百二十八話
……決意は揺るがないようだな。
いや、汝は変わり者にして時に愚かでもある。
だが、愚かな者であるがゆえにどんな絶望的な事さえも乗り越えられる可能性を持っている。
我の兄や姉達を屠って来た者達はどれも愚かな者達だった。
だからこそ汝のような決意を固められるのだろう。
馬鹿にしてんのか!
馬鹿になどしておらん。
ところで汝は奴から発せられる力を何も感じず危険と思えないと思っていたな?
その判断は間違っておらん。
この戦いを乗り越えられる力は貴様の中にある。が……その代償がなんであるか汝がわからないはずはないな?
我が授けた力を解き放ち、文字通り命を代価にすれば良い。
それ以外、奴を屠ることはできないくらい、今の汝は容易く判断できるだろう?
わかっているのだ。貴様の仲間たちでは奴に届かん。あれでも我らの力を束ねた模造品であるのだからな。
……そういう事か。いちいち俺へ決意を試しに来たんだな。
自分の命か世界か……って奴か。
生きたいか生きたくないかと言われたら死にたくなんかない。
「神獣の声が聞こえるぞ……トツカから、という事は最後の神獣か、随分と舐めたことをほざいているのだな」
神を騙るやつが眉を寄せつつ俺を睨む。
それだけ力を積み重ねたら我の声が聞こえるのも当然か。
随分と我をコケにしてくれたものだ……貴様が神を騙るなどおこがましい。その身をもって、愚かである事を知るがいい。
俺と繋がっている神獣の感情が伝わってくる。
冒涜された事による怒りの感情だ。
俺は……自分が何をすれば良いのか、流れてくる力でわかる。
そうだな……できる限り温存するつもりで行こう。
最低限の力で奴を倒して報いを受けさせた後、当初の予定通り冒険者になるために兵役を頑張らないとな。
「飛野、ちょっと下がっていてくれ」
「兎束?」
飛野に手を伸ばして少しだけ後ろに下げさせる。
「バルト、悪いが飛野を任せる。震えが止まらないみたいだから安心させてやってくれ」
「ギャウ!?」
サッと、俺に引っ付いているバルトを飛野に預け、俺はブルとフィリン、ライラ教官の方へと顔を向けてほほ笑む。
大丈夫、こんなくだらない戦いはさっさと終わらせるから。
「戦う準備はできたのか? まだ仲間が戦えるようには見えないが」
「待たせて悪かったな。よくわかってなかったけど、どうやらお前は俺が相手をしなきゃ行けなかったみたいなんでな。ご指名通りに出し惜しみなんてせずに相手をしてやるよ。負けたらさっさと消えろよ?」
「は、ははははは! 相変わらず身の程知らずな事を! ふざけているから興味を持っていたが良いだろう! 神を冒涜した罪をその身をもって受けるが良い!」
俺は神を騙るやつに向けて構えてから……力を解き放つ。
すると俺の体中に刺青が走り、神獣の力が駆け巡った。
ああ……一つ汝に言い忘れていたことがあったな。
汝は他の異世界の戦士に比べて自身の浸食が異様に早いような気がしなかったか?
言われて考える。
確かに……飛野にしろ藤平にしろ、ほかのクラスメイト達に比べても俺の浸食の速さは確かに異常だと思えた。
すまんな、歴代の我の適合者はまず一番早く浸食を終えてしまうのだ。
だが、貴様はそこにいる者を残して一番遅い。
前にも言ったな……それは誇らしい事である。
さあ、貴様の決意が形となる時だ。ここでむざむざ醜態を晒すのではないぞ。
我が……貴様を選んだのだから。
我の力であり、我の力ではない……その意味を見せつけてやれ!
