百九十八話
「そりゃあ元の異世界に戻るために行動をするつもりだけど……俺は人間に戻るのも目的にあるな」
進化とか人間とはかけ離れた戦いをした果てにこんな姿になったけど人間を完全に辞めたつもりはないぞ。
何処へ行ったら良いとかの方向はまるで分からないけど、何もしないよりは良いはず。
色々と出来る様になるためにLv上げと進化研究とかしてた訳だし……今の俺達ならそこそこ上手くやっていけるか?
相応に強くなった自覚はある。
「その件なんだが、俺に心当たりがある」
「なんだ? 健人は何か知ってるのか?」
「少なくともお前等よりはな」
知ってるのかよ。先に教えろよ! とは思ったけど俺達はカーラルジュの被害を抑えてムーイの力の源を取り戻さないといけなかったんだから後回しにするのは当然か。
むしろ健人はこの世界を悠々自適に歩き回って元の異世界に戻る事はそこまで重要じゃないって考えでもあった可能性もあるぞ。
イイ女巡りに躍起になってる所が疑わしい。
とはいえ、手がかりが無いし聞く事にしよう。
「健人はこっちの世界でエンジョイするのが大事かと思ってた」
「んな訳ねえだろ。俺だってあっちの世界に戻りたいけど戻れねえから色々と巡ってたんだっての」
「ふーん……で、どうしたら俺は元の姿に戻って、あの世界に帰れるんだ?」
「ああ……雪一、お前の姿を元に戻せる可能性もあって、あの世界に帰る方法なんだがな。お前等もこの村で話をした際に見聞きした話があるだろ? 雪一、特にお前はさ。神獣の申し子なんて大層な呼び名まで付けられてる件だよ」
小恥ずかしい呼び名だけどな。
どうやら神獣はこの村では信仰の対象っぽいんだよな。
「で、神獣に関しちゃ前にも話をしたな」
「ああ」
何やらあの世界で暴れた化け物で俺達を選んで世界に馴染むように加護を授けた存在。
健人は最初の神獣に選ばれ、俺は現存する最後の神獣に選ばれた。
「そんでだ。その神獣を作り出した神様って奴がこの世界には居るのは、お前も薄々分かってんだろ?」
「……そうだな」
俺がムーイにナンバースキルを発動させた際に声が聞こえた。
アレが俺を選んだ神獣の創造主なのだろう。
そんな奴に俺は招かれてよく分からない場所へと連れてこられた。
「面会する方法は分かってんだ。しっかりとした手順で会えば願いを叶えてくれるなんて話もある」
「あー……つまり、そいつにあって元の世界に帰してくれって頼むって事か?」
その神って奴が俺達をこんな所に招いたのに態々会いに行かなきゃ行けないとか酷くないか?
「雪一、嫌だって気持ちは俺だって分かるぞ。だから別の方法を探してこの世界を色々と探って回ったけど全く手立てがねえ」
「そこまでか」
「まあ……お前なら何かやらかして次元の壁を超えてあの世界に帰るとか力業が出来る様になるのかも知れねえけどよ」
「健人、お前は俺を何だと思ってんだ」
「化け物だが?」
おい……いや、まあ健人からしたら俺は臨界を迎えて異形化したのに自我を持って進化していく化け物であるのは否定出来ないけどな。
こんな姿になったけど心は人のつもりだぞ。
「ケント、ユキカズはユキカズだぞ?」
「ムーイ、擁護したい気持ちは分かるけどよ。お前とラウ、この村の連中が違うように雪一は他とは違う事はしっかりと認識しなきゃ行けないんだよ」
「むう……」
ムーイは健人に抗議しようとしたけれど、言い返せる話題じゃない。
何より、俺は俺自身がおかしい自覚を持っている。
こんな姿がコロコロと変わって、他の生物に寄生できる能力を持つ存在が人間かというと否と言うしか無いだろう。
「話が逸れたな。この世界からあの世界へ行く術が見つからない状況で、見つけた手立ての話に戻すぞ」
「ああ、件の神って奴が居るって話だろ。健人はなんで会いに行かないんだ?」
「そこがクソほど面倒臭い話なんだがな。手順がな」
手順ね……あれか? ここをレラリア国に当てはめると王様に会うために必要な手順を踏まねばならないみたいな感じ。
謁見の場合は相応の活躍をした際に許可されたりすると聞くな。
「どんな手順が必要なんだ?」
「それを説明する上で必要な話なんだが……まあ、見てくれ」
と、健人は地図を広げて見せてくれる。
どうやらこの世界の地図らしい。
俺達がいるのは……大陸地図で言う所の南西の方角で、地図の中央からはそこそこ離れて居る様だ。なんとなく更に端が俺とムーイが住処にしていた所のような気がする。
これがこの世界なのか?
