百五十四話
無意識にムーイの顔を見る。
「どうしたユキカズー?」
……これに進化すると、俺の拠点がムーイの拠点で俺が監視カメラ的なポジションになってしまわないか?
少なくともあの拠点は俺とムーイが住む、ここから脱出するための拠点なだけだぞ。
一応入り辛い工夫をしているし……入ってくる奴はいないと思うけど。
俺が見張り役になってしまうのはなんかなー……まあ、あくまでそういう生態の魔物って事で置いて置こう。
で、次はアイ・リトルオクトクラーケン。手が合計八本になる。
説明文とかから推測するとこれってタコ型の魔物だろ! 水場での生活って定期的に風呂に入っているとか料理をする際に水を使っていたりする所為か?
最近は面倒なので仮設の風呂を川近くに設置して風呂を作っちゃったけどさ。
拠点に帰る前に一つ風呂にでも入って帰ろうって感じでさ。
条件が軽すぎる。これで条件満たしたとかやめてほしい!
ただ……単純にタコっぽい魔物になるんだったらサーベイランスアイであるよりも動かしやすい体になるのは間違いないか。
正直……ムーイが居ないとサーベイランスアイでの活動ってかなり面倒だったぞ。
手をフライアイ系に変えての移動とか飛ぶ速度がかなり落ちるし咄嗟の戦闘じゃ移動という面で不利すぎる。
アイ・リトルオクトクラーケンが手だけで立てるかにもよるけど水中活動とかも出来るようになるって点では良いかもしれない……か?
タコへの進化って事なんだな。
まあ……サーベイランスアイの最大の短所は首というか吸盤をかなり伸ばして前を見ないといけないのが結構しんどい所かな。
実は逆さで見てる感じだし……まあ便利と言えば便利なんだけど。
擬態とか隠れることが上手になるみたいだし、進化して他の変身をした際にこのパーツを使いまわせば別の使い道が出来る。
皮の側面が強いからなー……体の変化って、そういう意味では良いかもしれない。
それで次は……なんかすごく腹立たしいパラサイト。
なんでこんな邪悪な進化にしか見えない進化先があるんだろうか。
文字通り寄生……目玉の魔物が他の魔物を操るとか……完全に悪者だ。
まあ……手段を選ばずって事で考えたら魔物に寄生して体を操れるって能力も捨てたもんじゃないし便利だろうってのはわかる。
俺よりも強い魔物の隙を伺って寄生してさ……少なくとも格下の魔物に寄生したって得は無いわけだし。
そうして寄生した魔物で他の魔物を倒して経験値なんかの美味しい所は頂くってさ。
……バルトには非常に申し訳ないけど竜騎兵とか魔獣兵が近い気がしてきた。
悪いなバルト……竜騎兵や魔獣兵はそういうんじゃないってのはわかるんだけどさ。人間が寄生虫ってか?
ただ、進化条件には間違いなくこれが混ざってしまっている。
他にありそうなのだとサーベイランスアイでいる時はムーイの背中に引っ付いて援護射撃と迎撃なんかをしていたのが理由か。
しょうがないじゃないか。少し離れた所で援護するより引っ付いていた方が良いんだから。
吸盤のおかげで振り落とされることも無いし、羽ばたいてついていくより楽だったんだ。
結構吸い付きが強くてムーイの機敏な動きにもついて行けたぞ。
もしも人間に戻れずにブルたちの元に戻ったらサーベイランスアイでブルの背中に引っ付いて戦うのも良いかもしれない。
「ブ!?」
「ブルさんどうしました? 鳥肌を立てて」
「大方どこかで生きているトツカが妙な事でも考えていてそれをブルトクレスが感じ取ったんじゃないか?」
「ありえますね……」
って考えは良いんだよ。
パラサイトの進化条件を満たしているのはそういった理由があるだけで俺が寄生虫な生活をしているって訳じゃないの。
ムーイが居ないと戦えないって訳じゃなかったし、地道に進化していけば色々と行ける範囲は増えたはず!
「どうしたんだユキカズー」
「ムーイは俺がお前に甘えっぱなしじゃないと思うよな?」
「甘えるー? オレはユキカズが居てすごく助かってるぞーお菓子作ってくれるし暗い道を照らしてくれるし、どこに敵がいるのかも見つけてくれるし、変な罠も見つけてくれるだろー」
そうだそうだ! 俺はムーイにおんぶにだっこじゃない。
ムーイが恐ろしく戦闘力が高い中で出来るサポートと戦いやすい状況と生活を維持しているんだ。
と、半ば納得させる。
それで次はフロートツリー。
なんていうか……俺って植物にも進化出来ちゃうんだなー……と遠くを見つめたくなる。
まあサーベイランスアイって天井とかに引っ付いている形から植物っぽい生態してるなとは思ってしまう。
そういう意味では割とあり得る進化なのかもしれない。
食料とか入手が難しい場所なら選択肢にもなりえるし、場合によっては周囲の植物に溶け込むことも出来そう。
ある意味、低燃費でこのサバイバルな状況を生き延びるには良いのかもしれない。
どれも選び難い進化先ばかりだ。
「うーん……」
「ユキカズ、困ってるのか?」
「ああ……このサーベイランスアイの進化先をどれにするか悩んでいてさ。失敗したら戻れるとしてもムーイにレベルをあげて貰っている手前、無駄な選択はしたくなくて……」
「気にしなくていいぞーオレはユキカズが行きたいところに行ってるだけでお礼にお菓子作って貰ってるだけだから」
ムーイのやさしさが染みいる。
「その進化先ってどんなのがあるんだー?」
小首を傾げるようにムーイが聞いてきた。
まあ……俺の進化に関しちゃ協力してくれているムーイの意見も参考にするのは良いかもしれない。
こうして手伝ってくれているんだ。ムーイの望む進化をしても損じゃない。
それで失敗しても戻れば良いし、進化後のパーツも使えるようになるし無駄にはならない。
「じゃあムーイの意見も聞いて決めようか。まず――」
と、俺はサーベイランスアイの進化先を説明した。
するとムーイは……。
「ユキカズーパラサイトが良いんじゃないかー?」
よりによって一番邪悪そうなパラサイトをご指名しやがったぞ。
どんな神経してるんだ? これはあれか? ムーイの学習能力は俺に遠回りな皮肉を言うくらいには成長しているって事で良いのか?
こう……実はムーイも俺をこいつ寄生虫だよなと言いたいと。
「……なんで? この場合、一番手ごろで効率の良い寄生相手はムーイになるぞ」
半ば脅しのように注意しながらムーイに尋ねる。
「ダメなのか? オレはユキカズに寄生ってのをされても良いぞ? なんかそっちの方がユキカズと一緒に強くなれる気がするー」
わかっていて承諾って……ムーイって何も知らないから寄生がどんな状態なのか全くわかってないんじゃないだろうか?
「あのなムーイ。寄生ってのは背中に引っ付いて後方援護とかする程度だと思っていたら大間違いだぞ。お前の腹辺りに俺がギョロっと目玉を見せたりする感じになるかもしれないんだぞ? しかも俺の思い通りに体を操られてしまうんだ。気色悪いだろ」
「ユキカズと一緒にいるならそれでもいいぞ? それにユキカズならオレの体を無理やり操り続けるとかしないだろー?」
ぐわあああああ……ムーイのピュアすぎる、それでありながら献身的な信頼に俺の良心が多大なダメージを受ける。
こんな純粋に俺を信じてくれている子に寄生して美味い汁を吸うとかお前は出来るのか?





