百二十三話
「このまま行って良いのか?」
飛野が警戒しながら聞いてきたが……現状を判断するに進む以外の道は無いだろう。
空からは丸見えで迎撃されるので手段は無く、このエレベーターで進む以外の道は無い。
まあ……破れかぶれで飛空挺で突撃とかの作戦もありそうだけど……すでに連合軍だってその辺りは行っていても不思議じゃない。
現に……庭の一部が崩落しており、残骸らしきものが散見する。
「どうせここを通らないといけないなら行くしかないだろ」
「……そうだな」
「じゃあみんな、十分に注意してついてきてくれ」
ライラ教官と魔獣兵を操縦する俺が先頭を進み、大型エレベーターに乗り込んで、特に危険は無いことを確認してから改めてみんなを招いて乗り込み、エレベーターを起動させた。
ウイイイイン……という音と共に直通エレベーターが俺達を乗せて上空の建造物の中へと運んでいく。
見晴らしはとてもよく……こんな状況でなかったらさぞ感動を覚える事だろう。
ヒュー……ンと建造物内に入ったエレベーターだが、入った直後の階層で止まることなくそのまま昇っていく。
こう……言ってはなんだけどゲーム風で言うなら何処かで止まるなり敵の罠とかで戦闘がありそうなのにエレベーターがそのまま進んでいく。
「……」
不審な雰囲気があるのはライラ教官やみんなもわかっているのでいつでも何かしらの罠があることを警戒して周囲に意識を向けていた。
バルトや魔導兵のセンサーも最大出力で危機を検知しようとしていたのだけど……。
「妙に静かだな……件の武器を無数に持った連中が待ち構えているのか?」
あり得る話だ。一網打尽を狙って構えていても何の不思議でもない。
正直、壁越しにだってこっちを切断できるような化け物兵器なんだ。こっちの視覚外からぶっ放してくる可能性はあり得る。
……いや、ちょっと待て。
「教官! あれ!」
透明なエレベーター内で見える階層を俺は指さす。
そこには無数の人間の亡骸が無造作に倒れていた。
『生体反応無し』
バルトや魔導兵のセンサーで生死を確認した所、すでに絶命しているのがわかる。
もちろん……無造作に引きちぎられている亡骸など、数えたらキリがない物も確認できた。
「これは一体……」
が、無情にもエレベーターは止まることなく上昇を続けている。
「どこかでエレベーターを壊して途中の階で降りますか? 教官」
「ふむ……このまま悠長に罠が来るのを待つよりはいいかもしれんな」
ライラ教官が俺の提案に頷いたその時。
「随分と警戒しているもんだ。そんなことをしなくても罠なんて用意してない。本当、この世界の連中ってのはつまらない奴らばかりだ。誰もかれも……こんな事まで言わなきゃいけないなんて面倒極まりない」
「この声は……!」
あのローブの奴の声であるのは間違いない。
「罠だって思われないようにゆっくりと動かしていたから逆に警戒されたようだ。速度を速めるからこっちに来てくれないか?
そちらの目的はこっちの殲滅だろう?」
エレベーターの上昇速度が上がる!
そのまま建造物を通過して頂上まで昇りきってしまった!
「やあ? これで何も罠が無い事くらいはわかってもらえたんじゃない?」
声の方を見るとそこには魔獣兵よりも高く続く階段があり、その先の玉座のような椅子にローブを羽織った奴が足を組んで座っていた。
「随分と素直に謁見させてくれたもんだな」
「……」
ライラ教官の皮肉をローブを羽織った奴は無視して俺と飛野の方を向く。
「正直に言う所は言うとしようか……世界征服とやらを実験的にやってみたが想像よりも面倒でつまらない挙句、煩わしいのがわかった。対戦相手が弱いってのも然ることながら一番の敵は足を引っ張る無能な味方だっていう話も存外間違っていないもんだ」
足を引っ張る無能な味方と言うワードにトーラビッヒや藤平の姿が脳裏に浮かぶ。
あいつらが味方だった事なんて最初から無かったような気がしなくもないけど、味方とカウントしなきゃいけなかった点からしてそこまで違いは無いだろう。
「つまり先ほどの死体の数々は……」
「ああ、無能な連中を処理したんだ。もう不要だからな」
処理って……そもそもこんな建築物を作るのは元より、傘下に入った連中はどこから確保していたんだったか?