健人はその地図の真ん中を指さす。
「ここに件の奴の元へと行くことが出来る道があるって話なんだが、この道にタダ行っただけでは使う事が出来ない。ここを中心とした東西南北、それぞれの地域を縄張りにした聖獣って奴が合計4匹いる」
「聖獣……そういや村の人たちが言ってたな」
カーラルジュの襲撃があった際に聖獣を呼ぶみたいな話をしていた。
何だろうと思ったけどここで出て来るとなると途端に怪しくなってくるな。
「この聖獣は人々の守護も担っているそうで非常時には動いて脅威を取り除いてくれる事もあるって話だ。動かない事も多い、場合によっては襲ってくるみたいだけどな。全ては神の命令って事らしい」
「まあ、雰囲気的にはそうだな」
神の兵士って事なのかね。兵士って所は、俺もなのかも知れないけどな。
「要約すると神って奴に会うにはこの東西南北に存在する聖獣の試練……コイツ等を倒して認められてからじゃないと謁見は認められないんだとさ」
非常にシンプルな条件と言えばそうなのだろう。
ただ、そこまで知っている健人がなんでこんな所でぶらぶらしていたのかを考えると考えられる結論は多くない。
「……で、健人はその4匹の聖獣を何匹倒せた訳?」
「倒せてねえよ。アイツらどんだけ強い化け物だと思ってんだよ」
うへー……これで3匹倒してるけど最後の1匹が強すぎて俺達の協力が必要だって話だったらどんだけ楽だった事か。
「異世界の戦士としてナンバースキルが使えた頃なら倒す事は出来たかも知れねえけど今じゃ無理だって話だ。負けても相手の機嫌が良ければトドメは刺されたりしないけどよ。ボコボコにされて散々だったぜ」
どうやら健人は既に挑んで敗北を経験してるって事なのね。
「元の世界に帰る手立ては分かって居る。けど強さが足りない……安直にLv上げって所だけど全然上がらないって所か」
「そうなる。俺だって相当修行したに決まってんだろ。Lvだって上げたけどもうLv限界だっての。地道に色々と巡って限界を引き上げてるけど、それでも手も足も出ねえよ」
まあ……人間、出来る限界ってのはあるよな。
先に体を鍛えてLvを上げる事で伸びが良くなるのは兵役時代に座学で学んだ基礎知識だ。
異世界の戦士の場合、その辺りもステ振りでボーナス掛かったみたいだけどな。
「せめて竜騎兵や魔導兵でもありゃ少しは善戦出来るかとは思うから探してるけど、この世界じゃ見かけねえ。これでも色々とやったけど八方手塞がりって所だったんだよ」
「諦めろと、俺に言うんじゃ無くこうして話したって事は算段があるんだろ?」
「そりゃあな。つーか雪一、お前に話を持ちかける事の意味くらい分かるだろ?」
健人は察しろとばかりに顎で合図を送ってくる。
はあ……要するに俺達と協力して聖獣って化け物を倒して回ろうって話だ。
何か手立てが無いかと探して回るよりはわかりやすい話だ。
「オ、オレ、ユキカズの手伝いをするぞ。ユキカズの行く所は何処までも付いてく!」
ムーイが何か焦るように言ってきた。
置いていくなんて言って無いというのに……。





