百三十四話
「ふう……」
どうにか仕留めたか。
力というか経験値が流れ込むあの感覚を覚えた。
勝利したは良いけど羽が痛む……く、やってくれたもんだ。
熱線を傷口の消毒に施すと……お? 魔力を大幅に消費するけど少し回復ができる。
回復魔法は据え置きで使用できるみたいで助かった。
フィリンに教わっておいてよかった。
「さて……」
バイオレットアンコモンドッグを仕留めた訳で、食い残しとかではない新鮮な獲物を手に入れる事ができたんだけど、どうした物か。
さっきは遠慮して食わずにいたが食わねばどこかで飢え死にしてしまう。
食い残しと自ら獲った獲物とでは認識が変わるのは当然なんだが……フライアイボールになってしまって味覚とか変わってしまっているのだろうか?
そこが大事な所だ。
ただ、少なくとも噛みついた時の毛が口に入った感覚は人間だった時と違いは感じられなかった。
……とにかく生で一度食べてみるのが良いか……魔物になってしまった訳だし、こう……胃腸とかも色々と変わって丈夫になっているかもしれない。
恐る恐る仕留めたバイオレッドアンコモンドッグの腹辺りを口を開けて牙で切り裂いて肉を頬張って……ブッと吹き出してしまった。
くっそマジい!
完全に生肉のそれだぞ!
何となく人間だった時とは異なる風味を感じる気はするけどとても食いたいとは思えない血肉の味だ。
どうしたものか……って考えた所で熱線が放てる事を思い出した。
それと早くこの死体を処理しないと他の魔物を引き寄せかねない。
早く試さないとな。
急いで肉を噛み切り、内臓……肝臓……肉の一部とレバーを取り出して熱線を照射し続ける。
ジューっと肉が焼ける音が響いて行き……しっかりと火が通ったのを確認。
恐る恐る肉を口に頬張る。
……すごく獣臭い!
けど先ほどよりは幾分かマシか……レバーは……まだ食えなくはない程度。
火はしっかりと通っているけど……火が通るまでに使う熱線のエネルギーがわりに合わない。
「ぉおおお……」
くっ……血の匂いに釣られて魔物が集まってくるのがわかる。
確保できるだけの肉を収納してその場を急いで離脱しよう。
パタパタと羽ばたいて空を移動する。
周囲は……うん、森というか密林って感じで先ほどとそんな違いは感じられない。
「ケェエエエン!」
ソードファルコンという魔物が高速で飛び上がってこちらに狙いを定めてきた。
飛んでいても狙われるか……飛ぶ速度はあっちの方が早い。
が、格好の的だな。近づいてきたら熱線を当てて避けてやる。
「グルウウ」
「ケェ!?」
そう構えていたのだけど、そこに黒い影がソードファルコンを足で掴んでグリっと握りしめて仕留めてボリボリと平らげてしまった。
……今、俺が飛んでいる高度より更に上、先ほどソードファルコンを仕留めた大きな影が飛んでいる。
ヴァイワイバーンって名前の竜型の魔物のようだ。竜騎兵とか魔獣兵だったら戦えるかもしれないけど……かなり強いんじゃないか?
こう……見ることで分析できるのか遥かに格上の魔物だってわかる。現にソードファルコンは……たぶん俺より格上の魔物な訳だし。
あんまり高高度を飛んでいると餌食になる……だろうな。
高く飛び過ぎてもいけない。
低すぎても餌食になる……非常に歯がゆい状況だ。
立て続けに物事が起こっているけど冷静に対処していかないと餌食になってしまう。
低空飛行をして……っと地面に目を向けると見覚えのある薬草を発見。
アエローだ。
他にも薬草や食べられるキノコ……見覚えのある木の実なんかを発見した。
おお……兵役中に座学で学んだお陰で何が食べられるのかわかるぞ。フライアイボールが食えるかどうかはわからないけど人間基準で食べれるはずだ。
これ、兵役で学んだところだ! とかどこぞのゼミとかで学んだ所だ! みたいな感じ!
ビバ! 兵役経験万歳! 非常に助かる!
藤平は無駄な事をしていると思っていただろうが俺は役に立ててるぞー!
