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十六話

「ブー……」

「というか……出戻りって言われてたけど、今回みたいな騒動の結果か?」


 ビクッとブルが反応して視線を逸らす。

 ああ、やっぱりそうか。

 どんな理由で兵士から解雇されたのかわからないが、きっと悪い事じゃない。

 悪い事だったとしても今は善行をしているのだから俺は素直に受け入れようと思う。

 ブルの理解者になりたい。


「改めてよろしくな」

「ブー」


 うん。

 頷いているが何を言ってるか分からん。


「ともかくだ。体が動いたんならしょうがないとして、その後は俺が居なかったら、その場に留まるんじゃなくて逃げろ。助けた相手にばれないうちにな。そうすりゃ難癖は付けられない」


 まあ、後で御用になるかも知れないけど。

 その時は俺が間に立てば良いだけだ。

 どうせ善行だろうしな。

 俺とブルでは評価が逆転するぐらいの差別なんだし。


「ブー!」


 わかったって様子で頷かれる。


「とりあえず……やるか」


 そこで俺は気配を感じ取り、路地の裏に目を向ける。


「オークの分際で邪魔しやがって……ぶち殺してやる!」


 そこには先ほどの盗人とその仲間らしき連中が武装してこっちを睨んでいた。

 どうやら……窃盗が失敗に終わり、徒党を組んでやり返しに来たっぽい。

 不良グループか何かかコイツ等。


「オークだから先に被害を訴えれば勝てるとか、思わない事だぞ?」


 最近苛立っていたんだ。

 ちょうどいいから何かで発散したいと思っていた。

 訓練校でも少しは喧嘩と言うか、力こそが正しいみたいな事があったしね。

 良い機会だ。


「うるせえ! ぶち殺して金目の物を全部奪ってやる!」


 さあ、血生臭い戦いを少しばかりしよう。

 見たところ、サーベルウルフより弱そうだしね。

 そんなわけで、盗人どもは俺達が一掃した。

 ブルの相手にはならなかった。


 ああ、殺しはしなかったぞ?

 短絡的な不良と言うか、街の浮浪者が各々武装して襲ってきただけだったみたいだし。

 どうやら街でも問題となっていたようで窃盗団として逮捕する事ができた。


 トーラビッヒが留守にしていたのが幸いか。

 配下の連中が難癖を付ける前に迅速に雲隠れして誤魔化したしね。




 その後の暇な時間にギルド内の図書室で、オークに関して調べた。

 オークって人種は、まあ……ライトノベルとかで描写される性的な事以外にも相当に野蛮な事をする野蛮人的な行動が目立つ、悪しき種族って認識が根付いているらしい。

 その辺りの調査資料もあるようだけど、それは図書室内には無かった。


 で、近年だとレラリア国は蛮族としてオークと争った歴史があるそうだ。

 世界征服をしようとして随分暴れ回って各国に敗北したっぽい?

 どうも魔王とやらに作られた生き物だとか……語られている。

 この辺りはわからんな。

 亜人獣人の大半や魔物が、この魔王に作られたとか書かれている。

 で、以前存在した魔王を倒した際、多くの亜人獣人が支配から解き放たれて協力的になったんだとか。

 そんな歴史を歩んでいるらしい。


 そういや……俺達が召喚されたのも魔物と言うか、魔王の侵略に対抗するためだっけ。

 現実の被害だと、今でも定期的に村や街を襲うオークが後を絶たない。

 ダンジョンからも出てくるそうだ。


 人種ではなく魔物として扱う地域も多々存在するのか。

 特に現在いるエミロヴィアの街は野蛮なオークの集落が近かったそうで、危機意識が強い。


 何故、こんな国で兵役を受けた。ブル。

 まさかいろんな国の中で一番条件が緩いのがこの国だったから、とかだろうか?

