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百五十二話

「うん。あはは……ユキカズくすぐったいー」


 風呂から出たムーイの体を手ぬぐいで洗う。

 石鹸とかを作れたらいいけど生憎現在無い。

 ちなみに兵役中の座学で石鹸に関して教わったぞ。

 清潔にしないと病を招くとかその辺りは冒険者の常識として教わったんだ。

 なんとなく異世界だし、魔法とかあるファンタジーだから不潔なイメージがあるけど、実際は清潔感はあるんだよな。

 何より、フィリンは元よりライラ教官だって女性な訳で、この辺りはしっかりと気にする。

 無い所でも石鹸を作るってのは大事な話な結果、俺も石鹸代わりになるものの作り方くらいはわかっているんだ。

 ……拠点の清掃用に石鹸もそろそろ作るか。

 一つ作ればムーイに量産してもらえるだろう。

 便利なムーイに俺も頼りっぱなしだな。ブルとは別にしっかりと礼をしなきゃいけない。


「よーしきれいになったぞー」


 最後に掛け湯としてお湯をムーイに掛けて入浴を終えた。


「なんかさっぱり! これがお風呂なんだなー」

「まあな」


 お湯はそのまま拠点の外に流し捨ててっと……後は就寝するだけだ。

 そこまで長く寝なくても良いけど休むことが大事なんだし。


「よーし、じゃあそろそろ寝ようか」

「はーい! ねよー」


 ムーイが俺を抱えてベッドへと歩いて入り込む。


「ユキカズユキカズ、また寝る前にお話しー」

「毎日聞いてるなお前は……まあ良いけどさ。そういや今日は進化して増えた魔眼があったっけ」


 俺はサーベイランスアイに進化したことで使えるようになった魔眼がどんなものなのかを意識する。

 えっとサーベラインスアイの魔眼で使えるのは……映像魔眼? 誰かに催眠を施すとかそういったのとは異なる仕組みみたいだ。

 照射と同じ感じの魔眼みたいだなぁ……壁を照らす。

 ……壁を照らすだけで特に何か起こっている訳じゃない。

 外れか?


「壁が明るいなーユキカズ、実験しながらお話してくれよーユキカズの話ー昨日も寝る前にしてくれた奴ー」

「ああはいはい。そうだなぁ……」


 昨日はどこまで話をしたんだったか、なんて実験しながら照射していると俺の放つ光の先に何かが映し出され始めた。

 それはかなりピンボケしているけれど徐々に精度が増していき、ブルと背景が見覚えのある街並みが映し出される。

 ブルが荷車を引いていて、骨を集めている。俺の近くをバルトが飛んでいる。

 映像の主の視点……ああ、人間だった頃の俺か。

 これは……ああ、ソルインで魔獣兵作りをした時の思い出だろうか。

 細部がかなりぼんやりとしているのは俺の記憶が映し出されているからだろう。

 なんかこの魔眼の使い方がわかってきたぞ。

 サーベイランスアイは監視……監視カメラ的な魔物で覚えている物を映像として上映できる目を持っているって事なんだろう。

 まあ映像だけで声とかまでは見えないけれどさ。


「ユキカズーこれなんだー?」

「ああ……俺が人間だった頃の出来事だな。あやふやな所があるけど……懐かしいな」


 ブルやバルトと一緒に街並みを歩いて骨を集めている何気ない日常だ。


「あそこに映っているのがブルトクレス。ブルだ」

「ユキカズが言ってた奴だな。そっかーこういう姿をしてるんだなー」


 ムーイはブルをじーっと見つめる。

 ああ……すごく懐かしい。今は逢えないけど絶対に再会したい。

 全く……どんな因果で俺はこんな所にいるのやら。

 俺の最後の目に映る光景がブルとフィリンの悲しむ顔じゃない事を望んだけれど、魔物と化して見知らぬ所でサバイバルをする羽目になるなんて……何度だって不満に思わずにはいられない。

