百八十三話
どうなんだと聞かれて……俺はため息をするしか無かった。
「はぁ……分析出来なかったよ」
ラウの分析の%は出現するのだけど健人を見ても%が出る様子は無い。
もしかして人化不可能って事じゃ無いよな? 激しく嫌な予感しかない。
「ま、聞いた話だと神って奴は人嫌いらしいからな。その加護を授かった奴が完全に人間には戻れないようにするって事なのかも知れねえ」
嫌な話だ。
そりゃあ力を使った代価として人では無くなったかも知れないけど、こんな力があるなら人に戻りたいと思うだろうに。
「別にいいか。明日から忙しくなるだろうし、そろそろ本格的に休ませて貰うぜ」
「ああ、そんじゃラウの世話は俺に任せてみんな休んでくれ。ムーイ、さすがに今回は寝ているお前の体を時々使わせて貰うぞ」
「わかったぞユキカズ。むしろラウが起きたらオレも起きて手伝うぞ?」
「いやいや、ムーイはしっかり休め」
ムーイは寝る方だ。しっかりと頭だけでも休息を取らないと精神的な疲労を取るのは厳しいだろう。
健人の方は異世界の戦士だし、スタミナ回復力向上を取得していたら短時間の休息で済むから敢えて任せるのも良いかも知れないな。
「うー……」
「ムーイ。気になるのは良いが休むのも大事だぞ」
「そうだぜ。赤ん坊の夜泣きってのは苦労するもんだ。雪一がやるってなら任せて良いだろ。というか……お前は休まねえの?」
「半覚醒にする事は出来ても休みは無い。ムーイの生命維持をしてるんだからな」
今でも俺はムーイの体のエネルギー循環をし続けている。休む事は出来ない。
休んだらムーイが死んでしまうのだからな。
「ユキカズ……」
「気にするな。生活周期がズレてるだけだし、疲労自体はムーイにある程度押しつけてる。継続出来るようにはしてるさ」
あれから寝るとも微妙に違う浅い状態での生活だ。いい加減馴れた。
ただ……時々猛烈にぐっすりと寝たくはなるけどな。
俺は後悔をしたくない。だから今は休んでなんて居られないだけ。
「なんつーか……話を聞くだけでも十分化け物だな、お前」
「うるせー」
「話はわかった。ムーイ、お前さんはしっかり休めば良い。ラウの世話は雪一がするからな」
「……わかった」
「何か目を閉じた時に寝られそうな映像は必要か?」
いつも就寝する際にムーイにしている提案をする。
「大丈夫、今夜は少し考えて寝ていたい。雪一も、出来たらゆっくりして」
「はいはい」
ムーイが寝ている間にラウを凝視して分析しつつ、明日の朝に食べるお菓子作りをしなくちゃ行けない、
……あんまり休めそうではないけどやるしか無いよなー。
「そんじゃラウはムーイの隣の小さなベッドで寝かしつけて……健人、お前も寝とけよ」
「はいはい」
「ユキカズ、おやすみー」
ムーイが俺の指示に従ってベッドで横になって目を瞑って眠ろうとしている。
俺はその状態でラウをあやすために体を伸ばしてベッドの上からのぞき込んで目をくるくると回して興味を引かせつつ眠るのを待つ。
そんな姿を健人はギョッとした様に見て来る。
「なんつーか……何処かのホラー映画みたいな絵面だな」
ベビーベッドの赤ん坊が目玉の化け物に見つめられる光景……しかも目玉の化け物は脇で寝ている奴の腹から伸びてる。
……否定できない。
なんて言うか何処かの外界から隔絶された基地とかでそこで仕事に従事する人々の中に紛れて寄生して仲間を増やす化け物みたいだ。
化け物は俺なんだけどさ。毛頭そんな事をする気は無いぞ。
「本当……人が居たら驚いて一斉攻撃が行われそうな状況」
「良いから寝ろ。じゃないとムーイの力の源を取り返した時にお前に寄生するぞ」
奇異な目で見られていい気なんてしないし、化け物だって自覚はあっても言われて嬉しい訳じゃないんだ。
ちなみに健人は日本語で言ったのでムーイは寝ようとしたままだ。
