百二十五話
「付き合う義理は無い! ヒノ! ブルトクレス!」
「はい!」
「ブゥウウウ――バウ!」
ライラ教官と飛野と狼男化したブルが呼吸を合わせて悪魔化した竜騎兵が動き出す前にローブを羽織った奴に接近して挑みかかるが結界に阻まれて、武器も攻撃も弾かれてしまった。
「実験をしようというのに無粋なものだ……言っただろう? こっちに挑む資格だと、前座で楽しませてくれ!」
「ふざけた真似を! く……」
ドン! っと結界が一瞬だけ膨れ上がり、ライラ教官と飛野とブルが弾かれて俺達の方に飛ばされてきた。
それからローブを羽織った奴の周囲に形成された結界は円柱へと形を変えてローブを羽織った奴を守り続けている。
前座……ね。こっちを消耗させようとしているとしか見えないが……。
危険! 敵戦闘力測定不能!
バルトの警告文が悪魔竜騎兵(仮定)を示して表示されている。
「だからって逃げるわけにはいかない」
もともと俺達の目的はあそこにいるローブを羽織った奴に報いを受けさせ、この戦いを終わらせる事なんだからな。
ビュンと目にも止まらない早業で悪魔竜騎兵は吹き飛ばされた教官たちに突撃していく。
俺は魔導竜剣を即時起動させて悪魔竜騎兵へと突き刺す。
く……早い! 早すぎるが辛うじて悪魔竜騎兵の横っ腹に剣を当てることができた。
ジュインと火花が散ると同時に鈍い感覚がして悪魔竜騎兵がよろめく。
「GAAA!?」
うっそだろ……どんだけ頑丈なんだよコイツ。
「ライラ教官! みんな! 戦闘配置! アイツに攻撃するにしても、まずはこいつの注意を引かなきゃやられます!」
「GAAAA!」
俺の攻撃でよろめいたのが大層気に食わなかったのか悪魔竜騎兵は俺に向かって鋭い爪を発光させて爪を立てて切り裂かんと飛び掛かる。
く……早すぎる! 強化された魔獣兵とはいえ、この速度に追いつけない!
竜騎兵に異世界の戦士の力を合わせるとかどんだけ化け物スペックの生き物を作り出しやがったんだよ!
「GAAAAAAA!」
カッと悪魔竜騎兵は口を開いてブレスを吐くのがわかったので射線を推測して大きく横に飛ぶ。
すると俺が操縦する魔獣兵が居た場所目掛けて高密度のブレスが放たれ俺の背後の遥か彼方で見上げるほどの大きな火柱が巻き起こる。
嘘だろ……幸い遠方で待機している連合軍に命中することはなかったけど、あんなの当たったら蒸発すんぞ。
「GA!」
絶句して動きがわずかに止まった俺の隙を逃さず悪魔竜騎兵はブレスの反動で体重移動がうまく行っていない状態で殴りつけてきた。
盾で悪魔竜騎兵の攻撃を受け止めながらバックに飛びのいて衝撃を出来る限り緩和させる。
グギンと盾が不気味な音を立てて呆気なく引き裂かれ、盾を構えていた腕がへし折れる。
左腕部大破!
