百四十話
ウォークアイに進化して一週間……。
「いっちに! いっちに! いっちに!」
拠点のかまどの火の前で人間だった頃に日課にしていた鍛錬をする。
こうして自分の体を鍛えているとブルと一緒に体を鍛えているような感覚になって精神が非常に安定して良い。
進化しても驚異的な強さを速攻で得られたって訳じゃなく地上での素早さが向上したって程度だ。
一応、行ける範囲は増えたかな。
ウォークアイ・ソルジャー(兎束雪一) Lv5 EVO・P 143
所持スキル 熱線 魔眼 飛行 LGB 分析 分析力向上 変身 熱線威力アップ 飛行速度向上 配下視界共有
Lv7になった時……変化項目拡張
進化条件 Lv15
人間 ×不可 ▽所持スキル
分析▽
変身▼
フライアイボール
肉体
頭 ビリジアンパラボナラビット
体 ウォークアイ
手 ウォークアイ
足 ウォークアイ
一応周辺で遭遇した勝てそうな魔物を倒しているうちにLvが5に上昇した。
分析力向上はそのまま分析できる速度が上がる感じのスキルだったっぽい。力を入れて魔物を見ているとどれくらい分析が出来ているのか%がみえるようになった。
「よーし……完成っと」
青銅の盾を熱しながら石斧で叩いて板金にして鍋にし、かまどに乗っけて調理ができるようになった。
薪とか枝は辺りに腐るほどあるし火種は熱線で確保可能だ。
しかも手が器用になったおかげで粘土を捏ねてかまどで焼いて水瓶の確保ができた。
川には定期的に汲みに行っているけど前よりも頻度は減らせることができるようになったぞ。
野麦を採取、脱穀を行い石臼で挽いて粉にすることができた。
脱穀が面倒だったけど石臼は石を根気よく叩いて穴を開けて取っ手を付けたな。
正直、この石臼を作るのに時間が掛かってしまったぞ。
……なんでこんなところに拘っているんだ? 気にしないことにする。
兵役時代……トーラビッヒの所で石臼を回して粉を作る時があって、ブルが肉体労働って事で喜んで石臼を回していたっけなー……。
異世界独自の道具で脱穀ができるってのに無意味な仕事をやらされたもんだ。
しかも水車や風車がある中でだぞ。
……愚痴はやめておこう。
ここで役に立った事実だけを覚えて置けばいい。
何事も無駄にはならなかったと思うしかない。
ゆっくり拠点を作るより脱出を優先したんだしな。
ちなみに石臼作りはライラ教官の元に入ってからの仕事で覚えた。
そういうのを拘る仕事先があっただけだけど。
肉と薬草を焼いた物ばかりで飽きてるんだ。今は本来、人間が食べる食事を食べたいんだよ。
というかなんでこんなのの作り方を知っているんだと俺は自身を嘆きたくなるけどしょうがないだろ。
兵役中にやらされた仕事に混ざってたんだよ。
兵士は何でも屋かって思ったけど、ここで役だっているのだから気にしない事にする。
どちらかと言えば兵士であり、未来の冒険者だから、という面の方が強いだろうしな。
手始めに野麦で作った小麦粉でパンの作成をする。
なんとなく菓子職人が教えた奴を作りやがれとか怒鳴ってそうだけど菓子よりまずは主食だろ。
酵母の確保は簡単だ。水で練って適当に放置してたらできる。
なんだかんだ酵母って空気中に漂っている代物なんだ。異世界だけどこの辺りは変わらない。
あとはアエローを独自製法で煮込んで砂糖というか蜜を作って周囲の岩にあった岩塩で塩は確保。
これだけあればパンが作れないはずもない。
ファイアマスタリーを持っている俺からしたら焼き加減も完璧だしな。
かまどからパンを取り出して作ったテーブルの上に載せて冷ます。
うーん……パンの良い匂いだ。腕は鈍っちゃいないな。
ウォークアイの手だからどうなるかと思ったけどどうにかなるもんだ。
香ばしいパンを裂いて口に入れる。
想像通りの味に故郷……じゃないけど兵役時代のパンを思い出してしまう。
