二話
で、後はかなりパニックになった。
主に女子が。
誘拐だ拉致だと騒ぐ女子をどうにか俺達を含め兵士っぽい人や修道女っぽい人が宥めてくれた。
纏めると、レラリア国は危険な魔物の勢力からの侵略を受けている。少しでも戦力が欲しいために伝承に存在する異世界の戦士を呼びだす儀式を行った。
そこに俺達が現れただけで誰かを指名したわけではない……らしい。
落ちつかないクラスの連中は別室で待機をする羽目になった。
俺も一応落ちついているのかな? 成る様になるって言いたい訳じゃないけど、パニックになって良い事はきっと無い。
災害があったと世間で騒がれた時もそうだったし。
日本に関しちゃ……どう認識されたかよくわからない。
集団行方不明なのかな。
少しばかりの時間が用意されて、食事も提供された。
大きな広間で海外の食事みたいなコースメニューを出されたっけ。
そこそこ味は良かったんじゃないだろうか。
なんて感じでしばらく落ちつく時間を与えられ、冷静さを取り戻した、俺を含めたクラスメイトが王様の招きに応じて集まった。
もちろん、任意で出ていいということで欠席している者は多い。ショックを受けている人は未だに案内された部屋から出てないしね。
「さて、異世界の戦士諸君……こちらの事情は理解してくれただろう」
「ま、まあ……」
みんなして頷くしか返事はできない。
「でだ。戦士諸君にはまだ知ってもらいたい事が他にもある。まずは資料によると異世界人が総じてこの世界の者よりも強くなる可能性が多く眠っているとの話である」
戦ってほしいと頼んでいるわけだから俺達に望む事は、察する事はできる。
「ただ、その資質を開花させるには専用の儀式を行わねばならない。これは我が国でも相応に貴重な資源を使用せねばできないのだ。その儀式を行う代償としてダンジョンに挑み、力を磨いて国を救って貰えないだろうか。もちろん、帰還する術の発見もダンジョンに眠っていると資料には書かれている」
どうもゲームのような要素が無数に存在するみたいな言葉が散見している気がするなぁ。
何かしらの儀式で潜在能力を引きあげてダンジョンって場所に挑んで強くなって国を救えとか。
その並列で元の世界に帰る術を探せって事なんだろう。
「もちろん、拒む権利も異世界の戦士達にはある。この世界で生きるのもまた一考だろう」
最初から帰る術を見つけておいてほしいもんだ。
「ただ……儀式は希少な物資を使わねばならない。伝承通りならば強力な力を振るえるはずだ。ただ……その代価にある程度行動に制限が掛る事を覚悟しておいてほしい」
強さを得る代わりに何かしらの代償を支払う可能性があるんだろうな。
国の保護から出ると狙われるとか……これは詳しく聞かないといけなさそうだ。
「随分と身勝手な事だと思うが……」
「帰るには必要な事……なんだろうなぁ」
状況をある程度受け入れたクラスメイト達が拒否のしようがないといった様子で頷く。
「は? 何言ってんだ? そんな国のワガママに付き合い切れるわけないだろ?」
そこでー……一人のクラスメイトが異を唱えた。
「勝手に召喚しておいて戦えるように儀式をしてやるから帰るためのアイテムを探すためにダンジョンで戦え? 俺達は被害者なんだぞ?」
「それはさっき混乱していた奴等も言ったじゃないか。お前、別室に行くか?」
クラスでも割と一人で居る事の多い、ぶっちゃけネクラな……確か、藤平英樹だったか。
一時期流行った斜めに世の中を見ているネクラオタクタイプの主人公を真似てるとかクラスメイトが囁いていたっけ。
学校の先生にも妙な返答の答案を出して呼び出されていたし。
ワクワクした顔で先生の所へ行って部活に入れられるような事は無く、学校付属のカウンセリングを受ける事になったらしい。
何か部活を強制されなかったとか愚痴っていたそうだ。俺もそのラノベ読んだな。
俺自身で印象的なのは昼休みの事……スマホ(休み時間なら許可されている)で何かを見ていたかと思うと突如トイレに駆け込んで嘔吐をしていた事だろうか。
