百九十九話
「キュウ!」
なんかラウもムーイと同じような顔で鳴いてる。
お前はここですくすくと過ごすんだが……置いてく予定だぞ?
「俺達が力を合わせて聖獣と戦って認めさせるってのは分かったけど、勝てる相手なのか? 確かに力を取り戻したムーイはメチャクチャ強いが」
少なくとも力の源を奪われる前は恐い物なしな位の強さを持っていたし、カーラルジュも正面戦闘は避ける位には戦闘力が高い。
「ユキカズとケントの為なら頑張るぞ!」
「確かにムーイは相当強いが、それでも勝てるか分かんねえ位、アイツらは化け物だ。けど雪一、俺はお前ならより確実に勝てるんじゃねえかと思ってるぜ」
ムーイですら勝てるか未知数って所で健人はなんで俺に期待してんだ?
俺が首を傾げていると健人は軽く咳をしてから説明する様に口を開く。
「お前、自分の能力を説明したよな。見る事で相手の能力を分析してポイントを払って変化出来る様になるって」
「ああ……ってお前、俺にその聖獣を見て解析と分析させようって算段か」
俺が解析をして、解析が終わったらポイントとLvを上げて変化……同格以上の力を得て倒すって考え。
物理で殴るをそのままやる形じゃないか。
「ご名答、俺だけで分からない事もお前なら分かる事も出て来るだろ。何よりお前は進化とか色々とあって俺よりも遙かに成長の可能性を持ってる」
健人に比べれば確かに俺はまだ発展途上であるのは間違い無いけどな……カーラルジュを媒介に進化して更に力を得たから間違い無いけど、今の俺ってどの程度の強さを持っているか。
感覚的には相当力が出せる手応えはあるけどな。
「格上過ぎると解析は全然出来ないぞ。とはいえ……他に手立てが無いなら行くしか無いか」
ムーイも解析しようとしていたら全然出来なかったし……俺の力も万能じゃない。
基本的に誰かに寄生したり助けて貰ったりして今の俺はここに居る。
……酷いな。もっと誇れる様に生きたいというのに。
「やるぞユキカズー!」
「ムーイだけで勝てる相手だったら良いんだけどな」
少なくとも全盛期の力が戻ったムーイに勝てない相手が出てこない事を祈るばかりだ。
「うっし、話は決まったな。今度は俺についてこいよ」
「ああ。とは言いつつ各地の村や町でイイ女探しの旅をしてたら土壇場で置き去りにしてやるからな」
「あ、ひでぇ! 俺の生きがいを否定するんじゃねえ!」
生きがい言いやがったぞ!
どんだけ女遊びが好きなんだよコイツは! 同郷じゃ無かったら見捨ててるぞ。
「ユキカズも良い人捜しするのかー?」
……どうだろ? 良い人ってそう簡単に見つかるもんなのか?
滅多に居ないから大変なんだ。
「健人ほどじゃないし、旅をしてたらすぐには気づけないもんだよ」
そう思うとちょっと寂しいような気もする。
俺が気づかない所で良い人が嫌な目を見ているってのは嫌だな。
だからこそ、大雑把に村や町で困っている問題があったら解決したり助けたりしたい。
自己満足って自覚はある。
けっど俺は先を急いで居るんだ。健人みたいに遊んでなんて居られない。
何より、ムーイは良い奴だしな。今はムーイが喜ぶ菓子作りをして居れば良いさ。
「そっか。オレも良い人を見分けられるようになりたいぞ」
「ムーイは悪い人を見分けられるようにならないとな。絶対に悪用する奴が出て来るから利用されないようにしないと」
手をかざしたり触れた物を変化させる力を持つムーイだ。
普段はお菓子の材料とかに力を使って貰っているけど、これを……例えば鉄を金に変えるとかさせれば一攫千金も簡単だ。
もちろん変化させた際に質が低下するのは分かって居るけど金は金だし、それこそ鋳造して純度を上げればどうとでもなる。
ムーイを騙して悪用する様な奴からムーイを守らねば行けない。
せめてムーイが人を見る目をしっかりと養って貰わねばな。
まあ……ムーイの学習能力は非常に高いしすぐに覚えてくれると信じて居るけどな。
「わかったぞー!」
「過保護な奴だぜ。そんな心配は不要だと思うけどな」