ピピピと無数に神を騙るやつへと……変身したブルを異世界の戦士の力を使った時に表示された十字のアイコンと項目が浮かび上がっては……登録されていく。
そしてナンバースキルとして俺の体にも多大な変化が起こる。
奴が天使と悪魔を模した人型の獣だとするのならば、俺は光で構築された翼と爪、角を宿した……奴によく似た姿へと変貌する。
唯一の変化は胸辺りに目を模した光の文様がある所だろうか。
「なんだ? 俺のモノマネか? まあいい……それでは存分に楽しませてもらおう。簡単に倒れるなよ?」
と、神を騙るやつが俺に接近してきて、ライラ教官たちにしたように指で突こうとしてきたので拳を握りしめて殴りかかる。
速度が十分にあることを察した神を騙るやつは即座に同様に拳を握って殴りつけてきた。
バシッ! っと大きな音が響き渡った。
拳と拳がぶつかり合った衝撃だけでそんな音が聞こえるんだな。
「ほう……この速度に追いつくのか、ならばこれはどうだ!」
先ほどの5倍ほどの速度で神を騙るやつは俺の目の前に接近してきた。
……馬鹿じゃないのか? 特に警戒も無くそのまま来て。
俺は拳を握って奴の顔面を殴りつける。
「な――なに!?」
ガーンと殴りつけられて吹っ飛ばされた奴だったがすぐに受け身を取って急停止する。
奴が使っていたバリアと同じものをフィリンたちがいる場所に手を向けて生成する。
「こ、これは……結界!?」
「トツカ! 何を――く、なんだこれ、びくともしないぞ!」
……この戦いにみんなを巻き込むことになりかねない。
「この速度に追いついてきたというのか……良いだろう。遊びはここまでにしてやる!」
腕を鋭い剣に変えた神を騙るやつに合わせて俺も腕の光を剣の形にして相手の剣に合わせて受け止める。
そのままライラ教官仕込みのつばぜり合いからの受け流しと蹴りをぶちかましてアクセルエアをぶち当てる。
「ぐ、ぐううう……何! そんなはずはない! 食らうがいい!」
蹴られた神を騙るやつは飛ばされながら俺に向かって無数の魔法の弾を作り出して発射してくる。
フィリンたちに当たったら堪ったもんじゃない!
俺はその飛んでくる弾を全部上……遥か彼方に跳ね上げて相殺させた。
「な、な……そんなはずはない! はぁああああああああ!」
先ほどの数倍の魔法弾を発射しながら神を騙るやつは俺目掛けて両腕を剣に変えて、技を放ってくる。
パワーウォールクラッシュに始まり、フルムーンブレイク、トルネードエアとまあ息もつかせぬ連撃だな。
しかも飛野が放ったナンバースキル、Ⅴバイトまで撃ってくるとは。
俺はそれを受け止め、時に受け流して奴の腹部に拳をたたき込む。
俺の中を駆け巡る力が拳から奴の腹部へと向かって行き、奴の全身を通過して衝撃を引き起こした。
くの字となってうめく神を騙るやつを見ると、いささか滑稽に見えなくもない。
そこから流れるように踵落としを入れてから力をためて起き上って飛び掛かる神を騙るやつに親友の特技である大技、ブルクラッシュを当てる。
「うぐぇ……な、なんだ。なんで……こんな……ありえない! ……そうか、このわずかな時間にすべてをかけているんだな!
だからこれだけの力が出ているんだ!」
「ああ、こっちも切れる切り札は切らないとな」
当然ながら俺の体が動くごとに悲鳴を上げて激痛が走る。
だが、過剰とばかりの回復も同時に発生していて、俺は形を保ち続けることができていた。
「ユキカズさん!」
「は、早すぎる……そしてなんて力のぶつかり合いだ……間に入れない。俺も力を使って間に入ろうとしているのに……くそ、このバリアが解けない!」
「ワウウウウ……」
「なんだこの戦いは……トツカの力が宿った武器を持ってしても目で追いかけるだけ……あの時とまるで変わらない……」
フィリンたちが無事であることを確認しながら俺は神を騙るやつとの戦いに意識を集中する。
「は、はは! そうでなくてはな! まだまだこの力はそこがあるという事だ! 行くぞ!」
と、神を騙るやつは俺を参考にもっと力を引き出さんと異世界の戦士の力を巡らせる。
獣に酷似した頭部を生成してエネルギーを吹き付けながら噛みつかんと飛び掛かる。
スッと俺は背後に回り込んで翼を展開、魔獣兵でよく使っているアイズウイングのように翼を変化させて熱線をぶち当てる。
「ぐああああ!? そんな!?」
「何をそんなに驚いているんだよ」
本当……藤平にしろトーラビッヒにしろコイツにしろ、戦いというのを何だと思っているんだ。
倒すのに丁度良い相手が丁度良く出てくるとでも思っているのか?
そんなふざけたことに付き合わされる方の身にもなってほしい。
こっちがどれだけ全力を出し尽くしているのか……藤平はともかく命を削って戦ってんだ。
戦いを舐めるのも大概にしろっての!





