百八十一話
「……ユキカズ?」
「ん? どうした?」
「何でもないぞ」
なんだ? 一体どうしたというのだろうか?
「ともかく、この子はラウって名前みたいだな。それで健人、俺たちをそのままオウルエンスの村まで連れてって良いのか?」
「良いも何もコイツの為にもいかなきゃダメだろ。カーラルジュって犯人を追いかけるのもあるけどよ」
「……カーラルジュは一体何が目的でこんな真似をしてるんだろうな」
「さあな。迷宮種の目的が同種同士で殺しあって力の奪い合いをしてるって話だが、食性なんかも違うみたいだし何か理由でもあるんだろ」
今はラウを安全な所に送り届けるのを優先しなきゃいけないか。
とはいえ……健人のLvは随分と高いし、頼りにしても良いかもしれない。
「健人はカーラルジュと戦って勝てるか?」
「おいおい。異世界の戦士として神獣の力を万全に振るう事が出来たあの時ならともかく今の俺に何を期待してんだ」
おい先輩。
お前は何を言ってんだ。
「あれだけの俊足で動けるなら戦えるだろ」
「そりゃあ遭遇したら全力は尽くすが、この世界じゃ俺より強い奴なんて沢山いるんだぞ? カーラルジュがどんなもんかにもよるだろ」
……確かに、カーラルジュはムーイと戦った段階でかなり強かった。
俺を人質にしなければムーイに敗れていた可能性は高いが……。
「強化された竜騎兵とか魔導兵でもあれば割と楽になりそうだが。生憎とな」
竜騎兵や魔導兵を健人は未所持か。
確かに竜騎兵や魔導兵は白兵戦より遥かに強い。
異世界の戦士の力ならば容易く倒せる相手だけど……Lvが155でも勝てると断言できない相手って事か。
「ま、そんな竜騎兵がいたとしても勝てない化け物ってのがゴロゴロいるのがこの世界だがな」
どんだけ化け物が跋扈してる世界なんだよ。
いや……ムーイの強さから何まで考えれば納得がいくか。
ビリジアンワイルドタイガーだって人間だったら倒すのに苦労する相手だぞ。
少なくともLv50はあってしかも連携を前提に頑張って倒す相手だ。しかもかなり苦労してだぞ。
ムーイの強さを前に麻痺してしまっているという事なのは間違い無い。
「ともかく、そろそろ休むんだろお前等」
「そう……だな」
「うん」
食事もそこそこに終えたし、ここでやらねばならないことは少ない。
「寝る前にターミナルを利用するか」
「壊れちまってるだろ」
「そこは俺が魔物になった影響かターミナルポイントで同様の効果を発揮出来るんだよ」
「便利な能力を持ってる事だな。出来ればここの結界修理とか出来ねえの?」
確かに、それが出来たら魔物の襲撃に対処する事が出来る。
少なくともムーイと健人が休む時間は確保出来るだろう。
「ちょっと確認して見る。ムーイ」
「うん」
俺達は建物から出てターミナルポイントとなっている破壊された大きな水晶の塊へと近づいて、俺はターミナルへの接触を行う。
するとポーンとステータスを確認するアイコンが表示された。
ギガパラサイト(兎束雪一) Lv42 EVO・P 46829
所持スキル 属性熱線 魔眼 収束魔眼 飛行 LGB 分析 分析力向上+++ 変身 熱線威力アップ 飛行速度向上 配下視界共有 変化項目拡張 再生(中)因子採取 毒液 迷宮種・ムーフリスの因子
固有能力 寄生 同化&分離 宿主経験値&Lv強奪 魔力吸引 生命力吸収 肉体干渉 感覚・思考制御 宿主改造 増殖 浸食捕食 強酸噴射 宿主凶暴化指示 超音波
Lv××になった時……
進化条件 Lv50
人間 ×不可 ▽所持スキル
分析▽
変身▽
肉体
体 ギガパラサイト
手 ギガパラサイト
宿主 迷宮種ムーフリス 瀕死
宿主 迷宮種ムーフリス Lv?