イヤイヤ……過信は禁物だぞ。その所為でカーラルジュにあそこまでやられたんだし。
なんて感じでこれからの方針を決めて、旅立つ事になったのだけど――。
「ギュウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
村の人たちにラウを預けて一路旅立とうとした所、とてつもない絶叫と呼べる程の声でラウが駄々をこねて俺の頭から離れず引っ付いて居た。
「いだだだだ」
絶対に離さないと引っ付くラウの握力は強く、これ以上引っ張ったらラウの手が大変な事になってしまうし、俺の体が伸びてしまう。
現に皮は伸び気味だ。
「こりゃとんでもなく懐かれてるなー……」
「ユ、ユキカズ。えっと……ラウ……その、えっとな」
健人も呆れたとばかりにため息交じりに呟き、ムーイはどうしたら良いかとオロオロとするばかり。
懸命な介護のお陰で元気になったは良いけど、元気過ぎるとはこのことか。
魔眼で痺れさせたりとか出来なくは無いけどさすがに俺の良心が許さない。
「ギュアアアアアアアアアアアアア! ア! ア!」
ぬる……っと、う……ラウの手が力を込めすぎて血が滲んできてる。
赤ん坊なのにどんだけ力を込めてるんだよ君は。
瀕死の重傷だったのが遙か過去の事になって喜べば良いのだろうか。
ガシガシと俺を掴んで置いてくなと引っ張ってくる。
「あー……その、神獣の申し子様。誠に心苦しく、申し訳ない所存でございますが……その、その子を旅にご同行をさせて頂けないでしょうか」
健人が良い人と認定しているオウルエンスの女性がラウを引き剥がす手を離し、村の長老へ耳打ちをしてから提案してくる。
「そうは言いましても、これからの旅は過酷な物であるのは間違い無いんで、ラウを連れていくのはさすがにどうかと」
「この子もそこは百も承知で居るかと見受けられます。大分羽も換毛して来ています。Lvを上げれば手も掛からなくなってくるかと思いますのでどうかご検討をして頂けないでしょうか?」
ん? Lvを上げる? Lvを上げたらなんで手が掛からなくなるんだ?
よく分からないので健人に顔を向ける。
健人もよく分からんって顔をしてるぞ。
「あの……それってどういう意味で?」
「神獣の申し子様達はご存じないのですか? 我等は経験値を得ることで限界はありますが成長を促進出来るのです。その子もすぐに立って歩ける様になるかと思いますよ」
あ、そうなんだ……なんだかんだ人間基準で見ちゃ行けないって事なのかな?
まああの世界でも種族毎に成長とか違うって話はあったしなぁ。
オウルエンスの成長速度は俺もまだよく分かってないけどラウの様子……拾った頃に比べたら一週間と半くらいな気がするけど重くなっている。
人間の赤ん坊に例えると出会った頃が新生児で今は乳児……じゃなくて幼児くらいまで成長してるのかな?
確かに大きくなってるのは間違いない。
ただ、経験値汚染って相当に体に過負荷が掛かるけど大丈夫なのか?
少なくとも俺は急激に経験値が入った時は意識が飛びそうになったぞ。
……今は体が馴れたのかおかしいのか分からないけど経験値汚染で意識が飛ぶことはないけどさ。
「危険なのは変わらないですし」
「そこは、私が同行いたします。今回の異変を聖獣様へと報告をしなくてはいけませんし道中でラウに私が教えて行きますので、どうかご一考をお願いします」
って健人がイイ女って言ったオウルエンスの人が立候補している。長老からも許可を得てるとばかりに頷かれたぞ。
え……付いてくるの? 大丈夫なのか?
と、健人を見てるとニヤニヤしてる。イイ女が責任を取って付いてきてくれる事を喜んでいる顔だ。
「良いじゃねえか。ラウもお前とムーイと離れたがらねえみたいだしよ」
「はあ……」
まあ、前衛はムーイと健人がして俺が後衛でこの人とラウを守れば良いか?
まだ俺は自分の体の状態をよく分かって無いんだけどさ。
最悪飛んで二人を守れば良いか?
「……わかりました。けど、絶対に無茶はしないし、無理だと思ったら戻りますからね」





