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百三十五話


「そんな……」


 脱出不可能な状況か……まあ、こんな姿でフィリンとブルの元に戻ったら驚かれるし攻撃されるかもしれない事請け合いだけど。

 それでも俺は帰りたかった……だというのに無情にも帰路のオイルタイマーは機能してくれなかった。

 帰れないって事かよ。


 途方もない絶望が俺の心に広がっていく。

 ああ……どうしてこんなことになってしまったんだ。

 思えば異世界に戦士として召喚されたり、俺達を利用しようとする奴が居たりしてかなり散々だったさ。

 挙句の果てに魔物になって謎のサバイバル、みんなの元に帰れない。


 どんだけ不幸が舞い込めば気が済むんだ。

 臨界迎えて異形化、人生は終わりましたじゃなくなったのかよ。


 諦めてたまるか……俺は諦めない。

 だって、俺はどんな逆境だろうとくじけずに人助けをやめなかった相手を知っている。

 魔物だと詰られてもあきらめずにいた……ブルやそのお母さんを知っているんだ。


 ブルみたいになりたい。魔物になったからなんだ。

 諦めるのは死んだ時で良いじゃないか!

 今は少しでもできることをして……強くなってみんなの元に帰れば良い。

 そのためにやってやる!

 

「俺はやるぞー! ブルー! うおおお!」


 っと俺は空に向かって叫んで行動を開始した。

 まず大事な事なのだが、このサバイバルは長期的な活動になるだろうという事だ。

 長期的な計画を持って体力を消耗し続けるような無理な行動は避け、力を蓄える。

 色々とわからないことを分析していくしかない。

 調査は大事だ。兵役経験を生かして絶対に生き残ってやる!


 こうして目的を定めた俺は次の行動に移る。

 まず安全な寝床の確保、それと食料調達だ。

 周辺の調査は現在低空飛行で周辺を見渡しながら飛んでいるのである程度は出来ている。


 ただ……言うまでもなく危険な魔物が多い。

 こうして低空飛行をしていると同じように飛べる魔物なんかが襲ってくるだろうし、遠距離攻撃……魔法とか狙撃ができる魔物が出てこないとも限らない。

 生憎俺の目は一つしかないし、熱線と魔眼、それと噛みつきと突進くらいしか攻撃手段はない。

 応急手当程度の回復魔法は使えるけどスターショットを撃つより熱線の方が威力が出る。

 飛べる分だけアドバンテージはあるけど……それも心もとない速度だしなー。

 しかも安定しない。ホバリングは中々難しい。


 寝床はどうしたものか……と考えた所で密林だけど切り立った崖に目が行く。

 俺は飛べるからあんまり高低差は気にならないけど地上の魔物はこの高低差を上り下りするのは至難の業だな……。


「よし! ライラ教官から教わったブートキャンプを始める!」


 実際に言ったら知り合い全員から総突っ込みが待っていそうな気がするが気にしない。

 俺は近場の木の枝で折れそうなやつに熱線を当ててへし折り、落ちてる石と弦を取って来て小さな石斧を作る。

 それを足で掴んで……地味に飛びづらい。

 高い崖の一部まで崖沿いに飛んで……良さそうな所で石斧を持った足でスイング!

