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百三十二話


 さあ……僕の所まで来て子供達を楽しませるんだよ。

 どこかで朽ちるようなつまらない事にはならない事を願ってるけど、それもまた悪くないか。

 精々頑張る事だね。





「う……」


 うめき声と共に俺は何度も瞬きをしながら起き上る。

 えっと……意識を失う前に何があったんだったっけ。

 あ! そうだ……俺は異世界の戦士として、神獣の力を解き放って臨界を迎えて異形化する所だったんだ。

 ライラ教官や飛野、バルトに看取られつつ、神獣共との会話をしながら……浸食で意識を失おうとしていた時、なんかゾッとするような声と共に倒したアイツの死体が降ってきて……奴が弾けて、その時に生じた空間の穴に吸い込まれて意識を失ったところまでは覚えている。


「喉が……カラカラだ……」


 水音がして、異様に喉が渇いている俺はよろよろとしながら水音に従って川へとたどり着く。

 周囲は……なんだろう? 森……いや、密林?

 迷宮化とかライラ教官が言っていたからそういった場所に迷い込んだとみて良いか。


「そうだ……俺……どうなってんだ?」


 渇きを覚えながら俺は自分がどうなったのかに考えを巡らせた。

 のどの猛烈な渇き以外は……意識を失うまで感じていた全身を這うような気色悪い感覚と痛みは無い。

 あの感覚に比べたら至って正常……だろうか。

 ……まずは喉の渇きをどうにかしたい。

 考えがまとまる前に、俺は渇きを解消させるために川辺に近づき手を伸ばそうとして自身の異変に気付いた。


「な……」


 そう……手が違ったのだ。

 こう、手ではなく羽が俺の思うとおりに動いていてこう……角っこの部分で水を掬おうとしていた。

 ただ、これじゃ水が飲めない。

 そうじゃなくてだな!


 しかも……なんだろう、おかしいと思ったらますますおかしい事がわかる。

 瞬きは出来るのだけど、どうも変だ。

 何かおかしい。


 ……川って事は自分の姿がわかるよな。

 俺は今どうなっているんだ?


 異形化した所為で藤平みたいな姿になってしまっているんだろうと何となく察することはできる。

 だけどさ……なんで俺は意識を保ったままなんだ?

 いや、まずはどんな気色悪い姿になってしまったのかの確認をすべきなのか?

 どうもこの辺りの考えを神を騙ったアイツや最後の神獣って奴に変わり者って言われてしまったような気がしてならない。


「うう……ままよ!」


 勇気を振り絞って俺は水辺に顔をのぞかせて自身を確認する。

 するとそこに映し出されていたのは。


「フライアイボール……?」


 一つ目の羽が生えた目玉の魔物が水面に映し出されていた。

 念のため右手を上げると水面のフライアイボールは同じ場所を上げる。

 左手右手と交互にあげて確認……。

 のども乾いていたので衛生面とかで腹を壊しそうだけど水面に口を付けて飲む。

 ああ、フライアイボールって目の下に口があるんだよなー結構ギザギザな感じの。

 ごくごくと水を飲んで渇きを潤す。


「マジかよ」


 それから俺はおもむろにつぶやき、夢じゃないかと何度も顔に手を当てる。

 抓ろうとしたけどできなかった。翼だもんな。

 で、足はちょこん、枝というか蝙蝠の足みたいなので割と心もとない。


「臨界を迎えたら異形化するんじゃなくて魔物化してしまったぞ。しかも意識を保ったまま」


 おーい、神獣ー俺の声が聞こえるかー?

 ……返事がない。

 目が覚める時に聞こえた声って……もしかしなくても俺に誰かがまた何かしたって事か?

 とにかく、臨界を迎えたら目玉の化け物になってしまったのかよ、俺。


 あれだ。

 藤平なら喜びそうなシチュエーションだったりするんだろうか?

