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百三十三話


「は……はは!」


 逃げろぉおおおおおお!


「ガアアアア!」


 先ほどのビリジアンワイルドタイガーよりも亀っぽいくせに早い亀が俺に向かって走ってくる。

 俺は飛んで一目散に逃げだす。


「ぶえっくし!」


 うー……くしゃみ出た。誰かが俺の噂でも言ってるんだろうか……。

 いや、今はそんなことを思っている暇はない!


「ガアアアア!」


 やっべ! 見つかった!

 と、俺は足の長い気持ち悪いデザインの亀から全力で逃げ出す。

 今の俺では絶対に敵わないのはわかっている。浸食率は無くなり、異世界の戦士としての力も使えない。

 体を這う痛みは無いし思い通りに体は動くけど……遠くを見ればどこまでも続く密林……右も左もわからない、現在地不明の迷宮なんじゃないかと思える空間。

 どっちに行けば帰れるのかすらわからない場所で俺は逃げながら叫んだ。


「ここは一体どこでなんなんだぁあああ!」


 くっそ、あの野郎を倒した俺は兵役を終えてブルとフィリンみたいな良い人達と平和に冒険してのんびり過ごすのが夢だというのに……俺に安息はまだ訪れることは……無い様だった。 

 こうして目玉の魔物化した俺のサバイバルが始まった。


「ふう……」


 アンブッシュベリードラゴンタートルから逃げ出し、不意打ちは出来なさそうな高めの木の枝に掴まって呼吸を整える。

 まず俺は自分がどれくらいの力を持っているか確かめないと始まらない。

 石を投擲しようとして上手く飛んでいかなかった……となると人間だった時のような力は期待できない。

 ナンバースキルとか使えるのか?


 場合が場合だから気にせず発動!

 意識したけど、発動した時の感覚は全くない。

 使えなくなってる……?


 どこかにターミナルとか冒険者カードとかあればわかるんだけどな……もしくはバルトとか竜騎兵や魔獣兵、魔導兵とか。

 不用意な戦闘は避けるのは大事だけど、自身がどの程度の力が出せるのかわからないと始まらない。

 ターミナルが使えないなら使えないでしょうがない。

 出来ることを確かめる。これが兵役を終えて学んだ俺としての結論だ。


 えーっと……フライアイボール、座学だと熱線と魔眼を使う魔物だったっけ。

 ……なんか微妙になじみがあると思ったら魔獣兵の翼の武装じゃん。

 妙に使いやすいというかシンパシー的な物があると思ったけどまさか後に俺がこうなるって言いたいのか?

 最後の神獣も見て覚えるとかなんかそういった特徴があるような事を言っていたし、その神獣に力を授かった俺が臨界を迎えたわけだから……。

 やはりこの辺りに関わりがあるのは間違いない。


 魔獣兵を操縦していた時に使った熱線は……バルトの操作だったけど、感覚共有がある部分で何となく感じていたっけ。

 そう思いながら熱線を放とうと目を見開いて力を籠める。

 すると細い赤い光が見つめた先に飛んでいき消える。


 ……射程3メートルくらいか。

 魔眼は……目に力を入れてー……って全身に力を入れる感じだな。

 今の俺ってフライアイボールだし。


 で、カッと放ってみたけど効果があるのかよくわからん。

 やはり実験は必要だけど……試せる相手がいないと難しい。

 しかも魔眼はフライアイボールとの戦闘の時も武装で使った時も発動に時間が掛かって一人じゃ厳しいだろうな。

 相手の強さに左右される所も多いし。


 まあ……とにかく色々とできることを試しつつどれくらい戦えるか試さないと。

 なんて思っていると俺と同じ一つ目の空飛ぶ魔物フライアイボールが通り過ぎていく。

 あ、視線が交差する。


「……」

「……」


 なんか空気を読むというかなんか交信するものがあるのかよくわからないけど敵対的ではない様子だ。

 新顔? って感じにあっちが思っているような……そんな感じに見受けられる。

 そのままフライアイボールがパラパラと飛んでいくのが掴まっている枝の上から見て取れる。

 何があるんだ?


