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十八話

「ど、どうしてそう思うんですか?」


 今どもったな。

 なるほど。そういうわけね。

 これはトーラビッヒの蛮行への査問懇願書が通ったけれど別の何か困る案件を所持する人物がやってきてしまったとかそんなところなんだな。

 それがフィリンにとって悩みになりそうで俺に相談に来たと。

 確かに一介の新兵には荷が重そうではある。


「んー……あくまで新兵仲間として相談に乗るよ。ただ、フィリンの過去とか俺は知らないし、俺も過去を話してもいない。ブルの過去だって俺は殆ど知らないからね」

「は、はい……そうですね。なんと言いますか、今回のトーラビッヒ隊の行動は激しく問題があるので、制度に従って査問懇願書を送りました。ですが……その所為で来たと思わしきライラ上級騎士は私の知り合いでして……その……」


 上級騎士と知り合いってどんな関係なんだろう?

 近所の幼馴染とか? 親戚?


「私は、実は良い家の出でして、その……色々とその地位で生臭い事に嫌気がさしたのも然ることながら優遇されたところではなく、一般人から出世する事を経験したいと思って兵役に志願しました」


 言葉を選んできたなー。

 まあ、かなりの美少女だから良い所の家の出と言うのは納得がいく。

 最初から兵士って感じじゃなかったしね。

 これがいわゆる、貴族の令嬢が家出して1からがんばっている、みたいな感じなのかもしれない。


 解体とか厳しい業務等で青い顔をしながら音を上げないのは本人がしっかりとやり遂げたいという強い意志を持っているからなのか。

 で、厳しい兵役を経験して出世して強くなりたい、だけどあまりにもブラックな、本来の兵士ですら音を上げる劣悪環境に異を唱えたら家の権力繋がりの知り合いが来てしまったとかなんだな。


「じゃあフィリンはどうしたいの?」

「私は……兵士としてのお務めをしたいです」

「なら言ってみればいいんじゃない? ライラ上級騎士ってその辺りの話を聞かない人なの?」

「……」


 フィリンが言葉に詰まってる。


「話はしていないからよくわからないけど、フィリンを心配して来てくれたのなら、まずは話をしてからでいいんじゃない? 言わなきゃ伝わらない事だってあるさ。それでダメなら別の方法を考えていこう?」


 こう、先入観で仲が悪くなっていて話す機会が得られずにいる、みたいに感じる。

 まずは互いに話をしてからでいいだろう。


「そう、ですね。もう一度話をしてみます」

「ブー」

「ユキカズさんはブルさんと仲良くできていますもんね。私、がんばってみます」


 ん?

 俺とブルが仲良くできている事がどうして関係あるのだろうか?

 フィリンは納得したのか笑顔になって手を振って部屋を出ていく。

 ああ、花が出ていくと思ってしまうのが悲しい。


「ブーブー」


 ブルが手を振り、俺もフィリンに手を振ってから扉を閉めた。

 ……さてと、俺達にできる事って何かあるのかな?


「ブー……」


 ブルも何か考えているようだけど……良い案は出てこない。

 新兵ができる事の範囲なんて限られてる。

 精々野次馬の如くフィリンの後ろを追跡していくしかないが……それもどうなんだ?

 やがてブルは考えるのをやめて、今度は腹を見せて俺に足を持ってほしいと指示してくる。


「はいはい」


 面倒なのでブルの足先に膝を乗せて座る。

 それで良かったのかブルは腹筋を始める。

 その卵型の体形で良く腹が持ち上がるよなぁ。


 ……見ていると普段はよくわからないけど、筋肉が力を入れた瞬間盛りあがっているのが分かった。

 何だかんだ言って筋肉質なんだなー。

 そんなわけでその日の晩は特にする事も無く時間が過ぎていったのだった。




 翌朝。

 ゴーンゴーンと何処からか寮の鐘が鳴り響いた。

 これって起床の合図か?

 初めて聞いたぞ。


「起床ー! 総員直ちにギルド裏の訓練所に集まる事!」


 寮員の兵士がそう伝達してくる。

 急いで起き上がり、着替えて指示の場所に集まる。

 一応整列する感じに集まるわけだけど……ここ三週間で分かる範囲の人員の……三分の一くらいしかいないんじゃないか?


