百七十話
「次はあいつだな。ユキカズ、今のオレ達で勝てるか?」
勝てない場合は逃げて隠れるように指示を出す。
目安としては俺の解析の上昇率での分析が最近は指標となっている。
ムーイの体に寄生してから解析の出力も随分と上がっている訳で……うん。頑張れば勝てそうなのが分かるな。
問題は倒すために必要なエネルギーだな。
今の所エネルギーはまだ大丈夫……か。
「試しに行くか」
「うん! 倒したらどれくらいユキカズ強くなるだろうな」
「さてな……そんじゃ……」
俺はムーイにサンドキラーシャークが何処に居るのかネーム部分で見せる。
「対処方法としてはブラッドウォームと変わらないだろうな」
「じゃあユキカズも準備だな」
「わかった。上手いことぶちかませるようにしてくれ」
「うん! 実はユキカズのそれやるとスーッとして良いんだぞ」
今の俺の大技って感じの高威力熱線なんだけどムーイからしても何か感じるのか。
俺は目を瞑って力を貯める。
その間にムーイは竜騎兵用の剣を両手持ちをしてサンドキラーシャークが襲いかかってくるタイミングに合わせて攻撃を仕掛ける。
ゴゴゴ……っと砂の中からサンドキラーシャークが飛びかかってきた。
「おりゃあああ!」
びっしりとのこぎりのような歯が並んだ口でこっちを一撃でかみ切らんとしてくる。
そのサンドキラーシャークの突進をムーイは流れるように見切って竜騎兵用の剣を滑らせる。
ガリガリと剣は切り裂く事が出来ずに火花が散りつつサンドキラーシャークの皮膚を軽く切りつけた。
この程度で仕留めるのは難しいか……。
「ふー……硬いなー」
ムーイが痺れる手を何度も開いたり握ったりして痺れを解消して握り直して構える。
「次は……おー」
サンドキラーシャークは深々と砂の中に潜って行き……俺達の真下から飛び上がるように口を開けて砂から飛び出してくる。
名前が見えて居なかったらどこから来るのか咄嗟に反応するのは遅れて居たかも知れない。
少し地面が揺れていたから遅れても対処は出来ただろうけどな。
ギリギリの所で躱してサンドキラーシャークに掴まり空中でムーイはサンドキラーシャークを足場に跳ね上がって竜騎兵用の剣を大きく振りかぶって重力に従うように叩きつける。
ガツ! っとサンドキラーシャークの鼻先に剣が叩きつけられ僅かに切り裂く事に成功しつつ砂煙を上げながら地面に叩き付けを行った。
「ーー!」
手痛い反撃を受けてサンドキラーシャークは砂の上で悶絶をしている。
「ユキカズ!」
「ちょっとチャージが足りないが……行く!」
「うん!」
悶絶しているサンドキラーシャークの口をムーイは竜騎兵用の剣をつっかえ棒の様に突き立ててこじ開けて……腹を突き出す。
「行くぞ!」
前よりも出力を増した極太の熱線をサンドキラーシャークの腹の中目掛けてぶっ放す。
カッ! とサンドキラーシャークの腹の中に俺の放った熱線が通り過ぎて腹が大きく赤く発光しながら膨れ上がり、ブスブスと煙をサンドキラーシャークは吐き出す。
ビク! ビク! っとサンドキラーシャークは大きく更なる悶絶を行うが、まだ戦闘を継続するとばかりにグググと竜騎兵用の剣で支えられた口を強引に閉じようとしながら砂に潜り始める。
根性があると言うかなんと言うかって奴だ。
「く……仕留め損ねた」
「大丈夫! 絶対に倒して見せる」
「おい!」
ムーイが竜騎兵用の剣を握ってサンドキラーシャークの口の中に飛び込みそのまま腹の中へと入る。
ズブン! っとサンドキラーシャークは俺達を腹に収めると同時に砂の中に潜りこんでしまう。
獲物が腹に収まって満足とばかりにサンドキラーシャークは負傷した体のまま泳ぎだしたようだ。
「ここからどうするんだ?」
サンドキラーシャークの腹の中……狭い空間内で俺は熱線を照射して周囲を照らす。
デザートブレードコヨーテが胃液に浸ってるな。
ムーイの肌は丈夫で酸に耐性でもあるのか?