 ゴツっとわずかに崖が削れる。

 そのまま何度も削って穴を広げて足場にする。あとは熱線と斧のスイングを繰り返し土を押し出して穴を広げていく。


「ハァ……ハァ……今日はこんな所で良いか」


 俺が入り込んで丸まって寝られる程度の穴にしたところで石斧を穴の中に置く。

 それから俺は崖から森林の方に飛んで行き、落ち葉を拾い集め熱線を調整して乾燥させ……破けた服を取り出して荷物袋にして穴へと運び込み地面に敷いた。

 とりあえず座り心地を確認。


 ……ガサガサとしている。しけった地べたや木の枝に掴まるよりは幾分かマシか。

 破けた服に泥を塗って穴の蓋にして俺は一息ついた。


 ……外を見ると日が沈み始めている。

 幸いな事に夜目は相変わらず利いてくれるので暗くても見えないって事は無さそうだ。

 ただ、少し疲れたので仮眠を取ることにした。

 しばらくはここが寝床になりそうだな……。

 なんて思いながら俺は目を閉じ……体を休めたのだった。




 仮眠を取り、疲れが取れたのを確認してから外を観察する。

 まだ夜だった。スタミナ回復力向上はまだ効果を発揮してくれている……って所かな。


 時間は有限だ。

 夜目は利くし食料は……まあ、木の実と薬草、それと焼いた魔物の肉とレバーでどうにかなる。

 喉が渇いたら川辺に行くか……注意して飲みに行くべきだな。


 とにかく、今は周辺探索をする上で拠点づくりを続けよう。

 石斧で寝床の壁を掘って土を穴から外へと落として巣穴を広げていく。もちろん踏み固めるのと同時に熱線で焼きも入れて頑丈性を向上させてっと……。

 そうして日が出る時間まで寝床の拡張を行った所で、作業を中断する。


「よし……」


 朝靄が立つ周辺の探索を行う。

 む! ビリジアンパラボナラビットという耳が大きいウサギが歩いているのを発見……周辺を警戒気味に進んでいる。

 ウサギか……悪いな、先制攻撃をさせてもらうぞ! 俺は何が何でも生き残って強くならねばいけないんだ。

 遠距離からできる限り集束した熱線で先制攻撃を俺は放つ。


「ピュ!」


 ピクッとこっちの羽ばたき音を察知したビリジアンパラボナラビットがこちらを見ると同時に耳を震わせて超音波を放ってきた。

 く……音波が見えるので辛うじて避けつつ照射!

 熱線がビリジアンパラボナラビットに命中。

 ビリビリっと獲物は仰け反る。


 追撃に俺は急接近して石斧を持った足で一回転して叩きつけを行う。

 よけようとしたようだけど生憎攻撃を当てるのは得意なんだ!

 ガツンと良い感じに石斧がビリジアンパラボナラビットに命中。

 クリティカルヒットって感じで吹っ飛んでそのまま倒れ伏す。


 仕留めたな……経験値が入った感じがした。

 大きな獲物ではないので足で掴んで仮拠点に持ち帰り、解体を行う。

 耳が良い感じに毛皮向きだな……広くて良さそうだ。

 歯で毛皮を噛んで剥ぎ取りを行う。


 うう……こんな体じゃなければもっと綺麗に剥ぎ取れるというのに……不便極まりない。

 血抜きも行いつつ熱線で処理をして……必要な物資を集めないとな。

 って感じで仮拠点に獲物を運び込んで処理をしてから更なる周辺調査を行う。


「お?」


 森林地帯を飛んでいくと……見覚えのある穀物が生えているのを見つけた。

 これって小麦……野麦か?

 穂にたくさんの麦を生やした野麦を発見した。


 野麦ってあんまり穂を付けていないはずなんだが……ダンジョンで稀に見つけられる小麦の群生地域があるとは……後で採るか。

 乾燥させた枯れ葉よりは藁の方が敷き心地は良いよな……魔物の毛皮加工は必要な物資がまだ確保できない。

 ごわついても良いけど……一応燻してノミとかの処理が必要だし、藁の上に引けば立派な寝床になるぞ!

 もちろん野麦をしっかり処理すれば小麦粉に出来る。

 アエローもあるし……熱線で焼いた肉よりもしっかりと魔力消費無く食べ物が作れるはずだ!


 って感じで更なる周辺探索を行った。

 するとまたも宝箱を発見……木の箱で開けて消えるタイプじゃないようだ。


「罠は……無いな」


 中には青銅の盾が入っていた。

 これも使い道があるな……と仮拠点に持ち帰った。

 往復して木の箱も運んだぞ……重かったし目立ってバイオレッドアンコモンドッグに追いかけられたので倒せる範囲で熱線を浴びせて倒した。


 ともかく、木箱と盾を仮拠点に搬入完了。

 盾は……少し重たいけど弦で持ち手を括って背中を守るように装着っと……これで無いよりマシの装備が確保できたな。

 後で物資が集まったら板金して鍋にする。

 木箱は仮拠点に設置して手に入れた物資を収納する整理用の箱として運用することに決めた。

 確保した食料が傷まない内に腹に収めて探索再開。

 早くはないけど飛べるって事で前に遭難した時より探索しやすく感じる。


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