「へいへい。んじゃ休ませて貰うぜ」
と、健人も椅子に腰掛けて腕を組んで休み始めた。
完全に横にならずにも休めるか……歴戦の戦士って感じだな。
そうして……みんな眠る姿を確認した。
数時間おきにラウは目覚めて泣き始めたりしてちょっと困った。
ミルク以外におむつを替えたりな……健人はおむつ交換で起きて手伝ってくれて非常に助かったな。
そんな夜の間、俺はラウを凝視し続けてオウルエンスの分析を終えたのだった。
翌日。
朝のお菓子作り、今朝はパンケーキのキャラメルソースサンドとパンプキンプリンアラモード、チーズを使ったムースを作った。
ムーイは美味しいと食べて居たけどラウが気になってしょうが無いって様子だったな。
「お菓子に比べてお前の作る普通の料理、本当……不味くは無いが美味くも無いな」
狼男姿になった健人にはパンを焼いてチーズと携帯食でもって来たらしい肉を挟んでハムチーズサンドにして出した。
「うるさい。パンプキンスープで我慢しろ」
ムーイからするとお菓子に近いけどよく分からない判定のパンプキンスープもついでに渡したぞ。
「こっちはまだ美味い方だけどよ」
「冷やせばムーイ感覚でお菓子に近づくだろうからな」
「ただな……料理を出されてもあんまり食欲湧かないな」
「わかってるからそろそろ黙れ」
寄生する魔物が作ったお菓子とか料理とかとんでもない代物とか混じってそうって気持ちは分かる。
俺が健人の立場だったら絶対に受け取らないだろう。
むしろ食う健人の方が人格は出来てると感心したかも知れない。
「ただな。浸食が終わって安定するようになってから甘い物が美味く感じる様になったんだよな。そういう意味じゃ助かるぜ」
「……神獣共は菓子作りを俺に要求してたな。そういえば」
思い出すと菓子作りを要求された覚えがある。
「異世界の戦士は揃って菓子好きになっていたりするかも知れねえぜ?」
「ユキカズのお菓子美味しいぞ!」
「俺は別に、そこまでは……」
菓子作りはたたき込まれただけだし、始まりは美味かったからクッキーを自作で作ってやすく済ませようとしたからに他ならない。
「異世界に来て菓子と言えば覚えてる限りだと贔屓にしてた店っつーか知り合いがいたな。気難しい野郎だったけど、アイツ何してるかな」
ふと、俺に菓子作りを教えた飛空挺の厨房に居た職人を思い出す。
めちゃくちゃ弟子を沢山抱えて居たなアイツ……行く先々の菓子系やパン屋とかで、弟弟子って事でたたき込まれた。
弟子達からどんどん教わって行くって……今にして思えば何処のゲームだろう?
「俺に菓子作りを教えた奴はこんな奴だったな」
壁に向けて俺に菓子を教えたあの職人の姿を映す。
「おー! コイツ見覚えあるぜ。結構老け込んでやがるな。なるほど、その弟子って事か。なんとなく納得だ」
健人も知り合いか……何処まで顔が広いんだ?
ある意味、俺の菓子作りの師匠みたいな奴とも言えるけど別に正式に弟子入りはしてないぞ……。
「そんじゃ……ムーイ、オウルエンスの分析が終わったから、お望み通りに変化させて見るぞ」
「お、おう」
俺は意識してムーイの体にオウルエンスの変化を行う。
するとムーイの体に変化が起こり、皮膚にオウルエンスの特徴である羽毛……っぽい物が生成された。
頭部も同様の変化を起こし、横幅の広いオウルエンスに……ムーイの特徴である垂れ耳は残ったままか。
一応羽毛が付いてる。
足の方も多少は再現出来たかな?
……たぶん、よく見ると何かおかしいって外見なんだろうな。
全身がふわふわ気味になった感じだ。
「おうおう。結構寄せて来たんじゃね? 随分と巨漢のオウルエンスに見えるけどよ」
ちなみに尾羽もちゃんと再現はしてるぞ。
俺の部分的な変化と同じくスキン的な色合いが強いけど、コレで多少は似せられただろう。