俺はというと、ギガパラサイトは元々寄生する性質を持っているので大丈夫なのが本能的に分かる。
もちろん俺の熱線を受けて焼けている所も多分にある。
「ユキカズ、ちょっとオレ閃いた事があるからこのままこの魔物を見て解析とか色々と出来ないのか?」
「出来なくは無いが……」
「それじゃできる限り解析して」
「わ、わかった……」
ムーイに寄生しているし、ギガパラサイトへ進化したので解析能力も向上している。
できる限り目を見開き、サンドキラーシャークの体内から解析を行う。
ドクンドクンと鼓動と魔石が何処に内包されているのかを感知する。
やがて解析が終わった。
「終わったぞ」
「じゃあさユキカズ、オレの体からユキカズの手を出してこのサンドキラーシャークを操作して見るのはどうなんだ? 竜騎兵ってのにオレに寄生したまま操作するってこんな感じなんじゃないか?」
なるほど……ムーイの奴、結構考えて戦って居るんだな。
ちょっと試しに出来るか、ギガパラサイトの力を振るって見る。
ムーイの体から俺の手が伸びてサンドキラーシャークの胃壁へと触れて浸食を行う。
俺の視界に掌握までの%が表示されたぞ。
ビク! っとサンドキラーシャークの体が異物に対して大きく拒絶反応を起こし始めるがギガパラサイトとしての力が異物を排除しようとする力をねじ伏せてドンドン、浸食していく。
同時にサンドキラーシャークの体を通じて酸素の供給が出来るようになった。
「!!!???」
体内から浸食を受けてサンドキラーシャークが砂の中で暴れ始める。
やっている俺が思う事じゃないとは思うけど邪悪な戦闘方法だなぁ。
大型の体に潜り込みやすい魔物だったから出来た荒技だな。
ドクンドクンと……うん。サンドキラーシャークの心臓を掌握してそのまま魔石、頭部の神経へと浸食を進めて行く。
が、このままやられてなるものかとサンドキラーシャークはめちゃくちゃに暴れ続けて、砂の中にある岩盤などの固い所に体を打ち付ける。
ゴン! ガン! と体内からも音が響いているし、徐々に皮膚が無理な泳ぎに切り裂かれて行く。
正直……無駄な行動と言えば無駄だ。
ただ……うん。やっぱり俺、邪悪な魔物になってしまったんだ……と何か汚れた気持ちになってくる。
「ユキカズどうだ?」
「あ、ああ……ムーイの体を動かしながら寄生をするから正直、きついな」
サンドキラーシャークは砂の中に潜り込む厄介な魔物であるが単純な強さは俺より下だったみたいでどうにか出来ているに過ぎない。
やがて神経への浸食を終え、無理な泳ぎが出来ないように掌握を終える。
アレだ……ムーイには不要だって思って居た頭脳に関する改造系の技能を習得していないのがここに来て響いていると思う。
サンドキラーシャークの頭脳が思い通りに体が動かなくなって必死に動かそうと信号を送り続けている。
いわば頭だけ生きている状態だ。俺だったら恐ろしいだろう。
……せめてもの情けだ。脳を破壊しよう。
ブツ……っとサンドキラーシャークの脳を破壊して肉体の掌握を終える。
経験値が俺に流れ込んで来る。正確にはサンドキラーシャークの体に染みこんでいた魔素を俺の体が取り込んだと言う方が正しいか。
今の所、サンドキラーシャークの体にある魔石が心臓と繋がって動いているが……何処まで持つか。
ああ……みんな、こんな事をしてしまう俺をどうか許してくれ。
みんなには絶対にしない事をここに誓おう。