 そう思って羽ばたいて後を追いかけて行くと……どうやら他の魔物が食い残した魔物の残骸にフライアイボール達が集まって死肉を貪っている。

 うへぇ……迷宮での弱肉強食って奴か。

 何となく飛び続けたのもあって腹が減ってきたような気がする。

 飛ぶのって思ったよりもエネルギーを食うし疲れるな……。


 熱線が使えるのにみんな生で食ってるなー……あの輪に混ざって食うのはさすがに気が引ける。

 こう、敵対心とか持たれてないし混ざればおこぼれはもらえるかもしれないけどさ。


 やめておこう。

 飢え過ぎている訳でも無いし何か食えるものがあるかもしれない。

 そんな訳で俺は群がるフライアイボールの輪から離れて何か食えるものが無いか低空飛行で探索をする。

 ……そういえばこんな感じで群れから外れたブラウンフライアイボールをブルが投げて、えーしーしたのを思い出す。

 ハッ!? 殺気!


「ガアアアアア!」


 咄嗟に回避行動をすると俺の飛んでいた所目掛けてバイオレッドアンコモンドッグが飛び掛かって来た。

 奇襲かよ! いって! 羽に噛みつかれた!


「バウバウ!」


 ブンブンと俺の羽に噛みつきながらバイオレッドアンコモンドッグが体使って振り回してきた。


「いて! いてぇって言ってんだろ!」

「キャン!」


 ギチギチと羽が軋み、怒りと共にゴスッと咄嗟に蹴りを入れると上手い事、蹴りがバイオレッドアンコモンドッグに命中し、パッと噛みつきの拘束を振りほどき俺は地面に転がった。


「バウウウウ……」


 バイオレッドアンコモンドッグは間合いをはかりながら逃がさないとばかりに目を血走らせながら唸り続けている。

 どうする? 逃げるか? 羽ばたけば逃げられる可能性は高い。

 けど……く……羽を噛みつかれて動かしづらい。

 飛行できなくはないだろうけど逃げ切れるか怪しい。


 周囲を確認する。

 犬系の魔物は群れで戦うことが多い。その場合は逃げるのが得策だが……周囲にそれらしい姿は見えない。

 一匹狼ってわけじゃなく群れからはぐれた魔物か?

 逃げるにしても相手に手傷を負わせた方が逃げやすいか。

 俺はフライアイボールの武装とも言える熱線を意識する。


「ハッハッハ!」


 するとバイオレッドアンコモンドッグは手馴れたとばかりのステップをしながら俺目掛けて飛び掛かる。

 狩り慣れているとでもいう気か?

 残念ながら戦闘に関しちゃ俺もそこそこ経験があるんだよ!

 普通のフライアイボールだったら当てられないかもしれないが俺はそんなことはない。


 食らえ!

 眼力を込めて熱線を思い切り放つ。

 バシュッと目から熱線が放たれ、飛び掛かってきたバイオレッドアンコモンドッグに命中。


「キャウ……バウア!」


 ジュっと熱線が命中し僅かに怯むバイオレッドアンコモンドッグだけど、そのまま俺に噛みつかんとしてきた。

 く……熱線を再発射するには力……再チャージしないと出来ない気がする。


「はああああ!」


 なのでそのまま地面を蹴って突進!

 ドン! っとバイオレッドアンコモンドッグにぶつかり衝撃が掛かる。

 けど、これだけでは仕留めることは出来ない。


 何か……できることは無いか! 目の前にバイオレッドアンコモンドッグの喉があるんだぞ。

 手があったらそのまま刃物で切ったり掴んで締め上げるところなんだが、生憎と羽なのでそんなことはできない。

 ……まだあるじゃないか! 使える手が!

 俺は口を開いて力の限りバイオレッドアンコモンドッグの喉笛に食らいつく。


「キャアアアン! キャンキャン! バウウウ! バウ!」


 思わぬ攻撃にバイオレッドアンコモンドッグは声を上げて転げ回り俺を振り払おうと試みる。

 しかもこの声には憎悪が混じっている。逃げようものなら地の果てまで追いかけてくる気がした。

 させるかっての! このまま仕留めさせてもらうぞ!

 俺は食らいついた態勢のまま目に力を込めてバイオレッドアンコモンドッグの頭目掛けてチャージした熱線を放つ。


「バウウ――」


 ブシュっと俺の熱線はバイオレッドアンコモンドッグの頭部を焼き焦がし、ユラァっと力なく倒れた。

 ビクンビクンとバイオレッドアンコモンドッグは死後痙攣をおこして動かなくなった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 噛みつきからの連続技?その概念はモンスターヒーローになれますね。
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