確かライラ教官やセレナ様の話だと様々な国々の権力を持つ者たちが次々と行方を晦ましているとかの話があったんだったか。
利用されているって訳じゃなく情報をリークしたり物資を提供したりとか……。
「完成した武器を授けて試験運用させてみたら力に振り回されて性能を十分に発揮できずに惨敗……呆れを通り越して殺意しかわかないもんだ。力の持ち主に似るって事なのだろうかとね。こんな奴らを利用して世界を征服するとなると無理としか言いようがないだろ?」
俺と飛野に尋ねるようにローブを羽織った奴は言い放った。
「で、今度はそっちの連合軍も歯ごたえのある連中かと思ったけど、大した攻撃もできず足踏みときたもんだ。想像以下の泥仕合をしてるんだ。君たち異世界の戦士はどう感じるか教えてほしい」
何を勝手な……とは思うが、トーラビッヒに迷惑を多大に被せられたり尻拭いをさせられた事なんかを思い出すと相手の言い分もわからなくもない所がある。
だが……まるで自身が高みにいるかのような態度はどうなんだ? 似たり寄ったりにしか感じられないぞ。
「まるで自分なら使いこなせるかのような言い回しだな」
ライラ教官が怒気の籠った声でローブを羽織った奴に言う。
するとローブを羽織った人物は両手を軽く上げてあざ笑うかのような声音で答えた。
「……これが神という存在が人間を蔑む気持ちという奴なんだってのは十分に理解できたがな。ただ、今はトツカとヒノに聞いているんだ。答えろ」
「貴様!」
「ライラ教官」
俺はライラ教官を呼び止めて相手の話に合わせる。
正直、話をする必要性は無いと思うけれどいろいろとここで聞かなきゃ何もわからないって事もありそうだ。
「お前の部下が無能だっただけじゃないのか? まあ、俺は無能な上司にいろいろと振り回されて困った経験はあるが、今は有能な上司や同僚、仲間に囲まれて悪い気はしてない。で、今回の騒動に関してだがお前が勝手に呆れて味方を全滅させたって点でいえば十分なんじゃないか?」
若干答えが長くなってしまったような気がするが俺の本音であり、相手への挑発には十分だろう。
「俺はみんなに守られてきたんでね。他者を無能だと嘲ったりする気持ちは理解できないな」
おお……飛野はそうだよな。そういう意味じゃちょっと羨ましい異世界生活を送っていたんだ。
ただ、交代してくれとは俺は思わない。
だって、兵役に就いたからこそ素晴らしい人々と出会いがあったんだから。
「なるほど……随分と頼りになる仲間だと言いたいわけだ。異世界の戦士とやらも所詮は奴らと同じという事か」
「どうとでも言え、今度はこっちの番だ。いろいろと問い詰めたい事が山ほどある訳だが、すべての元凶はお前って事で良いんだな?」
「異世界の戦士を利用して神獣の力を集めたという事ならばそうだな。利用させてもらった。ついでにいろいろと実験と研究もできてわかったこともある」
俺達を巻き込んだことに微塵も罪悪感を持ってないんだなこいつ。
「そりゃあ大層迷惑な事に巻き込んでくれたもんだ。で、お前の目的は何な訳? 世界征服って訳でもなく人類皆殺しが目的って事で良いのか?」
「ああ、あのメッセージはしっかりと聞いたか。その通り、古き神と同じくこっちはお前らを駆逐することが望みだ。この遊びもその過程の余興にすぎない」
ああそう……どうせ等しく滅ぼすからってなんか口上は大層なように見えるが……。
「余興だと! ふざけるな! お前のせいでクラスの皆は元よりこの世界の人々も無数に命を散らしたんだぞ!」
「飛野、こいつにはそんなことを言っても無駄だ。なんとも思ってないのはわかってるだろ」
ここで正義を突き付けたって、こいつは元から俺達を含めたこの世界の人類を皆殺しにすることを目的にしているんだ。