 そうだとするとオークがどれだけ生き辛いのか同情を禁じ得ない。


 一応……耳に目印のタグを付けたオークは味方って認識らしいんだが……効果出てないぞ。

 どうもオークって人種はゴキブリに近い認識みたいだな。

 とはいえ、こうして知りあって一緒に生活しているのだから力になりたい。

 そう思わせる何かがブルにはあったんだ。




 後日……ブルが助けた少年から手紙が届いた。

 親の目を盗んでギルドに来て受付に渡しに来たのをフィリンが受け取ったんだ。

 中には拙い文字で、「ありがとう」と書かれていた。

 少しでも理解してくれる人がいる事を、俺とブルは噛みしめたのだった。




 休日が終わり……トーラビッヒの理不尽なスケジュールをこなす日々が戻ってきた。

 アレから更に一週間半ほど経過した。


 ああもう……いい加減、どこかに訴えないと疲労で死んでしまうぞ。

 酒場での皿洗いはまだ良い。

 楽だしな。

 スタミナ回復力向上の影響で皿を洗いながらボケっとしてればどうにかなる。


 だけどガラの悪い客の対処まで追加するとなると別だ。

 何かあると戦いに発展しかねないし。

 トーラビッヒの指示で行かされる酒場ってのは街の中でも格段に治安が悪い。


 本来酒場ってのは元冒険者みたいな実績のある人が、冒険者時代に築いた資金やコネクションで開くもので、その店主自身がそれなりに強い事が求められる。

 と言うか酒場の繁盛具合ってのは店主に依存する。

 国とのパイプとかいろんな面が直に繋がり、冒険者志望の兵士が雑用を任される。

 宿屋も同様なんだとか。


 兵士の仕事は無数にある。

 もはや国が運営する施設の殆どに兵士が居るそうだ。

 そんなわけなんだが、冒険者でもない奴が無理やり開いた酒場ってのは得てして儲け重視で客の質も低くなる傾向があるそうだ。


 で、俺が働かされているのは質の悪い酒場……ぶっちゃけトーラビッヒの親戚だったか知り合いだったかが経営する店だ。

 つまりトーラビッヒが女を連れ込んで毎晩ドンチャン騒ぎをする店となっているわけだ。

 アイツは客として大いに遊び、俺は店員としてこき使われるという最悪の環境ってわけだな。

 フィリンもここでの仕事としてバニーガールコスを着させられて奉仕という名の接客をさせられている。


 何より重要な事なんだが、戦闘などの研修として隊に所属しているのにトーラビッヒは俺達に戦い方なんて一回も教えていない。

 一応、何の兵士になるのかとか志望は伝わっているはず。

 俺は冒険者志望故に、その手の仕事に繋がる訓練を本来はしなきゃいけない。


 普通の研修だとこんなにも雑務を任されたりしないのは訓練校で読んだ本で分かっている。

 精々……薬草採取とか危険な賞金首となった魔物の討伐等の実践に俺とブルだけで行かされる事くらいだろうか。

 ブルが居なかったら死んでたんじゃないかと思う事が多数ある。


 トーラビッヒの奴、俺達に武具を支給しないからサーベルウルフの牙とか近場で発見した物で騙し騙し使って戦うしかなかった。

 あ、賞金首はどこで生息していたかわかったのでブルと二人で落とし穴を仕掛けて倒したぞ。

 訓練校で読んだ本の知識で助かったぜ。


「ホレホレ、いい加減、心を開け」

「困ります」

「何が困ると言うのだ? 奉仕すれば楽に出世、兵士として生きやすいようにしてやると言うのに」


 ああもう……ブルの件もそうだが、トーラビッヒのパワハラにはウンザリだ。

 一応は訓練校宛てにトーラビッヒへの査問懇願書をフィリンと一緒に送ったけど、果たして効果が出る事やら。

 俺が一応、異世界の戦士として招かれた存在だって国が認識と言うか見守ってくれているなら、聞き入れてくれる……といいんだが。


「さあ! 舐めろ」


 パキっと洗っていた皿を無意識に割ってしまう。

 何を舐めろって言うんだ? あぁあ!?


 さすがに飛び出す決意を固めた。

 さあトーラビッヒ、今日が貴様の最後の日だ。

 ナンバースキルでボッコボコにしてやる!


「な、なんだ貴様! この私に何を――ぐあっ!」


 というところでツカツカと床を踏み鳴らす音とバキっと殴りつける音が響いた。

 続いてトーラビッヒの無様な声と大きな音がする。


 ん?

 誰だ!

 俺のやろうとした事をやった奴は!?


 急いで厨房から顔を覗かせる。

 するとそこにはローブを羽織った人物が居て、トーラビッヒが壁にもたれ掛かっていた。

 殴られた場所は顔だったらしく、手を当てている。

 フィリンが唖然とする表情でローブを羽織った人物を見ている。


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