 あ、フィリンも来た。

 ちょっと眠そうだ。


 で、凄く派手な装飾が施された鎧を着込んだ昨日の女騎士が壇上に上がって鞘に入ったままの剣を両手で持って壇上の床に立てる。


「諸君、おはよう」


 ……これは返事をするべきか。

 訓練校ではそうだったし。


「おはようございます!」

「ブー!」


 俺に合わせてブルが鳴く。

 フィリンもほぼ同じタイミングで答えていた。

 あ、女騎士が俺達の方を見て笑顔になった。


「返事をしなかった者は弛んでいるぞ! 腕立て100回!」


 はー? って感じで周りの兵士共が不満を満点にした顔で壇上の女騎士を睨む。


「なんだ? 不満だと言うのか? ふむ……まあ、罰を実行する前に自己紹介からした方が良いな」


 女騎士はそう言ってからマントをはためかせてから自己紹介を始める。


「私は国から派遣され、本日付けでエミロヴィアの兵士関連組織の代表となったライラ=エル=ローレシアである。この意味がわかるな?」


 よく事情を理解していなかった者達が総じて顔色を曇らせた。

 てこ入れに国から面倒そうな人が来たって態度がにじみ出ている。

 とはいえ、ここは国の兵士が仕事をする場なわけで……みんな揃って代表であるライラ上級騎士様の指示に従う。

 連帯責任で俺達も腕立てをしろとか言われなくて助かった。


「ブ」


 腕立て伏せをしている連中を若干羨ましそうに見ていた相棒がいたので肘で小突いて注意する。


「まったく……嘆かわしいものだ。新兵にも劣る指揮系統だとはな。もう一度訓練校で学んでくるか貴様等!」


 ライラ上級騎士は額に手を当てて頭を振る。


「しかもだ。起きてこられない者達まで居て、それが階位の高い者が多いとは何たることか! 弛んでいるぞ! 腕立て伏せが終わった者は急いで寝ぼけている奴をひっ捕らえてこい!」


 そんな様子で、エミロヴィアの兵士達が全員集まるのに1時間くらい掛った。

 挙句、遅れてきた奴は罰の腕立て伏せをしながらの朝礼だ。


「貴様等! 本当に我が国の兵士かと疑いたくなるぞ! 訓練校時代は元より、日々の鍛錬をしていないのか!」


 少なくともここ三週間を見る限りしてませんねー! とチクリたくなる。


「クソッ! 夜遅くまで仕事をさせおって……その癖、朝早くに起こすとは何たる屈辱!」


 腕立て伏せでヒーヒー言ってるトーラビッヒをもっと見ていたいし、どうしたものか。

 お前が日々俺達にした事だろ。

 これからはお前もやるんだよぉ。


 アレ?

 俺って結構性格悪い?


 自覚してしまって罪悪感が湧いてくる。

 ここはブルを見て、心を浄化しよう。


「ブ?」


 視線に気付いたブルが不思議がっている。

 天然なところを見て浄化されるようだ。


「まったく……だらしがない! 朝礼が終わり次第、交代で10キロのマラソンだ、お前等!」


 うーん、この訓練校時代の感覚、懐かしいね。

 そんなわけで本日は10キロのマラソンをさせられた。

 朝食の前の軽い運動って感じで清々しい気分になる。

 ああ、一応Lvとかスキルの関係で怠けていてもできなくはない程度の物だね。

 交代でと言うのはギルド等の業務に支障の出ない範囲での事かな?


 そんなわけで日が昇ってきた頃、普段からエミロヴィアで怠けている連中は挙ってへとへとになっていた。

 平気なのはブラックな業務にヒーヒー言いながらがんばっていた人達くらいかな?

 兵役に就いてもこんな所で差が開くんだなと思い知らされた。

 Lvは俺より高いはずなんだけどな。


「さて、朝の訓練はこれくらいにして、後ほど全兵士に個人面談を行う。時間になったら呼ぶのでそれぞれ業務に戻るように」


 という形で解散となった。

 ああ、そうそう、勘違いしていたのだが、トーラビッヒはエミロヴィアの街の幹部だけど代表ってわけじゃないみたいだ。

 その全ての代表を集めてライラ上級騎士は説教をしたようだけどね。


「クッソ……どこのどいつだというのだ! 懇願書は全てもみ消したのに! 密告したのは誰だ!」


 ライラ上級騎士が立ち去った後、トーラビッヒが喚き散らしたのを俺は聞いた。

 もみ消しって……俺達の懇願書はもみ消されていたのかよ。

 想像通り過ぎて笑えてくる。


 つーか……それって危なくないか?

 もしかしてその所為で俺達はブラックな仕事を連日させられていたのか?

 なんとも、世の中の腐敗に寒気がする。


 どちらにしてもトーラビッヒ。

 お前の天下は終わりだなぁ!


 そう思いながら俺は業務にむか……俺達の業務って何?

 どこに行けば良いんだ?


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