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百九十四話

「ユキカズ、前にもその姿っぽいのになってたよなー。オレの腕と背中に巻き付いてた」

「懐かしいな」


 この頃はムーイに甘えっぱなしで……今も似たようなもんか。

 ただ……水晶で反射した自分の姿を見るとやっぱり不気味だな。なんか正気度のチェックとかされそう。

 もしくはマスコットが化け物の体の一部になってコロシテ……とか言いそうな姿と言うべきか?

 口の位置は上半身にある。この状態で潜水出来るのか?


「キュウ」


 俺に引っ付いたままのラウが楽しそうな声を出しながらずり落ちて俺の増えた足という手に引っ付く。

 ヒョイっと持ち上げて頭の上に持ち直す。手が増えて居るって意味だと結構便利な体ではあるよな。

 ……見た目悪いから今はフライアイボールを指定しておこう。


「なんかわかったか?」

「あー……色々と強くなってるみたいだけど、変化に制限……上半身と尻尾が変化出来ない」

「そこら辺はファンシーだから良いんじゃね?」


 良くねえよ。可愛いで済ませるな。

 こんな化け物姿で媚びてどうするんだよ。


「ユキカズ、もうオレとくっつかなくて良いのか?」

「もう寄生しなくてもムーイは死なないだろ?」


 そもそもムーイが死なない様に俺が心臓の代わりに寄生したんだしな。


「え……」


 なんで残念そうな顔をしてんだよ。

 嫌だったろ。体一つ動かすのに俺の許可が要るんだぞ。

 しかも違和感が付きまとうだろ。

 とにかく、これでムーイは自由で俺の肩の荷が下りた……と思いたい。

 ただ、ムーイは本当は死んでてムーイの体を無理矢理動かして想像の人格を与えたに過ぎないのかも知れないって考えが付きまとう。

 ……確かめるのが恐い。


「……」


 ムーイが何かを察したのか俺の顔を見て黙って居る。

 それからムーイは口を開いた。


「ユキカズ」

「ん? どうしたムーイ」

「はい。ユキカズ」


 ムーイが俺に何かを渡そうと手を差し出すので俺も手を伸ばす。

 ……短いので体を使って伸ばす形か……あ、思ったより手が伸びる。本当、マスコットみたいな体付きだ。

 するとムーイは手から……ドロッと丸い饅頭みたいな物を手から出して俺に手渡す。


「……何コレ?」

「ユキカズがオレにくれた何か。凄い力が出たときに体中に出来たのを集めた。ケントとユキカズが話してた侵食ってコレか?」


 スルッと……饅頭が俺の手の平で溶けて消えて行ったぞ!?

 どうなってんだ? 


「ちょっと確認な?」

「うん」


 俺はムーイの体に触れて侵食率を目視で確認する。

 侵食率……2%

 あっれー? ムーイの侵食率が下がってるぞー?


「ムーイの侵食率……下がってんだけど」

「おい、それってナンバースキルの侵食が下がってるって事だよな? お前等手段選ばずぶちかましやがったと思ってたけどよ」


 俺もその決意があったからムーイにナンバースキルを授ける側で選んで発動させたんだぞ?

 不可逆で下がらないはずなのにムーイはなんでって……集めたって言ってたな。


「集めたって……」

「なんかおかしいのか?」


 ムーイの体ってマシュマロみたいな感じで力の源以外はかなり適当に作られている。

 粘土みたいとも言うべきか……そこでおかしな部分を弄って一箇所に集めて排出する事が出来るって事なのか?


「ムーイ、お前……自分の体の一部を切り離しても大丈夫なのか?」

「え? 大丈夫だぞ?」


 ムーイが先ほどと同様にドロッと手から体の一部を自ら切断する。


「しばらくすると動かなくなるけど切り離す時に考えた事をやってくれるー戻さなくても、ふん」


 ポン! っとムーイの減った部分が再生して見せた。寄生してたのに全く知らなかったぞ。

 で、切り離した部分もムーイが触れると体に戻る。


「あ、でもコレすると凄くお腹減るぞ」


 食っただけで失った分を取り戻せるなら十分だろ。お前の魔力で食事は無限に作れるんだし。

 とんだ永久機関、さすがは戦いの申し子ムーイだ。


「つまりだ。雪一がナンバースキルをムーイで発動させて、侵食した所は排出して再生すれば……実質無限にナンバースキルが使えるって事か」


 化け物か!


