百五十一話
「ムフー!」
お腹をポンポンと叩きながらムーイは満足げに声を出している。
十分食ったって所か。
「満足したか?」
「まだ食べれるー」
めちゃくちゃ食っておきながらまだ食えるのか……ムーイの底なしの胃袋には感嘆の声しか出ないな。
つーか……満腹とかそういった感覚があるか怪しい。
「今日はこれくらいにしておけ、我慢することで次の菓子が美味しくなるぞ」
「わかったー! で、ユキカズは何してんだ?」
「俺は菓子だけじゃなく別の食事、まあ……菓子以外はそこまでうまく作れないけどさ」
なんていうか菓子以外の料理は思った通りに作れることの方が少ない。
実に不思議だけどこの辺りは習得したスキルの所為って事なんだろう。
そう思いながら、持ち帰ったリードグレイジャイアントクラブの身を茹で上げる。
カニなんだからまあ食えるだろ。サイズが大きいから大味とかになりそうだけど。
「へー……」
食べ終わったムーイは気の無い返事をしていた。
さて……茹で上がったな。
リードグレイジャンアイントクラブの身を鍋から取り出してアツアツの状態で頬張る。
不味くはない……けど美味くもない少し薄味のカニ肉って感じの味わいだなー。
カニカマをもっと大振りにして薄味にした感じが近いかもしれない。
しかも独特の臭みがあるから減点か……不味くて食えない程じゃないのが救いだな。
「ジャイアントクラブの肉っておいしいのかー? クリムイエローワームと何が違うんだ? ソードマンティスの腹とも違うのかー?」
ムーイの質問に食欲が少し落ちる。
確かにどれも複数の足を持つ昆虫な見た目してるけどさ。
虫とカニやエビは……言われてみればあんまり差が無いか。
「ムーイは菓子以外は好まないだろ、俺は甘い味以外も食うの。とはいえ俺の今まで食ったカニ……ジャイアントクラブの種類の中じゃ美味くも不味くも無いな」
「じゃあお菓子食べようよユキカズ」
だから菓子がすべてじゃないっての。
ムーイにはこの感覚は理解できないんだろうな。
とはいえ甘い菓子以外の食事なので俺は十分に食事を楽しむ。
ムーイのおかげで割と小麦粉に関しちゃ困ることはないからパンケーキと一緒にお好み焼きとかも作れそう。
他にパスタとかならこんな状況でも作れるか……?
別に俺は米とかに拘ったりしない。
「はいはい。さて……飯を食った訳だが……寝るにはまだ早いか」
腹は十分に満たされた。あとは何をするかっていうと疲労の回復をするのだけど……うーむ。
ちなみに体の汚れなんかは自作の手ぬぐいで水を濡らしてふき取って誤魔化している。
いい加減風呂に入りたいような気もするけど……よく考えたら風呂位なら俺とムーイで再現するのは簡単か。
ただ……暗くなった今することじゃないか……。
そっと外の様子を確認……すると空には余りにも大きすぎる月があって、森を照らしている。
俺には十分な光源となっているなぁ。
うーん……だからと言ってわざわざこの月夜に風呂を沸かしに行くのはな……。
よし、明日水を汲みにいかないといけなくなるけど拠点で風呂を沸かすか。
集めてある整理用の宝箱の一つを開けて中身を取り出して穴になりそうなところを土で塞いで……。
「ムーイ、この宝箱を金属に変えてくれ」
「え? ちょっと待っててー……金属なら何でもいいのかー?」
「ああ」
「わかったームムム」
ムーイが宝箱に触れながら力を籠める。
前にも述べた通り、金属への変換はムーイの魔力をかなり消耗してしまうそうだ。
とはいえ、これから休むのだから十分に補うことが出来るだろう。
俺を閉じ込めた時の木箱もこんな感じで鉄製の箱にしたそうだし。
ガチンという音と共に宝箱が金属になった。穴になりそうなところもしっかりと金属になっている。
よし……。
「じゃあ次は水瓶の水をこの箱の中に移してー」
ムーイに背負って貰って持ってきた水瓶の水を鉄製の宝箱に流し込む。