赤い警告表示と共にバルトが魔獣兵の状況を教えてくれる。
「トツカ!」
「く! はぁあああああああ!」
「バウ!」
ブルとライラ教官、飛野がそれぞれ切り札を切って吹っ飛ぶ俺……魔獣兵とすれ違うように高速で悪魔竜騎兵に向かって飛び掛かる。
ギィリイン! っとライラ教官の剣は俺が使った魔導竜剣かのように火花が散り、ブルの斧による一撃も致命傷には届かない。
辛うじて飛野が殴りかかった一撃が悪魔竜騎兵の皮膚を傷つけるにとどまっている。
「なんて強靭さだ! 今までの敵とは次元が異なるぞ」
「バウウウウ……」
「く……」
翼を広げて体勢を立て直した俺の隣にフィリンの操縦する魔導兵が立つ。
ああ、なるほど……やることはわかる。
両足を地につけて翼……アイズウイングを作動……援護射撃の命中には自信がある。
「バルト、フィリンの魔導兵とのデータリンク。命中サポートによる一斉射撃を行う」
承知……ターゲット殲滅の為、全ウェポンの同時展開。
ギューッと残存エネルギーが急激に減って行き、武器へと流し込まれていく。
「ユキカズさん」
「先を考えるのは、まずはアイツを倒さないと始まらない! ライラ教官と飛野、ブルに被害が出る前にやるんだ」
既にこれまでの訓練でどのタイミングで攻撃すればいいのかを体にみっちり覚えさせている。
縦横無尽に動き回り悪魔竜騎兵の猛攻を辛うじて避けつつ攻撃しているライラ教官たちの助けをせねばならない。
「はい。システムサポートは任せてください。バルト、こっちにも処理リソースを下さい」
ピピピとバルトとフィリンと魔導兵が余計な操作を代用してくれる。
魔獣兵の得られる視覚情報による悪魔竜騎兵の動きを推測し、ライラ教官たちが的確に一斉射撃から退避できるタイミングを狙う。
一斉射撃に合わせて引いてもらうなんて器用な真似をこの化け物はさせてくれる様子は見えない。
「おっと! じゃあこれはどうかな?」
ローブを羽織った奴のセリフに合わせて悪魔竜騎兵は翼を広げ体を丸くした所でバルトが次の攻撃予測を宣言する。
「教官! 奴を中心としたドーム状の攻撃が来ます!」
「わかった! ブルトクレス、ヒノ! 私の後ろに回り込め!」
「バウ!」
「はい!」
掛け声に合わせてライラ教官たちは俺たちの前方で一か所に集まり陣形を作る。
「GAAAAAAAAAAAAAAAA!」
と同時に悪魔竜騎兵は雄たけびを上げる。
すると悪魔竜騎兵を中心としたドーム状のエネルギー衝撃波が発生。
「クレイクブルクラッシュ!」
ライラ教官が悪魔竜騎兵のドーム状のエネルギー衝撃波目掛けて異世界の戦士の武器を振り被る。
バチバチバチと音を立てながら大きな土煙が辺りを埋め尽くした。
「さーてどうなった物かな?」
「GAAAA……」
ドスンと悪魔竜騎兵が着地する音が響く。
そこだ!
「エイミングバースト!」
魔導竜剣の最大出力による刺突技を土煙を引き裂いてブレスとアイズウイングによる熱線を同時発射する。
それに合わせて魔導兵も所持している武装からの一斉射撃を行い、放たれた攻撃が大技を放って隙が生まれた悪魔竜騎兵に向かって行き、命中する。
「へぇ……」
命中したのは俺も判断できた……だが、悪魔竜騎兵は攻撃を受けても平気とばかりに防御態勢で受け止め切っていた。
く……こっちのできる限りの武装でも大してダメージが入らないのか……なんて戦闘能力をしていやがる。
これが異世界の戦士の力を最大限所持した竜騎兵、バルトの引き出せる限界か。
こっちも張り合うほどの性能を引き出すにはバルトにユニゾンモードで俺から更なる力を大きく引き出さないといけない……のか。
「バルト……分かっているな? このままだと速攻で仕留められるぞ」
操縦者の提案を正しい判断と認識……であるが、受け入れがたいと判断。
本当、こういう時、ロボットとかだと冷酷な判断をするんだけどバルトはその辺りファジーというか人間らしいな。
逆に俺の方がここら辺は冷静になってしまっているような気がする。
脳裏にクラスのみんなの顔と、研究所で見つかった末路……藤平の最後が浮かんでくる。
ここで無駄に力を消耗してはいけないと思うが……。
「バウ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおお!」
なんてわずかにバルトとやり取りをしていると大技を放って再度立ち上がろうとするライラ教官の背後から二つの影が先に行動を始めていた。
ブルが……飛野を腰を抱えるように掴んで力強く、いやすでに短い時間で力をためていたのだろう。
貯めた力を解き放って飛野を悪魔竜騎兵目掛けて全力で投げつけていた。
飛野もブルに合わせて叫びながらナンバースキルらしき力を発露させて全身に刺青が走る。