『この作者、よくも俺のハーレムメンバーを殺しやがったな! 絶対に許せない! 業界から追い出してやる!』
そう言ってからしばらくスマホ片手に何かしていたのを覚えている。
いったい何を許せないのか理解に苦しむな。
その後、スマホを壁にたたき付けながら絶叫していた。
『俺が何をしたってんだよ! 間違ってんのはアイツだろ! くそおおおおおおおおおおおおおおお!』
何か気に食わない結果にでもなったんだろうな。
「身勝手な召喚で俺達は家族と別れる羽目になったんだぞ! この責任はどう取ってくれるんだ?」
「あのさ藤平……さっき話をしたじゃないか。戦士を期待して呼んで俺達が出ただけの事故みたいなもんだって、この世界の人達も狙って俺達を呼んだわけじゃないんだしさ」
「あ!? お前俺の考えに文句でもあるのか?」
空気を読めとクラスメイトは注意するのだが藤平は止まらない。
戦う事は強要しつつあるが、譲歩する態度を相手は見せてはいるわけで……ここでどう落とし前を付けるのかを今、話を進めているんだ。
反対意見を言う奴は別室で待機してもらうしかないのも事実だろう。
「ともかく、こんな身勝手な奴等の配下になって戦いを強要なんてされたらどこで使い捨てられるか分かったもんじゃないね! 俺は俺の好きにさせてもらいたいもんだ!」
おい! 自制しろ! 相手は王様だぞ!
もう少し敬語とかにしなきゃ不敬罪とかで口封じに殺されたって文句は言えないぞ!
「確かに……それはこちらの落ち度であるのもまた事実」
王様はそう言って素直に話を受け入れる。
王様の懐の広さに助かったぜ。
「ではどうしろと?」
「異世界の者達の生活は多少援助する事はこちらも考えている。帰る手段はあいにくと無いが……」
「どうだかな、どちらにしたって俺はお前ら何かのために戦いたくはない! 俺の勝手にさせてもらおう!」
「藤平、もう少し落ちつけ、言葉を選べっての。カッコよくないから」
「うるせえ! 俺は事実を言ってんだよ」
「まあ……確かに一理ある」
ワガママとも取れるが、国の傘下に下った状態で保護されている状況は、いつ何時戦いを強要させられるか分かったものではない。
それならば国を出て……その先の未来は想像できないけど、どこかで自給自足で生活して元の世界に帰る術を探すのも一考の余地はあるだろう。
それこそ、他のクラスメイトが手立てを見つけるまではな。
何より、俺達はこの世界の事を何にも知らないんだ。何も知らないうちに安易に頷いて良い事は無いのも事実だ。
藤平の勢いのある言葉にクラスメイト達も黙りこんでしまう。
「……そう決断するならばしょうがあるまい。こちらの落ち度でもある。国の援助を断り、この場から出ていきたいならば引きとめるのも酷というものだ。好きに城を出ていくと良いだろう」
お? 王様、素直に引き下がったぞ。
言う事を聞かないなら死んでもらおうとか言うかとヒヤヒヤしてしまった。
「……まだこちらの提案は生きておる。もしも生活に困窮した際、こちらの提示した条件を受け入れてくれるのならば、我が国は異世界の戦士たちを手厚く歓迎しよう。思うがままに旅立ってくれ」
これはつまり、ここから出ていく事を引きとめる気は無い。
だけど、困ったら国のために戦う事を条件にいつでも保護しようとしてくれているって事で良いのだろう。
随分と待遇は良いんじゃないかとは思うが……。
「じゃあ試しって事で……」
「俺も」
「うん……せっかくだし」
藤平を代表ってわけじゃないけど、権力の犬になる事を良しとしないのは俺だって理解できる。
一旦頭を冷やすために、この場で即決しないために行動するのは悪くない。
だって現状判断できるのは城の中での出来事だけだし、戻ってこられるなら試して悪い話ではないだろ?
兵士たちが出口の扉を開く。
「不審者に思われないよう。衣服と三日分の食費は支給しよう。異世界の戦士たちよ。世界を見て、どうか決断してくれ」
というわけで状況確認のために支給品を貰い。クラスメイトの男子で決断前に外を確認しようとする俺を含めた6人は城を後にするのだった。