 ラスボス倒したら目玉の魔物に転生しました☆ とか王道だろ、とか言いそうだよな。

 アイツが望む展開ってこういうのだったよなぁ……まあアイツはチートが無いとキレるけど。

 いや、まあ……臨界迎えても平気って所だとアイツが望む姿なのかもしれない。

 俺は勘弁してほしいね。


 しっかりと自分が何者かを反芻するぞ。

 実はーとかシャレにならん。


 俺の名前は兎束雪一、高校生だったけど異世界の戦士として召喚され、王様に頼まれたけど断って一応自由な冒険者になるために兵役に就いた。

 そして兵役の中でオークのブルトクレス……ブルと出会って、俺はブルみたいな良い人の力になりたいと考えるようになったんだ。

 それから色々とあって……異世界の戦士が利用されて臨界を迎えると異形化するのがわかり、黒幕を俺が力を解き放ち命を賭して倒した……。


 うん、特に記憶を喪失しているとかは無いっぽい。

 とはいえ、この辺りは俺自身で判断できることじゃないか……。

 正しさなんて後でだ。まずはみんなの所に帰りたい。


 ……こんな姿になってしまって言葉が通じなかったとしても、俺はブルやフィリンの元に帰りたい。

 魔物がなんだ。

 ブルだって魔物扱いされてもめげずにがんばっていたじゃないか。

 永遠の別れに比べれば、がんばれば会えるかもしれない方が何倍もマシだ。


 よし、悔やんだって前には進めない!

 まずはみんなの所に帰る事から始めよう!


「よーし! やってやるぞー!」


 と、声を上げた所でガサっと少し離れたところの茂みが揺れる。

 恐る恐るその方向を見ると……あー見える。

 ビリジアンワイルドタイガーって名前の魔物が潜んでこっちに狙いを定めているのが。


 今の俺のこの姿で勝てるのか?

 足元に落ちてる小石を足で掴んで投擲しようと試みるけど小石は目標に届く前に地面に落下してコロコロと転がってしまった。

 やっべ! たぶん人だった時より弱くなってる!

 このまま始まったらすぐに死ぬ!


「ガァアアアアアアア!」


 茂みから雄たけびと共にビリジアンワイルドタイガーという虎の魔物が飛び掛かって来た。


「うわあああ!」


 俺はほぼ無意識に飛び上がって羽をばたつかせてそのまま羽ばたいて川を越えて逃げる。


「あああ……おお」


 ふわ! ふわ! って感じだけど思ったより速度が出るホバリング……そういやフライアイボールって飛べる魔物だった。


「ガアアア!」


 狩りを失敗したビリジアンワイルドタイガーは俺に向かって吠えていたが川を越えるようなことはせずに茂みの中へと消えて行った。

 まあ……そのまま高度を上げれば逃げ切れるだろうし……木とか足場にしてこっちに飛んでくるのはリスキーか。

 とりあえず周囲を羽ばたいて確認っと。


 ……うん。 密林地帯みたいな場所だ。

 ここって多分迷宮……ダンジョンで良いんだよな?

 脱出を図るとしてまずどうやって脱出すれば良いんだ?


 更に周囲を確認……俺の目が覚めたところに俺の服が破けて落ちてる……。

 何か使える物を持ってなかったか? と破けた服とか色々と確認するのだけど特に使えそうな物は落ちてなかった。

 ……せめて破けた服だけは確保しておこうと意識すると目から光線が出て服の残骸が空間がゆがむように消えた。


 なんだ!? あの服はどこに行った! 出てこい!

 そう意識するとやはり目から光線が出て服の残骸が出現する。

 もしかして魔法……じゃなく魔物としての器官が道具を収納したって事か?

 魔物を倒すと時々道具を落とすと座学で聞いた事を思い出した。

 なるほど……こういう能力を持ってしまったって事で良いのか。


 なんて反芻していると……。

 ゾクリとなんか嫌な感覚が背後に通る。

 恐る恐る振り返ると先ほどとは異なる足の長い大きな亀が……アンブッシュベリードラゴンタートルって魔物が俺を凝視していた。


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