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百六十一話




「んしょ……んしょ……」


 崖に拠点を作ったのは失敗だったか……崖を降りて迷宮種・カーラルジュが居ないか周囲を索敵しながら様子を伺う。


「ユキカズ、アイツいない」

「いつまでも同じ場所にはいないとは思ってはいたけどいないようだな」


 ちなみにムーイの視覚は俺も共有している。

 腹にある俺自身の目を閉じた状態でもムーイの見た光景を見れる形だ。

 ちょっと酔いそうな感じだけど上手く寄生することは出来ている。


「ユキカズ……まずどこに行く?」

「奴がどこに行ったのかの捜索が優先だ。次に俺たち自身の強化……まずはターミナルポイントに向かう。それから奴の足取りを探していこう」

「わかった!」


 そんな訳でムーイはターミナルポイントに向かって歩き出す。


「ふう……ふう……ユキカズ……なんかいつもの場所が遠い……疲れる」


 ドスドスとムーイが今まで通りに動こうとして体が追いついていかずに息を切らすようにゆっくりと歩いて進んで行く。


「今までのムーイがそれだけ疲れ知らずだったって事だ」

「そっかー……」


 絶対に、取り戻してやる。とは思いつつムーイに寄生した感覚に関して思う。

 魔獣兵の操作となんとなーく似てる。バルトに自動運転させている時はこんな感じだったなぁ。

 違いはムーイの体を動かす力の循環を俺が意識的に行うって所だ。

 正直……じわりじわりと俺の生命力や魔力を削ってくる。ムーイが食事をしたり安静にすることで多少は回復するけど正直、今は魔物に変異してしまった時並みに弱体化してしまった感が否めない。

