百八十九話
「ヴガアアアアアアアアオオオオ!」
ここでカーラルジュは大きく息を吸って雄叫びを上げる。
ビリビリと空気が振動し、魔力……と思わしき力が凝縮していく。
そして力を解き放つとカーラルジュを中心に爆炎が巻き起こり、周囲に爆風が発生する。
「うわああああ!?」
「ぎゃああああ!」
援護射撃をしていたオウルエンス達がその爆風を受けて吹き飛ばされる。
「危ない!」
ムーイが近くにいた数名をその身をもって庇って助けるけれど、威力が高く吹き飛ばされる。
「うぐ……」
攻撃の一つ一つで目を白黒させてボコボコにされてる。
手も足も出ないってこの事じゃ無いか。
多少攻撃が入ったと思ったのに……。
「ガアアア!」
そこから素早いステップで吹っ飛ばされるオウルエンスに向かってカーラルジュが口を開き、凶悪な牙を立てて噛みついた。
「させるか! ムーイ! 悪いけどちょっと体勢崩す!」
く……貯めていた魔力で熱線を放って阻止しようとしたけどカーラルジュの皮膚を焼くことすら出来なかった!
「ギャ――」
攻撃を受けたから周囲の雑魚を喰らって体力の回復だとばかりの動きだった。
一瞬でかみ砕かれたオウルエンスはビクンビクンと血を吹き出しながら絶命する。
「や、やめろおおお!」
ムーイが防御姿勢を解除して殴り掛かるが力をできる限り込めないとカーラルジュの皮膚すら傷つける事は敵わない。
しかも素早さもあって攻撃を当てることすら難しく、殴り掛かるムーイの拳をカーラルジュは避け、絶命した村人を口に咥えたまま、建物の屋根に着地する。
「てめぇ……」
ムシャムシャと絶命した村人の体を咀嚼しながら健人の方向へカーラルジュは顔を向ける。
まだ遊びは続くぜぇ……と目が笑っているように俺には見えた。
奇襲をするような狡猾な奴だ。単純に正面戦闘だけで戦ってくれるなら……と考えていた所でカーラルジュがとある方向へと顔を向ける。
俺はそっちの方角へと遠距離モードで視線を向ける。
その方向とは、戦闘が出来ない、戦場から避難しようとしている村人達……その中にはラウも混じっている。
「ヴガアアア……」
邪悪な笑みでカーラルジュがそちらへと力強く、後ろ足の力を入れて跳躍する。
「ギャアアアアア!?」
視線が交差し、避難中の村人達が声を上げる。
狙われているのを悟ったのだ。
「カーラルジュが避難しようとしている者たちに狙いを定めた! 誰か足止めしろぉおおお!」
「くっそ、なんて下劣な野郎だ! 力を振るって暴れるだけに止まらず、弱い者を狙うとか」
「キャアアアアア!?」
「キュウウウ!?」
「ラ、ラウウウウ!」
ムーイの声が木霊する。
カーラルジュが狙ったのはラウを抱きかかえて逃げようとしていた村人だ。
そしてカーラルジュの手がツメを完全に立てずに村人を押さえつけていた。
「ヴガァア……」
ニヤァ、と村人とラウを押さえつけたカーラルジュが取り囲む村人と健人に笑みを浮かべる。
少しでも動けばコイツ等は死ぬぞとばかりの表情だ。
「それだけの戦闘力を持ちながら人質まで取って笑うとかとんでもねえ……クソ野郎じゃねえか」
周囲の村人達は恐怖と怒りで顔が歪み、健人は怒りの形相で睨み付ける。
そしてカーラルジュは力を貯め……素早く尻尾の一つを健人に向けて伸ばした。
「受けるかよ! 何――!?」
サッと下がって弾こうとした健人だったが尻尾は健人の足を掠めるように動いた。
「うぐ……な、なんだ!?」
たったそれだけだったのに健人が膝をついてしまった。
見るとカーラルジュの尻尾が掠った所が……金属化している!?
もしやアレはムーイの力か!?
