百七十一話
「掌握したぞ……」
「ユキカズ凄いな」
「今の俺達はとてもじゃないが酷い事をしているようなもんだけどな。それでムーイ。お前の願い通りにしたけどこれからどうするんだ?」
「砂の中を早く動けるだろ? このまま進んで行けば良いと思ったけど駄目なのか? 他のサンドキラーシャークを見つけたらユキカズが目で観察すればすぐに解析終わると思った」
まあ……実に効率的な行動だな。
ただ俺の人としての心がダメージを受けてしまった気がしなくも無い。
こんな戦い方が果たして良い事なのか……生き残るのに必要だと思って妥協するしか無いか。
このままだとカーラルジュに追いつくなんて夢のまた夢だし。
「それに……」
「それに?」
「んー……ちょっと待ってて、まだ分からないから」
何やらムーイは他にも考えがあるらしい。
とにかく、結果良しって事で俺は寄生したサンドキラーシャークの体を使って砂の中を進ませる事にした。
サー……っと砂を切る音と共にサンドキラーシャークは進んで行く。
掌握した体の感覚なんだけど音を基準にして地形を把握しているようだ。
そりゃあそうだよな。砂の中を見るなんて透視でもしなきゃ出来ない。
ただ、砂から顔を出して地上を見る目は残っている。
うん。ギガパラサイトに進化した影響で出来る事は増えたな。
ただ……動き自体はかなりぎこちないのは間違い無い。
人の感性で表現すると……ゾンビみたいなぎこちない動きをしているんだろうなってのは分かる。
これを自然に思った場所へ行かせるように操作するのが洗脳って改造項目なんだろう。
で……掌握するまでにサンドキラーシャークは怪我をしてしまって居る訳で血のにおいを嗅ぎつけて他のサンドキラーシャークがこっちに隙あらば攻撃しようと近くを泳いで居る。
「うーん……ユキカズ、ちょっとこの状態だと暇だな」
サンドキラーシャークの腹に収まっているムーイが今更な事を言った。
先に収まっていたデザートブレードコヨーテは魔石を抜き取った後、胃袋の奥……腸へと押し込んで置いた。
しばらくは燃料として使われるだろう。
胃袋は掌握したので胃液の分泌を無くして……文字通り袋的な空間になっている。
「……しょうがないな」
魔眼で胃壁にソナー映像をムーイに見せる。
細部まで見せる余裕は無いので周囲に居る敵の所だけを見せて居る形だ。
「わ、なんだ? この点」
「周囲に居る他の魔物だ」
「へー! 凄いな!」
「そうなんだけどどうやらこっちが弱って居ると思って居るのか攻撃しようとしてきてる。下手にやられたら砂の中に生き埋めだな」
早く移動する事は出来ても狙われる可能性が増すか。
って所で弱って居ると判断されたのかガブ! っとサンドキラーシャークがこっちが操っているサンドキラーシャークに噛みついてきた。
くっそ! 離しやがれ!
と、振りほどいて噛み返しながら急いで泳ぎ、地上へと逃げようと思ったのだけど上が固い岩盤となっている。
どうなってんだ?
