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百七十五話

「ユキカズ、何か分かるか?」

「うーん……」 


 少なくとも俺の知る異世界の経験ではよく分からない。

 未知の人種に砕けた水晶とターミナルポイント……単純にターミナルポイントだけなら問題は無いが砕けた水晶がターミナルポイントに合わせるように置かれているのだ。

 砕けた水晶に目を向けて確認すると何か効果がある代物なのは分かるけど破損して居る所為で判断出来ない。


「ユキカズ……そのな……今のオレ達は急がないと行けないけどな……」

「どうした?」


 ムーイが何やら言いづらそうに俺に何かを伝えようとしている。


「この村の……人たちを埋葬ってのをしてあげたい。このまま野ざらしで居て良いはず……無いと思うから」

「……そうだな」


 見知らぬ赤の他人所か人かどうか判断が難しい謎の者たちを丁重に埋葬したいという考えをパッと俺は出てこなかった。

 ムーイが提案しなければ俺はこの村らしき場所の人たちをそのままにカーラルジュの追跡をするかターミナルポイントを利用するだけしてその場を去っただろう。

 そう考えるとムーイの方が実に人らしい感情を持っている。

 ……色々と感覚が麻痺してしまったのか、俺自身が魔物へと心まで変化してしまっているのか。

 元々俺が薄情な人間だったんじゃないかって思えてしまう。

 尊敬するブルやフィリンが初見でこんな状況に遭遇したら……きっとここで死んでしまっている者たちを手厚く埋葬するだろう。

 それがせめて出来る手向けなんだから。


「じゃあ……」

「ああ、彼らの冥福を祈るために亡骸を集めて穴を掘ろう」


 エネルギーの消耗を考えたら良くはないけど、幸いにしてカーラルジュが行っただろう痕跡からムーイのエネルギーは確保出来る。


「うん……」


 俺達は目の付く所にある亡骸を屋根の残っている安全そうな建物へと運び、並べる。

 穴を掘る前にできる限り彼らを集めてあげるべきだろう。

 フクロウっぽい人の虚ろな瞳はもう何も映すことはない……その瞳をムーイに頼んで閉じさせる。

 広場で食い散らかされた亡骸も丁寧に集める。


「……」


 ムーイは顔を強ばらせて淡々と残骸を拾い集めていく。

 村中を隈無く見る事になり、彼らの生活の名残が沢山残されていた。

 申し訳ないけど生活物資として後で使わせて貰う事になるだろうな。

 等と思いながらとある壊れ気味の家へと差し掛かった所……無残に切り刻まれた二名の、男女っぽいフクロウっぽい人種のカップルの亡骸を見つけた。

 家の扉諸共壊されて居て、この亡骸に致命傷を与えたのがカーラルジュであるのは即座に判断出来る。

 部屋の奥にはかまどがある様だ。

 カーラルジュが来なければ今でもこの村の人たちは平穏無事に過ごす事が出来たんだろう。

 そう思いながら亡骸を抱き上げて運ぼうとしたその時。


「――」


 小さく家の中で何か……聞き逃し兼ねない程の小さい声が聞こえた。


「ユキカズ!」

「ああ、気のせいじゃないだろう。俺達の声が聞こえるか? 敵意はない。どうか怯えないで出てきてくれないか?」


 異世界でも言葉とか違ったりするので俺達の言葉が通じないかも知れない。けれど、それでも意思疎通が出来れば十分だ。

 怯えられたらその場を去れば良いだけ。

 すがるような思いで俺とムーイは小さな声を出した主へと呼びかける。


「……」


 が、声の主からの返事はない。

 ただ、小さく時々声が漏れるように聞こえるだけだ。


「…………?」

「ムーイ。声の位置は分かるな?」

「うん」


 ムーイの聴覚と俺の聴覚を合わせて微かすぎる声の位置を特定して近づく。

 それはかまどの上の壁から聞こえてくる。

 こんな場所に?