「くっそ……足が重い」
「ヴガアアアア」
これでお前はもう攻撃を避けられねえなぁ! とばかりの勝利の笑みをカーラルジュは浮かべ始める。
「ラウ! ケント! ううううう……ユキカズ」
ムーイが人質にされたラウと足を金属に変えられて追い詰められた健人を前にカーラルジュへの怒りで体を震わせる。
「ヴァウウウウウ!」
これで終わりだぜぇえええええ! とばかりに動けない健人目掛けてカーラルジュが尻尾を鋭くさせて狙いを定める。
これまでなのか? また俺は大事な者達を……何も出来ずに失うって言うのか?
熱線も、ムーイの体を使った攻撃も効果が薄い。魔眼? カーラルジュにさっきから力を貯めつつ魔眼を使っているのだけど効果が無い。
何か無いのか? 俺に出来る事はもう何も無いのか?
考えろ、何も出来ずにされるがままで良いはず無い。常に考えて切れる手札を、何があったって後悔しないで済むように無茶をしろ。
みんなを守るために異世界の戦士としての力を使った時だって自分が死んだって良いと思ってやったんじゃないか。
ムーイの命を繋ぐのだって……手段なんて選んでなんて居られない。
この手の中にある手札と考えからこの状況を切り抜ける手立てが無いかを考えろ。
何も無いと短絡的に諦め、我が身かわいさに居るから大事な者を助けられずに手からこぼれ落ちて行くんだ。
もう俺はあの時のような後悔はしたくない……もっと、前に……みんなの為に、ブルのように咄嗟に誰かを助けられるようになりたいのに……。
何だって良い! 決めたじゃ無いか! 恨まれたって……何をしたって後悔をしないように選んだんだ!
『神獣の力の結晶』
ここでふと……とある単語が脳裏を過ぎった。
ちょっと待て……俺の所持するスキルに何の効果があるのか分からなかったスキルがあったじゃないか。
LBG……このスキル。
もしもだ。もしもこのスキルが俺が思った通りのスキルでオウルエンス達、ラウが俺へ何かを感じ取っているものであるのだとしたら……。
「ムーイ、この状況をどうにか出来る手立てがあるかもしれない」
全てがスローに感じる中で俺はムーイに問いかける。
「ユキカズ!? あれ?」
ムーイが時間の流れの遅さに若干戸惑いながら俺へと顔を向ける。
「ただ、その手立てを使ったらムーイ……お前がいずれ死ぬかも知れない病を与えることになる……それでも……お前は決断出来るか?」
この選択を俺は問わねば成らない。勝手に選んで良いものじゃない。
「出来る! オレは……このまま何も出来ずにラウとケント、みんなを守れない方が嫌だ! ユキカズだって助けたい!」
俺の問いにムーイは即座に答えた。
迷いも無く、即答……凄いな。俺だったらウジウジと考えて機会を逃していた。
「わかった。今でさえ俺のワガママに付き合って貰って居るんだ。今更だったな……ムーイ……俺がお前を……選んでやる」
そう……俺は、LBGを意識しながら……ムーイを選んだ。
直後――!
Last divine beasts BlessinG 発動!
『おーよく気付いたねー頑張れー』
脳内に神獣とは異なる声が響いた。
ヒントかこの野郎!
やっぱり見てやがったな! 絶対に覚えてろよ!
LDBBGに進化!
「ヴガアアアアア!」
カーラルジュが健人に向けて伸ばした尻尾が大きく弾かれる。
「何!?」
そのまま弾丸の様にカーラルジュの顔面に向かって影が接近して強打音が響き、カーラルジュが吹っ飛ぶ。
「ヴウウウガアアア!?」
思わぬ衝撃にカーラルジュは声を上げながら地面に転がる。
そして怒りの形相で先ほどまで自身が居た場所を睨み付けると……そこに立って居たのはムーイだった。
「大丈夫か? ラウとお前」
カーラルジュに押さえつけられていた村人とラウを立たせようとムーイが手を差し出していた。
「あ、ありがとうございます……?」
「ッキュー? キュー!」
助けられた村人がムーイの全身を見て何度も瞬きをする。
「これは……ムーイと……雪一!」
「ヴガアアアア!」
カーラルジュが不意打ちを受けて怒りの雄叫びを上げ、飛びかかってくるので村人とラウを抱き上げてムーイは健人の方へと移動する。
その早さにカーラルジュは目で追うことは出来ても即座に追いつく事は出来ていない。