「問題は俺の授けるナンバースキルは本場の神獣には遙かに劣る性能みたいだけどな。そもそもの話……あの無慈悲な力の反動が大した事無く使えるとか出来たら苦労しないはずなんだが……下手すると力の源に感染して死ぬとかあるぞ」


 何処かで代償を支払う事になるかもしれないと思うとムーイの体は入念にチェックしておかないといけないよな。


「ムーイ、残り2% 増えないように排出出来るか?」

「え……えっと、その……えっと」


 途端にムーイの口調というか態度がしどろもどろになる。

 なんだ? 出来ないのか?

 やっぱり下げられると言っても限度があると見て良い。


「よーしよし、なんか話しづらいみたいだから雪一、お前じゃ無くて俺が内緒で聞いてやろう。ムーイ、それで良いか?」

「う、うん」


 健人が耳を立ててムーイが健人の耳に手を当てて小声でごにょごにょと説明する。


「なるほどなるほど、雪一、問題無いみたいだから気にしなくて良いぞ。これ以上増えたらその度に渡すそうだ」

「いや……そんな危険物をムーイに付けたままってのが嫌なんだが……」

「そこはまあ、そのうち分かるだろ。今は経過を観察するだけで我慢しろ。ムーイもその部分は固めて侵食しないようにしてるって話だからよ」


 安心出来るか! っと思ったけど、健人となぜか恥ずかしそうにしているムーイは話す様子は無い。


「キュウ」


 で、ラウはずっと俺の頭に乗っかって楽しげな声を上げ続けて居る。

 落さない様に面倒を見てるけど……緊張感が何処かへ行ってしまったぞ。

 という所でオウルエンスの村長達が俺の目覚めを聞きつけて集まり手を合せて祈りはじめる。


「この度は我等が村の為に戦って下さり誠にありがとうございます。神獣の申し子様」


 神獣の申し子……なんか呼び名が仰々しい物に変わってるなぁ。


「そんな感謝しなくて良いから……守れなかった者たちも居る」

「……」


 ムーイが俺の言葉に拳を握って静かに目を瞑って黙り込んでいた。


「いえ……あのような脅威に最小限の犠牲で済んだ事を生き残った我等は感謝しなくてはなりません。犠牲になってしまった者たちもあなた様に敵を討って貰って無念も晴れたでしょう」


 ……そうなのだろうか。

 頭の中で何度ももしもを考えてしまう。


「もし、犠牲になった者たちの事を想って下さるのでしたらその分をどうか生きて下さい。魔素となって脅威の贄となってしまったあの者達は、脅威を倒したお陰であなた様の中へと入る事が出来たのです。これほど喜ばしい事は無い、とあの者達も思っていることでしょう」


 種族的な文化なんだろうけど、信仰対象の体の一部へとなれた事を喜ぶって発想か。

 カーラルジュに殺された者たちの魔素が俺に流れ込んだ……そう考えると俺という信仰対象の力を宿した存在と一つになれたと……。

 とても嬉しいとかそんな気持ちには成れないけれど、彼らの意図だけはくみ取ろう。


「……埋葬した墓に案内して下さい。せめて冥福を祈らせてほしい」

「わかりました。こちらです」


 俺はオウルエンスの村長達に連れられて今回の戦いで犠牲になった者たちの墓へと行き、冥福を祈った。

 それから俺達……というか俺は改めてオウルエンスのみんなに歓迎を受けた。

 祭壇のカーラルジュの毛皮を敷き詰めた寝床に座らされて踊りや歌を見せられて村は脅威が取り除かれた事を改めて祝っているようだった。


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