水音と共に宝箱の中が水で満たされていくのを確認。
「さーて、後は見てのお楽しみだ」
俺は熱線を宝箱の中の水目掛けて放ち続ける。
うぐ……長時間の熱線って魔力を消費するのは元より目が徐々に痛くなってくる。
けど大丈夫、進化したおかげで熱線は十分な威力になっている。
やがてボコボコと水がお湯へと、ちょうどいい温度へと変わった。
「何するんだ?」
「お風呂を作ったんだよ」
「お風呂? それって美味いのか? 温めた水だよなそれ?」
「美味くはないぞ。ただー……」
俺は宝箱とムーイを交互に見る。
水瓶の水は使い切ってしまっている新しく補充するには川まで行かないといけない。
で、体の面積的に考えるとムーイを入れたら溢れ出るな。二人で入れるほど宝箱は大きくないし……俺もお湯を無駄にしないようにウォークアイに変身して入るとしよう。
となると順番は俺が先がよさそうだ。
「疲れがより取れるかな」
「そうなのか?」
「ムーイが先に入るとお湯が無くなるから俺が出たら沸かしなおして入ってくれ」
「うん」
と言う訳で早速俺はお風呂に入る事にした。
まずお湯で濡らした手ぬぐいで軽く体を拭いて……人間だった頃にあったものは大半が無いのが心なしか悲しい。
早く人間に戻りたーい……なんて思いつつ湯船に浸かる。
おお……温かいお風呂な感覚。昔ブルと訓練校時代に大釜を修理して入ったのを思い出すなぁ……。
「はぁ……」
「お風呂って言うのかーユキカズなんか楽しそー! ムーイも早く入りたーい」
「はいはい。ちょっと待っててなー」
ゴボゴボ……あ、そういや体の方に口があるから少し立ち上がって湯船から出ないと喋り辛い。
不便な体だなぁ……やっぱり。
バシャっと目を閉じて湯船に頭も入れて汗を流す。
マネしたがるムーイが今か今かと待ちわびている光景……サバイバルな状況だけどなんか平和だなぁ。
なーんて思いながらゆっくりとお風呂に浸かって汗を流した。
「次はムーイの番なーちょっと待ってろよ」
と言う訳で今度はムーイにお風呂を沸かして入れることにした……訳だけどムーイの体躯だと宝箱にはかなり体を押し込める形じゃないと入れそうもない。
というかムーイを見てて思ったが俺もムーイも全裸だ……そんでムーイって……人間だったらある場所に何もないんだよなー。
こう、性別とか色々とさ。餅みたいなマシュマロみたいな肥満体な体型の人型な魔物ってだけでさ。
実は性別あるのかもしれないけど、わからないんだから気にしてどうする。
なんだかんだマシュマロのような餅のような二足歩行の人型な生き物な訳で……体育座りみたいな体勢で宝箱にギュッと入り込む。
こう……窮屈じゃないのか? とは思うのだけどムーイの体も大概に不思議構造で箱に入ることができる。
バシャ―っとお湯が盛大に流れ出てしまう。
結構別の容器に移して体を洗うように使おうとしていたので問題は無いけどさ。
「あ、なんか温かいなーでもムーイ。前に温かい沼に入ったことあるぞーそれに似てるー」
「そうか……それとは別にゆっくりと浸かると疲労が取れるんだよ」
「そうなのかー」
って感じなのだが……ムーイの体臭なのか、お湯に入ることで室内がなんか甘いような匂いが漂ってくる。
お前って……いや、ムーイを見る限り健康そのものだし、魔物なんだから気にしちゃいけないんだろうけど人間だったら、やばそうな感じの匂いを出すのな。
「んー確かになんか気持ちいい気がするぞユキカズ、なんかウトウトしてくる」
「ああ、それが気持ちいいんだ。風呂の中では寝ないようにな」
風呂で寝て溺死とかは……今のムーイの状況じゃ無い。ぎゅうぎゅう詰めで頭が水面に入れない。
そもそも酸素を呼吸してるのかすらわからないし……。
「おう!」
そうしてしばらくムーイは風呂で温まる。
「んじゃ風呂から出ろよー体を一応洗っておくか、じっと座ってろよー」