 なんて思っていると魔物の名前が見えた。


「ムーイ。魔物の生き残りがいるみたいだぞ」


 迷宮種・カーラルジュが来るのは元より、この辺りはムーイの縄張りみたいな感じで大分魔物が減っていた。

 僅か二日でもう数が増えてしまうのか……と感心するけど今はそれどころじゃない。


「そうか、どこだー?」

「あっち」


 ムーイの目線に魔物の居場所を名前表示をさせる。

 魔物はバイオレッドアンコモンドッグの群れ……4匹だ。


「おー! ユキカズすごい。どこにいるか一目でわかるぞーこれがユキカズの見ている光景なのか?」

「ああ、で、ムーイ。行けるか?」

「ん……行けると思う」


 ずんと背負っていたメイスを取り出して掴んで振りかぶるムーイ。


「そうか。俺も熱線と魔眼は使うから出来る限り戦ってくれ」

「うん。じゃあ行く」


 って事で戦闘を避ける事なく俺達はバイオレッドアンコモンドッグの群れと接敵する。


「バウ!」


 獲物を見つけたとばかりにバイオレッドアンコモンドッグ4匹は俺たちに向かって群れて飛び掛かってきた。


「うおおお!」


 飛び掛かってきたバイオレッドアンコモンドッグの先頭の一匹をムーイはメイスで叩きつける。


「ギャン!」

「む……倒れない。じゃあこれ!」


 叩きつけた勢いのままドスーンとボディプレスをして体を掴み、流れるまま二匹目のバイオレッドアンコモンドッグが噛みつこうとしてきた所に投げてぶつけた。


「ギャ――」


 力が出ない状況なのに咄嗟にそんな真似ができるのか……素直にすごいと賞賛する。


「ぜぇ……ぜぇ……ふん!」


 息切れしながらムーイは残りのバイオレッドアンコモンドッグを二体、メイスで何度も殴りつける。


「ギャ、ギャ――……」


 そうしてムーイが投げて体勢を崩した二匹のバイオレッドアンコモンドッグは立ち上がった所で……。


「ムーイ、腹を突き出せ」

「え? こう?」

「そう……だ!」


 カッと力を込めて俺は幻影の魔眼を二匹のバイオレッドアンコモンドッグに放つ。


「ギャ……キャウウウ……」


 くらくらと目を回すバイオレッドアンコモンドッグの二匹。


「ユキカズ助かるー」


 ムーイがすかさず目を回している残りの二匹にトドメを刺した。


「どうだ?」

「えっと……うん。前みたいに力が入らないけどどうにかする」

「そうか」


 力自体は出ないけどムーイの天性の勘みたいな物は衰えている訳ではないようだ。


「あのなユキカズ、なんか前より良く見える気がする」

「俺が寄生した所為だろうな……」

「うん。力が出ないけど頑張るぞ!」

「この調子で行ってくれ」

「おー!」


 戦闘に勝って気を良くしたのかムーイはそのまま進んで行く。

 そうしてターミナルポイント前に来た所で、ビリジアンワイルドタイガーの若い個体っぽい奴と遭遇した。


「があああああ!」

「やるぞぉおおお!」


 ビリジアンワイルドタイガーが俺たちに向かって爪を振りかぶって来た。

 そこをムーイがギリギリ避けて頭にメイスをぶち当てる。

 俺は熱線と魔眼でかく乱を行う。


「ユキカズに教わった技ー!」


 バッとビリジアンワイルドタイガーが飛び掛かる間合いを図るように距離を取って独特の歩調をした際にぐぐぐ……っとムーイが力を貯め始めた。

 俺はビリジアンワイルドタイガーを凝視して何時襲ってくるのかを分析する。

 もうずいぶんと見慣れた相手だからな……経験である程度判断できる。

 やがて……呼吸を整えたようにビリジアンワイルドタイガーが独特のステップで飛び掛かってくる。

 俺はムーイに、どうビリジアンワイルドタイガーが動くのかを未来予測で見せる。


「とおおお!」

「ガ――」


 ムーイがブルが使っていた力貯めからのスマッシュをビリジアンワイルドタイガーの頭目掛けて放ち、ゴスっという音と共に命中し、ビリジアンワイルドタイガーは吹き飛ばされる。

 ただ、受け身は取られたか。


「ガウウウ!」


 って殺気を帯びた唸り声をビリジアンワイルドタイガーが放っていた。

 く……今まではムーイに秒殺してもらっていたけどやっぱり強敵だよなぁ……。

 そう思っていたが、ビリジアンワイルドタイガーは、そこで白目を向いてドサッと倒れた。

 致命傷には……なっていたのか。


「ふぅ……」


 ムーイが尻もちをついて座り込む。


「勝ったよユキカズ」

「ああ、よくやったな」


 グググと経験値が俺に流れ込むのを感じる。


「――……!」


 と、同時にビリジアンワイルドタイガー相手に引き出したムーイの腕力の代償が俺に重く圧し掛かった。


「ユ、ユキカズ! 大丈夫か!? なんかガクッとしたぞ!」

「あ、ああ……大丈夫。ちょっとビリジアンワイルドタイガーを相手にするために無茶しただけだ」


 ビリジアンワイルドタイガーを相手に今の俺達で逃げるのはかなり厳しかった。

 バイオレッドアンコモンドッグを相手にする時みたいな出力じゃ厳しいと思って意識的に出力を上げたらこれだ。


「ちょっと……待っててな。ムーイは呼吸を整えていてくれ」

「お、おう……すーはー……すーはー……」


 分かりやすく言えば酸欠状態にさせないように俺が負荷を引き受けている分、かなりきつい……。

 ムーイに呼吸して貰って俺も口を開いて酸素交換を行う。

 それと一緒に消費したエネルギーの補完をしなきゃいけない。


「……ムーイ。荷物袋に入れて置いた魔石を出してくれ」


 持ってきた荷物の中には今までムーイが倒し、俺が解体したりして確保した魔石なんかもある。

 かまどとかの燃料に使えたりしたんで集めていたけれど……魔物の体なら食べてエネルギーにすることもおそらく出来るはずだ。

 魔獣兵も竜騎兵も摂取してエネルギーにしていたんだ。

 感覚が似てる今の俺なら……出来るはず。


「これか?」


 ムーイが俺の指示した魔石を取り出した。俺は口を開けてムーイの持っている魔石を舌で掴んで頬張る。

 ……ん、めっちゃ油っこい石を口に入れた感じがした。けど、食べれない訳じゃなさそうだ。

 人間だった頃には石って感じだったけど今は噛み砕けるのが分かる。噛み砕いて呑み込む。

 消費した力が少し戻ってきた気がする。これでムーイの体を動かす力を繋いで行く事にしたい。


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