モシャモシャ……肉と薬草ばかりだったからただのパンでも美味い。
香辛料とかを使って色々とサンドイッチとか作るのも良いか……なんかこれで作る料理が揚げパンとかラスクが出てしまうのは菓子職人のアイツの所為だろう。
「気分転換終了っと」
野麦で粉を作ってパンをこんな状況で焼くのはどうかと思ったけど、こういう時こそ平常心が大事だ。
探索を再開するために拠点から出て手をフライアイボールにして羽ばたいて移動を開始する。
今の所勝てる魔物が多い地域、クリムイエローワームの捜索を行う。
適度な所で着地して手をウォークアイに戻して走る。
頭に着いたビリジアンパラボナラビットの耳を広げて収音をして警戒気味に、かつ手早く進む。
空を飛ぶだけじゃ細かい所はわからないから、草の根を分けて探さないと。
なんて思っているとクリムイエローワームが三匹……スタスタと気色悪い足を巧みに動かし糸で狙いを定めて俺に向けて走ってくる。
「ギィイイ!」
「本当……ここに何か良い物があるかわからないけど手ごろな相手だ。経験値にしてくれる! 糸を寄こせ!」
俺は目に力を込めて幻影の魔眼をクリムイエローワームに放つ……訳ではなく素早く走りながら鋭く加工した枝を手に取ってクリムイエローワームの顔面に投げつけてやる。
ドスッと良い感じに命中。
「ギィイイ!?」
思わぬ攻撃にクリムイエローワームはこっちに視線を向けて来た。
つーかフライアイの亜種くらいの認識なんだろうけどフライアイが完全に舐められてんな。
どんだけ狙いやすい獲物なんだよ。
ともかく、先頭のクリムイエローワームに魔眼を放って幻影を見せて、俺の居る場所と別にいるように見せかける。
その間に後ろにいるクリムイエローワームに向かって凝縮した熱線を放って焼き付ける。
フライアイの頃より多少は威力が上がった熱線によりクリムイエローワームを焼くことはできる。
「ギイイイイ!」
引火してクリムイエローワームが転がって消火行動に入った。そのまま攻撃を放とうとした所で3匹目が……俺に糸を吹き付けて来た。
「もう慣れた! はあああ!」
防御障壁の魔眼を発動させて障壁で糸をそのまま受け止める。
障壁を作り出す魔眼を使用しているのでしょうがないので転がって消火しようとしている二匹目のクリムイエローワームには踵落としを腹に力強くぶちかまして内臓を飛び出させてやる。
「ギ――!?」
よし、これで二匹目のクリムイエローワームは絶命した。
ウォークアイとクリムイエローワームは階級で言うと近いようで思い切り力を入れて踏み抜けば致命傷を与えられるようになっていた。
糸が通じないと察知したクリムイエローワームが糸を吐くのをやめてスタスタと突撃、前転しながら尻尾にある毒針で刺し貫こうとしてくるのでステップで避けつつ、転がっている石を蹴って攻撃。
「ギギギ!」
そんな攻撃効かないとばかりの声を上げているが、対処できないと思ったのか?
障壁の魔眼を切っているんだぞ?
熱線を力を込めてぶちかまして皮膚を焼き焦がしてやる。
「トドメだ!」
「ギイイイ!」
ジュウウウっと振り向こうとしたクリムイエローワームの目を熱線で焼きつぶした。
「ギ! ギギイ!」
目が見えない芋虫がめちゃくちゃに糸を吐いて感覚で俺を特定しようとしているがそんな攻撃にむざむざ当たってやる必要なんてない。
糸を避けて脳天目掛けて尖った枝を突き刺し、そこに全体重をかけて伸し掛かることでクリムイエローワームの頭を的確に潰す。
「後は幻影で視界のずれた芋虫一匹だな」
って感じでこちらも文字通りの経験で三匹のクリムイエローワームを仕留められるまでに成長していた。
なんだかんだ実戦経験って大事なもんだ。
魔物になってしまった当初はどうなるもんかと思ったけど、案外戦えている。
「ま……こんな所か。さーて……」
って所でブウン! って羽音が聞こえた。