 と、思いながら俺とムーイは壁へと近づいて聞き耳を立てる。

 石レンガが一つ、真新しい形跡がある。隙間から風も少し流れているようだ。

 これ、たぶん外せるな。


「ムーイ。そこのレンガが外せる様になっている。ちょっと取ってみてくれ」

「だ、大丈夫なのか?」

「ああ、問題無い」


 俺の指示を受けてムーイが真新しいレンガに手を引っかけて引くとズズズ……とずれて取る事が出来た。

 その奥を照らして確認すると毛布が詰められているのが分かった。


「これは……」

「――!」


 何だろうとムーイに毛布を取り出して貰った所で俺とムーイは言葉を失ってしまった。

 その毛布に包まって居たのは……フクロウの雛と思わしき……弱り切ってしまっていた赤ん坊だったのだ。

 こんな所になんで赤ん坊がいるんだと思ったが、おそらくカーラルジュの襲撃が来た際にこの家に居た男女……おそらくこの子の両親が咄嗟に隠したんだろうという事は察する事が出来る。


「ュ……」

「ユ、ユキカズ! ど、どうしたら良いんだ!?」

「ムーイ、落ち着け。まずは容態を確認する事が先決だ」


 俺は目を見開いて弱り切った赤ん坊を観察する。

 オウルエンス 衰弱

 どうやらオウルエンスという種族名らしい。状態は衰弱ってそりゃあそうだろ。

 脱水症状とか色々と弱り切っているのが分かるが……人間の赤ん坊と同じ扱いで良いのか?

 少々判断に悩むけど救急処置をすべきだよな。

 俺は赤ん坊に向けて回復魔法を施した。

 ただ、あくまで回復魔法は応急的な代物で症状の改善には至らない。

 おそらくこの子は数日、食事を摂っていないのが衰弱の原因だ。


「ムーイ、水筒の水をパームミルクにするんだ」

「わ、わかった!」


 ムーイが水筒を取り出し中の液体をパームミルクへと変化させる。

 フクロウ型の人種がミルクを飲むかどうか判断に悩んだけど、室内の様子、鍋からこぼれた腐敗したシチューっぽい物から判断するしかない。


「後は……ちょっとムーイ、水筒をしっかりと持ってろよ」


 熱線を収束させて水筒内に照射して人肌、フクロウってちょっと体温が高そうだからやや高めに温めて触手の先端に漬けて赤ん坊の口元に付ける。


「ュ……キ……ュウ……」


 口にミルクが触れてすぐに、赤ん坊は舌を動かして俺の触手を舐める。

 よし! まだこの子には生きる意志がある。

 何度も水筒からミルクを触手に付けて赤ん坊の口元に付けると、徐々に赤ん坊は口元を動かし啜り始める。


「ムーイ、ゆっくりと俺の触手の上に数滴ずつミルクを垂らしてくれ」

「うん。こうだな」


 赤ん坊を支えながらムーイは俺の指示した通りに水筒に入っているミルクを垂らして赤ん坊にミルクを与え続ける。

 俺はその間に赤ん坊の生命力を回復させるために回復魔法と適度な温度に熱線を照射して体温を高めさせる。


「ゥ……ウウ……キュウ! キュウ! ウウウウウ!」


 っとミルクを得たお陰で赤ん坊は徐々にだけど声を強め始めた。

 まだ予断を許さない状況だけど、それでも一歩前進したのは間違い無い。


「ユキカズ、コレって……」

「ああ、唯一の生存者、かもしれないな」


 少なくともこの村に残された生存者であるのは間違い無いだろう。

 じゃなきゃ俺達がここに来た所で他のオウルエンスって人種が逃げるなり戦ったりしているはずだ。

 野ざらしで死体を放置して居るって事は無いと思いたい。


「しかも赤ん坊だな。この家に転がっているのはこの子の親だろう」

「赤ん坊……」

「ウウウ……」

「弱ってはいるけど外傷は殆ど無い。栄養のある食事を与えて行けば元気にはなると思うけど……」

「おー……おうおう」


 ムーイが本能的なのか俺が前に映像で見せた町並みの赤ん坊を抱えた母親の真似をして赤ん坊をあやし始める。


「良かった……生き残ってくれていたんだな」


 ムーイが生き残りの赤ん坊を見つめて薄らと涙を浮かべている。

 そうだな。生存者がいてくれた事を今は喜ぶのが一番だろう。


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イラストの説明
― 新着の感想 ―
[良い点] 実は、少し前まで、「ユキカズとムーイの二人だけで話を続けるのは、物語の展開的に厳しいのでは?」という感想を送ろうと思っていました。 第2部では、カーラルジュが登場したときに一気に物語が動き…
2021/01/26 12:06 退会済み
管理
[良い点] 今まで散々モンスターぶち転がしておいて何を……と思わなくもないけれど、ユキカズの思い入れありそうな種族だから大事にできるムーイの優しさが留まるところを知らない
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