そのまま地上に出られそうな所を探しながら急いで泳がせる。
く……消耗が激しすぎて魔石に内包されたエネルギーが尽きた。
ムーイの燃費軽減をしているけど間接的にサンドキラーシャークの体まで操っているので消耗が加速して居る。
って所で……なんだ? ズボォ! っと突如砂の中だったはずなのに何かに突き抜けてしまい地面に転がる。
「ユ、ユキカズ大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫じゃないな。急いで脱出した方が良い」
サンドキラーシャークとの接続を切断して俺自身の手をムーイの体の中に戻す。
ムーイにサンドキラーシャークの腹から出るように指示を出し、腹を切り裂いて外に出ると暗い。
最後にサンドキラーシャークの体のソナーで確認した感じだと……空洞に出てしまった感じだったと思う。
ビチビチ! っと隣で音が響くので魔眼で照らすと、地面で跳ねて抵抗する攻撃してきたサンドキラーシャークが居た。
「シャアアアアア……」
「ガァオオオン」
嫌な予感に音の方へムーイが振り向く。
するとそこにはアントラインという……丈夫な顎を持つ、アリに似て異なる昆虫型の魔物とアントラインレオというライオンの上半身にアリの下半身を持つ魔物が群れを成してこちらに集まって居た。
ミルメコレオに似ているけど種類が違うらしい。
「シャアアアアア!」
これは……言わなくても分かるおそらく、この二種の魔物の巣へと突っ込んでしまったんだ。
ご丁寧に幼虫っぽい芋虫がいる。こっちはアントラインラーヴァって魔物だ。
「シャアアア!」
「ガオオオ!」
跳ねているサンドキラーシャークにアントライン達は群がり貪り始め、サンドキラーシャークは絶命してしまった。
次の獲物はとばかりにアントライン達は俺達へと顔を向ける。
「やるしかなさそうだなユキカズ!」
ムーイが竜騎兵用の剣を握りしめて勝ち気に言い放つ。
多勢に無勢とはこの事だと言いたいけれど、今はここを抜け出すのが先決か。
「済まなかったなムーイ。馴れない事をしてこんな危機に陥っちゃって」
「気にしなくて良いぞー提案したのはオレだし、どうせ進んでいたらコイツ等ときっと遭遇した」
だからといって奴らの巣の中に入って大立ち回りをしなきゃ行けないってのもなんか違うような気もする。
「ユキカズ、暗いから灯りを頼むぞ」
「わかってる。周囲をもう少し照らせるようにするからムーイは戦ってくれ!」
「おう!」
っとムーイが勇猛果敢にアントライン達へと飛びかかり、一騎当千とばかりに力の限り竜騎兵用の剣でたたき伏せていく。
とりあえず俺の兵役時代の座学としてアントラインは群れで来る数で押してくる厄介な魔物だけど一匹一匹の戦闘力はそこまで高くは無い。
確か牙が色々と薬や武器の材料とかに使えるし、粘液も接着剤や魔法防御の効果を高めるのに使えたはず……サンドキラーシャークのソナーが上手く確認出来なかったのは巣に使われた粘液の所為か。
「はぁ!」
ダン! っと何度も竜騎兵用の剣を叩きつける事でアントラインを仕留める事が出来ているのだけど、それでも出てくる数が多くて倒しても倒しても増援が駆けつけてくる。
アントラインレオの噛みつきをムーイは手を前に出して受け止めるのだけど噛む力が強い! かみ切られそうになったぞ。
ボッと熱線を強く放射してアントラインの死体を焼いて光源とし、チャージを行って強力な熱線を放ったりして数を減らしたりしているのだけど文字通りキリが無い。
逃げるにしてもサンドキラーシャークが突き抜けた穴は崩落しているし、奥へと行くしか無いけど数が多くて進めない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
倒しても倒しても湧いてきて、経験値をその身に受けて少しずつ強くなっている感覚はして楽にはなっても押されてきている。
「498……499……500……何処まで居るんだコイツ等」
倒せない強さじゃないとしても数の多さは尋常じゃ無い。
もう何時間戦った? 飲まず食わずの長期間戦闘が続いてきて、スタミナとエネルギーが危なくなってきている。
「ん……くうう……」
体に溜め込んだエネルギーをムーイに流し込んで懸命に生命維持と戦闘続行を意識する。
やばいな。無理をして熱線を放つのにも限界が来ている。
「ユキカズ大丈夫か!?」
「ちょっと……厳しいな」
ムーイが力の限り竜騎兵用の剣で回転切りを行って巣の中を進んで居るのだけど、出られる様子がまるで無い。
少しは地上に近づいているかとは思うのだけど行き止まりが多くて戻る羽目になっている。
掘り進めるって発想もあるのだけど、それをするにはアントライン達が邪魔だ。
このままエネルギー切れで死ぬのか……?
くそ……馴れない事をしなきゃ良かった。





