百七十三話
「ムーイ、俺にも見える様にしてくれ」
「わかったー」
腹をムーイが壁から突き出したので俺は目を開いて周囲を照射する。
「見た所……魔物の気配も無く、水場があるって所に出たみたいだ」
地下水道に出たっぽいな。よくよく確認すると淡く光るキノコや苔が生えた場所のようだ。
荒野砂漠の地下にある水脈とはしゃれた場所だ。
安全地帯って事で一休みするのにも良さそうだ。
なんだかんだ地表には色々と魔物がいるし、空には距離を取っていたけど飛ぶ魔物、ボムコンドルって魔物が旋回してた。
「大分疲れただろうし、そろそろ今日は休んで置くか」
「わかったぞ」
途中で確保した魔石を淡く火を点けて光源にして俺達はその日の野営地を決めた。
今日だけでかなり稼いだのが感覚で分かるな。
「頑張ったムーイの為に色々と作らないと行けないな」
「ユキカズ、あそこにあるのってキノコって奴だろ? オレが食べれるものに出来ないのか?」
キノコをお菓子に?
パッと浮かんで来るのはキノコ型のお菓子で、キノコを食材にするとなるとかなり難しいぞ?
そもそも傘の部分をチョコレートとかにする感じが適して居るが、ムーイはチョコレートをよく知らない。
キノコをクッキーに入れたりマフィンの具材に入れると作れるな。
「具材に入れるとかには出来るのがあるとは思うけど、コレってほどムーイが楽しめる驚きは難しいな」
「そうなのかー?」
「ああ、マフィンとかの具に入って居る程度だな。味の違いを楽しむ程度になる」
「そっか」
「そんなにキノコが食べたいのならムーイなら簡単にできる駄菓子があるぞ? ちょっと代用になるが」
「なんだなんだ?」
「その前に、今夜作ろうと思っていたお菓子の材料を今回は作るか、その過程でキノコをムーイがお菓子に出来るぞ」
せっかくの野営でそんな代物を作ってどうするんだ? とは思うけどムーイに覚えて貰えば今後はレシピを省略できるのでやっておくべきだ。
「オレも作れるお菓子! 凄く楽しみだぞ」
「よし、じゃあ作成に入るぞ」
俺は収納していた調理器具を出して菓子作りを行う。
「まず作るのはパンプキンシード産のシードバターとキャラメルだ。ムーイ、朝話したカボチャをそこにある手頃な岩を変化させて種を出してくれ」
「わかったぞー」
っとムーイは記憶を頼りに転がっていた岩をカボチャに変化させる。
直後にパァン! っと弾けた。
結構再現率高いな。ムーイの力も。
「んしょ、んしょ……これで良いのか?」
ゴロッとムーイがカボチャと種を選り分ける。
「ああ」
俺は種をフライパンに乗せて熱線を照射して乾燥させる。
上手いこと行けば良いけど……っとしばらく照射した所で香ばしい匂いが漂い始めた。
どうやら成功したようだ。この種に破裂する性質は無いので助かった。
「種のロースト完成っと。まずは段階別にムーイに味わって貰わないとな」
触手を鋭くさせてパキッと数個割ってムーイに差し出す。
「種だなー美味しいのか?」
「まずは試食って奴だよ。しっかりと覚えれば、今後作るお菓子の付け合わせになるんだぞ」
酒場とかだと塩で軽く炒めれば酒のつまみになるだろ。
「わかったー」
っとムーイはポリポリとカボチャの種を頬張る。
「んー……前に食べたのより美味しいと思うけど、そこまでじゃないのなー」
「そりゃあ材料だからな」
俺はリズミカルにパキパキとローストした種を割って実を出しながら併用してカボチャを鍋で煮る。
こっちも一度爆発したら問題無く処理出来るようだ。
爆発の仕掛け部分は別の所にあるって所だな。
なんて思いながら種から実を出し終えた所で一部を分けて、別のボウルに種を入れてできる限りきめ細かくなるように潰し続ける。
「ゴリゴリゴリー」
その様子をわくわくしながらムーイは見続けている。
やがて練り続けると油分が出てきて粘り気が出てきた。
うん……上手く行ったぞ。俺の知るカボチャの種より油分が多い種類だったようで助かった。爆発する際の火薬成分とかが原因かも知れないな。
念のためにマーガリンも少し入れて油分を補充して誤魔化しつつ適度に味見……固めに出来ていて甘みがちょっと少ないか。
砂糖を追加して味を調整して完成っと。
ピーナッツバターとは違った風味になってる。
「よし、名付けてダンジョンパンプキンシードバター」
完成したパンプキンシードバターをムーイに差し出して舐めさせる。
「甘くてコクがあるぞー! ユキカズ凄いな! 今までに無い味ー」
「種の種類によって味わいが色々と違うんだけどな。で、次は水をパームミルクを更に油分の濃度を上げたクリームにしてくれ」
「うん!」
ムーイは水を俺の指示した通りに前に食べさせたクリームを再現させる。
これにマーガリンと砂糖を用意してフライパンでカラメルを作成しクリームやマーガリンを混ぜながらキャラメルを作って冷やして固める。
「よし、キャラメルも出来た」
「飴を作ってるみたいだって思ったけど違うのが出来たぞ」
「チョコレートとも違うけど少し似ているお菓子だな」
キャラメルを切り分けてムーイに与える。
ムーイはキャラメルを頬張ると幸せそうに顔をほころばせる。
「これも甘くて優しい味がするぞ。ユキカズの気持ちがこもってる気がして元気になるぞ」
何を言ってんだか、人を褒めるのがどんどん上手くなってるなお前。
なんて苦笑しつつ出来たパンプキンシードバターとキャラメルを雑に混ぜつつ、ローストした種をざっくりと投入する。
「後は……ムーイ、クッキーを用意してくれ」
「これで良いのかー?」
平らな形の石を二つクッキーに変化させたので一枚の上に混ぜた材料を塗ってサンドする。
これだけでもクッキーサンドになるけど、一工夫して切り分けて……キャラメルでコーティングすれば完成だな。
「よし完成、キャラメルサンドってな」
色々とこれってお菓子の名前があるからどれって決めるのは難しいけど、こんなお菓子があっても良いだろう。
「わー……」
ちなみにこれって携帯食としてもの凄い高カロリー食品だよなー。
「いただきまーす! んー! 凄い! ユキカズはやっぱりいろんなお菓子作ってくれるぞー!」
目をキラキラさせていたムーイはキャラメルサンドをボリボリと頬張って食べている。
「あのカボチャでいろんなお菓子が作れるんだなー」
「まだまだ色々と作るから待ってろよームーイ色々と頼むから回復した魔力の範囲で物を変えてくれよ」
併用して煮ていたカボチャの実の湯切りをして丁寧にマッシュして卵にクリーム、手持ちの薬草を加えてペーストを作成。
もちろんここでもムーイに味見をさせて覚えて貰った。
後は小麦粉でパイ生地を作って……じっくりとフライパンに蓋をしてパンプキンパイが完成っと。
「凄い凄い。あの不味いと思ったカボチャがここまでいろんなお菓子になるなんて思わなかったー」
ムシャムシャと作ったお菓子を食べ終えたムーイは興奮した様子でお腹、俺の居る場所の脇を撫でながら答える。
「ユキカズ、この世界には無駄な物なんて何も無いんだな。今まで要らないと思っていた物でも本当はこうして使い道があるって事なんだ」
なんかムーイが真理みたいな事を言っている。