所持スキル ミダスの手 スイートグロウ 剛力 頑丈 言語理解 衝撃吸収 天賦の才 世界の断片× 模倣変化 トラウマ暴投× ???…
ムーイの所持するスキルがそこそこ判明しているな。
出来る固有能力に感覚・思考制御内の力に制御解除って力が内包されているのが確認出来る。
これは人間で例えると無意識に制御している力の枷を解き放って……俗に言う火事場の馬鹿力って奴を使えるようにする能力だ。
ムーイの体なら制御を解き放っても耐えきれるだけの力はあるだろう。元々恐ろしく頑丈な体をしてる訳だし。
ただ、問題はその反動がそのまま俺に降りかかるって所だろう。
俺が擬似的なエネルギー源として代用して居るのだからな。
必要な時に使わせて貰えば良いか。スタミナもできる限り持つようにすれば良いし。
しかし……天賦の才って文字通りのスキルをムーイは持ってるのかよ。
模倣変化……ここまでの道中でサンドキラーシャークに変化した時の奴だな。しかも俺の所持する解析能力との適応性も高い。
で、トラウマ暴投ってなんだ? こっちは今は暗転して効果は無いみたいだけど、ムーイってトラウマがあるのか?
後は俺の方の変化だけどあれから結構戦って来た影響で42まで上がったか……何度も上位の魔物へと進化してきた訳だからすぐには進化出来ないか。
いい加減ゲイザーにそろそろ届きそうな進化Lvになって来てるなぁ。
……累積で考えると健人に負けないくらいに俺も色々と稼いでいる。
っと、俺達自身のここ数日での成長を振り返る。
そりゃあ……とんでもない数の魔物を相手に戦って居た訳だしな、無数に湧き出るアントライン達やサンドキラーシャークなんかも倒してきた訳だし、上がっても不思議じゃ無いが、それにしても早くないか?
元々ムーイに引き上げて貰って居たけどアレは俺が弱い魔物だったからで何度も一極で進化してきている今の状態でこうトントン拍子で上がって良いのか?
そもそも進化の袋小路というか分析が必要になる時期になる可能性も高い。
考えを戻して……ムーイの持つスキル、天賦の才が経験値増加系のスキルだった場合は上昇が早くても何の不思議も無い。
とは思いつつ人間だった頃にトーラビッヒに置いてきぼりを喰らって異世界の戦士に授けられた罠の武器で戦った際に上がったLvを考えたらこれくらいは上がっても良い事には……なるよな。
俺も大分ムーイの心臓代わりになる事が出来てきていると思った方が前向きか。
ただ進化する際にこの先に何があるのか……何度も考えてるけど先が恐ろしいな。
で、配下生成から増殖って固有能力を得てるけど増殖って……何を増殖させるんだ?
意識的に今は触れたくない。
ただ超音波ってのは便利そうだな。必要になったら使おう。
と簡易的にステータス確認を終えてターミナルの修理が出来ないかの調査を行う。
「うーん……あっちの世界にあるターミナルなら機械的で仕組みはわかりやすいんだが……」
目を見開いて砕けた水晶部分を念入りに確認すると……人間だった頃に習得した鑑定系の技能と、何かの力が作用して水晶に流れる魔力の流れが確認出来る。
ひび割れた所為で流れが断線してしまっているようだ。ただ、研磨というかもう少ししっかりと切り分けて力場の循環を弄ってターミナルポイントへの接続をすれば修理が出来る様な気がする。
「ちょっと熱線を使うぞ」
「うん」
目を開いて熱線を圧縮して溶接するかの如く、水晶を焼き切って破損部分を除去し流れ込む力場の力を同様に魔眼で操作して循環出来る様に内部に文様を刻み込む。
するとパァ……っと水晶から光が流れ始めバァ! っと結界が生成される。
う……なんか気持ち悪い嫌な感じと外へと強く弾き飛ばされそうになる。やや俺は結界からしてグレーっぽいのだろう。
もしかしてコレって対魔とか魔物避け効果か?
修理したのは俺なので構築内のシステム領域へと寄生を実行……俺とムーイを例外処理する。
「お? 直ったか?」
「一応な。直した瞬間。外敵認識で弾かれそうになったけど修理出来るもんなんだな」
ギガパラサイトとしての力なのか、はたまた俺の体の力なのかは分からないけどこの世界のターミナルを修理出来て良かった。
ひとまずこのターミナルのエネルギーが残っている限りは強力すぎる魔物以外はここに入る事は出来ない。





