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百六十五話


 奴の足跡と色々と新たに得た力の実験をしている残骸は無数に見つかるので追いかけること自体はそこまで難しく無い。

 魔物の死体を見つけた際、カーラルジュらしき爪痕や噛み痕がある。

 それ以外に……どうやらカーラルジュはムーイの力の源を奪った影響かムーイの力が使えるようになっているらしく、時々……魔物が別の物質に変えられて事切れていたりする。


 もしも今、カーラルジュに俺達が再戦した際……ムーイの力の源を取り返す事が出来るだろうか……。

 おそらく勝てる見込みは限りなく低いだろうな……それくらい、今の俺達と強さに差が開いていると見て良い。

 少しでも勝率を引き上げるには……まずは俺自身がもっと進化して出力を上げなきゃ始まらない。

 ここ三日で大分経験値を稼いでいるからターミナルポイントで確認をしておきたい所か……。


 なんて感じに考え込みながら、その日は過ぎて行く……ムーイに何もかも任せた状態の俺は起きているのか寝ているのか……少しだけ曖昧で覚醒してから一気に情報が流れ込んで来る。


「はぁ!」


 ムーイが魔物を見つけたのか身を屈めて大剣を担いで、一気に魔物に飛びかかって仕留めるのをぼんやりと感じる。

 やがて日が暮れ始めた所で、俺は意識を覚醒させた。


「んむ? ユキカズ起きたか?」


 俺が意識を活性化させるとムーイも分かるのか声を掛けてくる。


「ああ、大分日が暮れてきたみたいだしな。俺が起きなくても問題は無かったみたいだな」

「うん。特にこれって変化は無かったぞ。罠とかも無かったし」


 兵役時代の座学で迷宮内だと地雷とか爆発物なんかが罠として仕掛けられている傾向があったか……荒野タイプの迷宮だと。

 もちろん群生している植物なんかにはショットガンシードという弾丸みたいにタネを周囲にまき散らす天然植物の罠なんかもあるんだけど、その辺りは一度ムーイの前で処理したからか、ムーイは平気で処理する。

