビと飲み始めた。
「プハー! こりゃああのコーラの味そのままじゃねえか! 一体どこから出したんだよ」
「そりゃあ作ったに決まってるだろ」
「マジか……雪一、お前すげえな。ムーイの力か?」
「いや?」
「ん? コーラって言うのかこれ?」
ムーイにも差し出してコーラを飲ませて見る。
「あまーいパチパチする水ーお菓子なのかー?」
ムーイはちょっと小首を傾げている。
「コーラやソーダとか炭酸系はムーイの基準だとお菓子かどうかはかなりグレーラインみたいなんだよな。たぶん、ムーイの場合はヨーグルトドリンクや原液を水で薄める奴がお菓子感覚になるだろうな」
アレって砂糖、ヨーグルトにクエン酸かレモン果汁、バニラエッセンスで再現出来るんだ。
菓子作りをたたき込まれた所為で作り方がなんとなく分かるんだよなー。実に不思議だ。
思い出だけで再現か……。
話は元々コーラとか炭酸系って薬として使われて居たって話を日本に居た頃に聞いた事がある。
俺の感覚だとお菓子だからこうしてなんとなくで作れるけどな。
「これが神獣の申し子様の飲み物……」
リイさんは恐れ多いのか手を付けずにいる。
ラウには早いな。飲ませるわけにはいかない。
代わりに果物を搾って作ったジュースを飲ませる。
「じゃあ完全自作なのか! マジ凄いなお前」
「そんな難しいもんじゃないぞ。薬草をそれっぽい配分で調合してシロップを作ったら炭酸水で割れば完成する訳だし」
「作り方を分かってたとしてもすぐに出来るもんじゃねえだろ。ムーイもそうだがその辺りはホイホイ作ってく職人だなお前」
グビグビとコーラを飲み干しながら健人は言い切る。
職人……懐かしいな。兵役時代、流れの菓子職人かとライラ教官に呆れられたもんだ。
「おかわりな!」
健人がまだ飲み足りないとばかりにコップを出して残りを飲み始める。
「はいはい。って炭酸水が足りないか」
材料を入れて居た器を確認すると作った炭酸水が無くなっていた。
「しょうがない。足すか」
と、俺は毒使いのスキルで体内合成を行いクエン酸と重曹を混ぜ合わせで炭酸を作り出し、毒腺から出して冷水を入れた器に流し込み炭酸水にする。
そこから調合したシロップに――。
ブゥウウウウ!
っと健人の方から音が響いたので振り返ると、健人が思いっきり吹き出していた。
「おい……折角作ってやっているのに勿体ない事してんじゃないぞ」
「そうじゃねえ! 今何やってたよお前!」
「何してたって……注文通り追加のコーラを作ってたんだろ」
「いや、お前自分の体からなんか出して水に溶かしてただろ!」