 絶対に……生きてみんなの元に帰りたい。

 そのためにはブル……フィリン、ライラ教官……バルト、みんな……。

 俺は自らの思い出を再生する映像を魅入っていた。

 やがて俺の魔力が減って行き、魔眼の維持が難しくなって映像は途切れた。

 想いでの中だけどしっかりとブル達の顔を見れて嬉しく思えた。


「……ユキカズは良い人ってのが好きなんだよな」

「そうだな……俺は言っちゃなんだけどブルやフィリン、ライラ教官みたいな善人……良い人には成れてないんだ」


 こう、なんだかんだ打算的でトーラビッヒが不幸な目に遭った時とかざまあみろとか思うし、兵役中の仕事とかも怠けてサボっていたこともある。

 何より異世界の危機を救うために召喚されたのに断って勝手気ままな冒険者になるために兵役に就いたような奴だ。

 結果的に敵の暗躍で異世界の戦士になったみんなは臨界を迎えて異形化してしまう末路を歩んでしまい、運よく俺や飛野は生き残れたわけだけど頼まれたことを断った事実は揺るがない。

 それは非常に身勝手な事で……もしもそんな裏が無く世界の危機だったのならば自分本位なのも甚だしい。

 ある意味……俺は藤平と何の違いも無い身勝手な選択をしたと言っても過言じゃないだろう。

 幾ら胡散臭いと思ったとしても困っている人を見捨てた事実は変わらないんだ。

 だからこそ……ブルと出会って、せめて良い人が正当に良い目に会ってほしいと思う。そのために頑張ればいつか俺も良い人になれるんじゃないかって打算がある。

 ……心の底から良い人、誰かの為に頑張るってすごく難しい。


「俺は……良い人に憧れてるな。良い人と一緒に頑張って、良い人が不幸な目に会わないように力になりたい」


 良い人があんな奴に殺されないように……異世界の戦士として、死んでも良いと思って力を使いつくしてここにいる。


「ユキカズ、オレは良い人かー?」

「え? んー……」


 ムーイが良い人かそうでない人かを考えると……初対面の出会いは最悪に等しいよな。

 驚異的な化け物が俺の拠点に乗り込んで作っていた菓子を貪った挙句、俺を気絶させて監禁して菓子作りをさせた。

 けどそれはムーイが何も知らず、他者とのコミュニケーションを知らなかったからやってしまったことでこうして話が出来るようになってからは俺のお願いをずっと聞き続けている。

 その代価として菓子を食いまくっている訳だけど。


「どうだろうな?」


 悪い奴じゃないけれど、良い奴かというとかなり微妙な所だ。


「むう……そっか……」


 シュンとした様子でムーイは落ち込んだような声を出す。


「ユキカズ、オレも良い人になりたいぞ。そのために色々と教えて」


 と、ムーイは俺に向けてほほ笑んでお願いしてきた。


「ああ、俺の知る良い人のハードルは高いぞー」


 何せ心の底から良い人であるブルやフィリンを知っているんだからな。

 いつか俺も良い人になりたい。そしてムーイも俺の話を聞いて良い人にあこがれたんだ。


「うん! 頑張る」

「頑張れよ。それじゃあ、さっきの映像の続きから話していくか」


 なんて話をして……その日の夜は更けて行ったのだった。






 翌朝、前日の仕込みをしていた俺はかまどの前……既にキッチンと化している拠点の部屋で作業をしている。

 仕込みとは昨日作ってムーイに水を変化させてもらっていたダンジョンパームミルクを冷まして寝かしておいた奴だ。

 上手い事、脂肪分が上に分離しているので別の容器に移してから撹拌を行う。

 ムーイにクリムイエローワームの糸を金属に変えて貰って作った泡だて器で蜜を混ぜたダンジョンパームクリームを手際よく泡立てて……ふふ、この泡立て作業は筋トレに良い。


「いっちに! いっちに!」


 スナップを効かせながら泡立てをしつつ筋肉強化をしているぞブル!

 懐かしい。最初は疲れて嫌だと思ったけど今はとても楽しめている。

 ついでに足も屈伸をしながら菓子作りだ!

 そして作った生クリームを既に作成済みの蒸しパンを適度に冷ましておいた奴の上にデコレーションを行い、果物を適度に切って盛り付ける。


「ふわぁあ……ユキカズおはよー」


 スヤスヤと俺の話を聞いて満足して寝入っていたムーイがあくびをしながら声を掛けて来た。

 そして俺が作っている蒸しパンで作るケーキを見て目をこれでもかと輝かせ始める。


「なんだそれ!? なんだそれ!? ユキカズがなんかすごいの作ってるー!」

「昨日ダンジョンパームミルクを作っただろ? その脂肪分で作ったクリームから生クリーム作って蒸しパンに塗って果物で装飾したケーキだ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ユキカズもムーイも「いい人」ですぞ。
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