 何かあるけど分からないって時にムーイは俺に声を掛けてくる感じだ。


「うん」

「さて……」 


 俺はムーイが行動した記憶が流れ込んで来るので確認する。

 えっと……記憶の範囲でターミナルポイントは無し……っと。

 いい加減、それらしきポイントが無いかとついでに周囲を確認すると……あった、周囲の木の中で大きめの木の側に魔力の噴出ポイントであるターミナルポイントが見つかった。


「あそこが良さそうだな。何か魔物は……」

「既に倒したぞー」


 っと近くを確認するとビッグサンドスコーピオンというこの荒野地域で時々生息している大型のサソリの魔物が切り裂かれて仕留められていた。

 サソリ故に毒針を持って居る魔物なんだけどムーイの体は毒に対する耐性が高く、その柔軟な体故に針で刺しても効果は殆ど無い。

 毒が俺に届く前に毒液自体を排出してしまうようにしているのだろう。

 相性的に有利って感じだな。


「ここで休んでも問題はなさそうか」


 大きな木の下の部分が巣だったのか洞が出来ている。今晩はここで休んでも問題はなさそうだ。


「うん」

「じゃあ周囲の枯れ木や枝を集めて焚き火を焚いてかまどを組むぞ」

「おー!」


 って感じでムーイは近くにあった枯れ木を大剣で切り飛ばして燃料として運び込む。

 俺はムーイの体を変化させて触手を伸ばし、枝や枯れ木の一部を運ぶ手伝いをした。

 そして日が完全に沈む前に野営の準備は完了した。

 荷物袋から鍋などを取り出して本日狩った獲物……ビッグサンドスコーピオンを焼きながらムーイの魔力と能力でお菓子作りへと入る。

 ムーイの体から伸びる俺の手なんだけど……客観的に考えると非常に不気味な光景だよな。


「ユキカズ、砂糖と小麦粉を用意したぞー」

「ああ、後はパームミルクだな」

「それもやってるー後は、このサボテンって植物食べれるのか?」


 近くに生えているサボテン……どうも熟していて食べることが出来そうなのだ。かなり酸味が強いけれど、そこは調整すればどうにかなりそう。

 ダンジョンサボテンって感じだ。

 日本基準だと……たぶん似たのは無いか。


「俺の勘が食べれる菓子に出来るって告げてるから安心しろ」


 何で安心出来るのか俺も実はよく分からない。ただなんとなくこの食材で菓子を作るならこれが良いだろうって感じで菓子が思い浮かぶ。

 スキルで得られる知識ってのは実に不思議でしょうがない。

 パチパチと焚き火でビッグサンドスコーピオンを焼きながら俺は近くに生えていたサボテンの皮を切って落とし、鍋にギュッとムーイにサボテンを絞って貰って汁を出して糸を編んで作った布でろ過させる。

 そうして抽出したサボテンの汁を沸騰させながら泡を取って冷ます。

 冷ましたサボテンの汁を汁4・小麦粉1の割合で混ぜつつパームミルクに砂糖を再度熱しながら加えて、アエローを一口大に切って投入してから再度冷ます。

 ……どれかの成分がゼリーになる効果を起こすのだろう。

 プルンと冷ますとゼリーとなった。

 濃縮ダンジョンサボテンミルクゼリーって感じのお菓子へと変貌した。


「よし、完成……ムーイ、食べて良いからな」

「やったー! ユキカズの作ったお菓子! ゼリーみたいだなー」

「濃縮ダンジョンサボテンミルクゼリーだな。味はどうだー?」

「濃厚な甘酸っぱさが口の中に広がるぞー! 飲み込んでも口の中に残る甘い味! 別の食感のかみ応えのある具が飽きさせない感じがして美味しい!」


 ムーイは満足してくれたようで何よりだ。

 とりあえず鍋いっぱいの……バケツゼリーみたいな感じで作ったからある程度は満足してくれたら幸いだ。

 ……少しだけムーイのステータスが上がったのが分かる。

 寄生してしばらく過ごしたからこそ分かる事がある。

 ムーイはどうやら魔物を倒すことで強くはならないけれど、初めて食べるお菓子を食すことで能力が上がるようなのだ。

 それは僅かな違いでも良いようでいろんな種類のお菓子を食べる事がムーイの強さに繋がる。

 だから俺はできる限りムーイにお菓子を食べさせる事でムーイ自体の能力の底上げも図れるのがここ一週間で分かった事だ。

 道理でムーイがお菓子が好きなはずだ。

 だってそれがムーイ自身が強くなる事に繋がっているのだから。

 なので周辺で見つかる食材で考えつくお菓子は作るのが良いだろう。カーラルジュが魔物を別の……食べ物に変えたりするのもその辺りが理由だろう。

 まあ、奴が変えた残骸はムーイも食する事で能力が上がるし加工して別のお菓子にも出来るので俺が料理することで奴よりもムーイの能力を上げれているはずだ。


「美味しーい!」

「満足してくれて何よりだよ。後はムーイの今日使える魔力で明日の朝食を作って置くさ」

「……良いの?」


 旅立ってから毎晩、寝る時にムーイが申し訳なさそうに俺に聞いてくるようになった。


「何を今更、ムーイ。幾ら力の源を取り返す旅だからと言って、こういう楽しみを蔑ろにして良いはず無いだろ? お菓子を楽しむ事がムーイが強くなる理由でもあるし、辛い状況で今日もムーイが頑張ったお礼だよ」

「うん……ユキカズ、ありがとう」


 ムーイは素直で良いな。だからこそ作りがいもあるしやりがいもあるってもんだ。

 で、俺は火が通ったビッグサンドスコーピオンの肉を食べる。

 ジャイアントクラブともまた違った味だなぁ……悪くは無い。深みはあるかもしれないな。

 ついでに魔石も頬張ってバリバリと食べる。とりあえず本日のエネルギー面は黒字だ。

 後はそうだな……戦闘面で考えてビッグサンドスコーピオンの尻尾を再現とかムーイの体から尻尾を出して武器にさせるべきだろうか?

 少し検討しておこう。


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