そう思いながら空を飛んでいると……なんか薄ぼんやりと地面から何かが噴出している部分があるのに気づいた。
「なんだあれ?」
怪しい所には近寄らないのが無難だけど、特に危険に感じる気配もない。
恐る恐る何かが噴出している部分に近づく。
熱いとか……そういう感じじゃないな。
なんだろう? なんか感覚的に覚えがあるような代物としか言いようがない。
そう思いながら噴出している何かにさらに近寄ると……ポーンと音が響き、見覚えのある表示が浮かび上がった。
フライアイボール・ソルジャー(兎束雪一) Lv3 EVO・P 113
所持スキル 熱線 魔眼 飛行 LGB 分析 変身
Lv5になった時……熱線威力アップ
進化条件 Lv10
人間 ×不可 ▽所持スキル
分析▽
ビリジアンワイルドタイガー 0.3% アンブッシュベリードラゴンタートル 0% バイオレッドアンコモンドッグ 25%
ソードファルコン 1.2% ヴァイワイバーン 0%
変身▽
肉体
体 フライアイ
手 フライアイ
足 フライアイ
えーっと……これってもしかしなくてもターミナルで確認できるステータス……か?
なんか俺の名前の所にフライアイボール・ソルジャーってなってて名前に括弧が付いてるけどさ。
ソルジャー……フライアイボールの兵士って事か?
となると普通のフライアイボールより強いって事だけど、こんな階級があったのか。
座学じゃ知らなかったぞ。
あ、人間って所の三角の部分を調べると見覚えのある所持スキルがある。
ただ……ナンバースキル関連と浸食率はなくなっていた。
この噴出している光はおそらくターミナルって事で……良いのか?
魔物だからこそわかる的な地脈の流れとかそんな感じのエネルギーの流れみたいな?
そうでも思わないとこの見覚えのあるステータスに酷似した項目では判断できない。
早とちりは危険だけどそう片付けよう。
で、体力とか魔力、スタミナなんかもわかる。
ただ……さっきも確認したけど浸食率とナンバースキルが消失してて、人間は不可ってバツ印が付いている。
けれど所持項目は機能しているようだ。
気になるのはEVO・Pか……これって何だろうか?
経験値とも異なる項目らしいが……何かヒントはないか?
ターミナルで習得するように何かないか項目を弄ろうとするのだけどスキル習得ができない。
だけど肉体という項目を確認できた。
体の部分で項目が開く。
ビリジアンワイルドタイガー ????P 分析が足りません
アンブッシュベリードラゴンタートル ????P 分析が足りません
以下魔物の名前と共に分析が足りないと出ている。
この魔物ってこれまで出会った魔物で間違いない。
ふと、俺を選んだ神獣の能力って奴が脳裏を過る。
――見て覚え、進化する。
……もしかしなくてもあの魔物を分析することで装備を切り替えるみたいな感じで能力上昇する……とかか?
EVO・Pってどうやって集めるんだ?
いや、そうじゃなくてだな。
このサバイバルな状況でどうにか脱出をしなくちゃいけない。
利用できるものなら何でも利用するさ。
手探りだけどやるしか……無いか。
あとは現在地はどこだ?
マップ機能を表示させるのだけど、俺が空から通った部分しか明るくなっていない。
ただ……現在地は表示された。
神の庭園 森林山岳地域 外郭
どこだよ神の庭園って! ダンジョンじゃないとでも言う気か!?
って所で何者かの気配って……ビリジアンワイルドタイガーが徐々に詰め寄っている。
ターミナルの偽装機能は……無いみたいだ。
く……場所的に見晴らしが良すぎて魔物に狙われかねない場所か。
特に何か弄れる訳じゃないので急いでターミナルポイントから離れて飛び上がり、距離を取る。
視界に入る範囲で魔物の名前とかわかるので奇襲は早々に受けることはないけど……落ち着ける気配がないな。
という所で宝箱を発見した。
ダンジョンっぽい特徴はあるのか。
「おりゃあ!」
ゴスッと熱線を放って宝箱を転がして強引に開けて中身を確認!
「よっしゃ! 帰路のオイルタイマーだ!」
前にダンジョンで遭難した時と違って運が良い。
急いでオイルタイマーを足でもってキリキリとダイヤルを弄る。
が……オイルタイマーは空間をわずかに歪ませるだけで何も起こらない。
脱出できない!?





