百二十二話
「……」
「それに……俺に語りかけてくる声も、次は利用されない様に何かするみたいですし……次に異世界の戦士が来る事があるかは分かりませんが同様の出来事は無いでしょう」
「異世界の戦士達に力を授ける存在は……貴様の話だと善意で授けているのだったな」
「あくまで俺が聞こえた範囲では……ですけどね。死なない様に過去の英雄への礼とか言ってましたね。後は何かしらの楽しみ……さっき俺に菓子作りをしろと干渉してましたよ」
アハハと苦笑いをするとライラ教官は俺を見てため息を漏らす。
「出来れば害の無い相手であってほしいが……いずれそいつ等にも報いを受けさせねばな。魔王やその断片であるなら私はやらねばならん」
「そこはどうなんでしょうね」
もっと声が明確に聞こえたら聞いてみるとしましょうかね。
「異世界の戦士の力が関わると私は常に出遅れている。私が先に出んで何を示せると言うのか」
だからこそ、ライラ教官はがんばりたいのだろう。
残された俺や飛野、この世界の人々の為にも今回の事件をしっかりと終わらせたい。
それは俺だって同じだ。
「俺がここに無事にいるのは教官が居たからです。貴方が俺に正しく戦う術を教えてくれたから、ここにいるんです。そして教官も戦う術を手にした。鬼に金棒ですよ」
「誰が鬼だと言うのだ貴様!」
うわ! ライラ教官怒った!
鬼軍曹って程じゃないけど結構訓練厳しかっただろうに。
ここで引くわけにはいかん。
「それくらい今の教官に異世界の戦士の武器は頼もしいって事です。節約とか大事でしょうけどそれよりもまずは任務を成し遂げる事が大事なんじゃないですか?」
「む……」
「がんばって行きましょうよ教官。俺やブルはあなた仕込みの武術でトーラビッヒにも藤平にも勝って来た。操縦はバルトに教わって……ここまで来たんです」
そう、俺がここに立っていてみんなと一緒にいるのは皆が俺を助けてくれたから。
だからこそ、みんなの善意に俺も応えたい。
「ギャウ!」
「ああ……そうだな。では訓練をもっと増やし、作戦を絶対に成功させるぞ!」
「はい! みんなを呼んで来ます! 徹底的に俺達をしごいて下さい! 教官!」
「良い返答だ! 今度の指導は厳しいぞ! ついてこれるか!」
「イエッサー!」
「よし! では戦士達を連れてこい! 特訓開始だ!」
なんかブルと訓練してる時の様な脳汁が出てくるのを感じる。
普段はツッコミを入れるライラ教官もここではツッコミを入れない。
そんな訳でライラ教官を励ますと同時に励まされた俺達は作戦決行までの間、みっちりといろんな状況を想定した訓練をしたのだった。
いやー……スタミナ回復力向上なかったら戦う前から倒れてたって位、密度の高い訓練をさせられちゃったぜ。
飛野なんて途中でダウンして最寄りのターミナルまで行ってスキルを習得しに行った位だ。
ブルとルリーゼさんはその辺り地味に体力あるかな?
最後まで付いてきてたのはブルと俺だけだったけどさ。
ともかく、短い間だったけど十分に想定された訓練は行ったしライラ教官に異世界の戦士の武器と言う鬼に金棒があるんだ。
これだけの精鋭がそろって出来ない事は無い!
かなり脳筋になってきた気がするけれど……道中の不安は訓練で消し飛ばせた。
後は成る様になる! やってやれない事は無い!
そして作戦開始前日は英気を養う為に俺達は各々ゆっくりと休んで決戦に備えたのだった。
作戦開始をして数時間……俺達は秘密の通路……フィールド型のダンジョンを経由して城内へ侵入をしていた。
ダンジョンの出口には専用のカギが無いと開かない竜騎兵でも破壊できない大型の扉があったのは驚いた。
どうやらその扉はものすごく昔からある遺物なんだとか。
「……敵はもういないようだな」
「え、ええ……」
道中で敵の息の掛かった奴らと何度か交戦したのだが、異世界の戦士の武器を所持したライラ教官の前に奴らは手も足も出ずに倒された。
鬼に金棒だとは思っていたけど本当だったなぁ……。
まあ、それでも数がいる時は俺やフィリンの操縦する魔獣兵と魔導兵が対処、補佐に飛野とブル、ルリーゼ様が協力してくれて戦闘は問題なく片付いた。盤石の布陣だ。
驚くくらい作戦は順調だ。
で、ライラ教官が本日何度目かの敵を倒していった訳だ。
ちなみに異世界の戦士の武器を持った敵とも何度か交戦したのだけど、倒すと同時に謎のエネルギー状になってどこかへ一直線に飛んで行ってしまい、武器を奪還することができなかった。
奪われ無いようにする技術まで用意しているとか用意周到も良い所としか言いようがない。
「しかし……随分と警備が雑なものだな」
「そうですね……それでルリーゼ様、敵は一体どこに?」
「この先の城の庭に出たところから行ける城の上空に作られた建物です。あそこです」
庭に出た所で見上げると城の庭から延びる円形のエレベーターみたいな装置で城のすぐ上に島のような物が設置されている。
「フィリンの家の城って随分と個性的な外観をしてるんだね」
SFの世界にある建物みたいだ。
「あんなのありませんよ! お城までです!」
ああ、そうなんだ?
さすがにそこまで個性的な外観はしてなかったのね?
「城が占拠されると同時にあの島が城の真上に現れたのです」
「本拠地があそこなのはわかるけど……飛空挺や竜騎兵じゃいけないの?」
「はい。どうやら真下にあるこの直通路以外での侵入は許さない構造のようでして……下手に近づくと迎撃されてしまいます」
なんとも厄介な……それだけ守りは固いって事なんだろうけどさ。
という所でルリーゼ様が行き先とは異なる道に顔を向ける。
「私と仲間たちは捕らえられた王族や他の方々の救出に向かいます。トツカ様達、ライラ様は敵の本拠地へと先に向かってください。後で私も追いかけます」
「ルリーゼ様」
ライラ教官が心配そうに声を掛ける。
「心配しなくても大丈夫ですわ。ブルトクレス様なら近くにいる私に何かあったら察することができますし、私も把握することができます」
わー……ブルの事がわかるんだ。良いなー……遠くても心は一つとか羨ましい。
ブルがどこにいてもわかる技能って俺も欲しい。
いや、把握できる範囲があるのか? じゃなきゃブルの危機にどこでもわかるようになってしまうし。
短距離なんだろう。
「ブヒャア!?」
ブルがなぜか奇妙な声を上げている。
なんだ!? 何か妙な殺気でも漂っているのか?
「トツカ……貴様妙なことを考えているな?」
「こんな時でもユキカズさんは……はぁ」
「まあ、兎束の事は置いておいて、救出作戦も行わないといけない訳だしな。お姫様、お願いできますか?」
「ええ」
「こちらも戦力を出すとしよう。アサモルト」
「はいはい。まあこっちは奇襲が得意なんでね。正面戦闘よりも後から応援に行くのが良いってわけだねぇ……」
アサモルトがルリーゼ様の補佐にか……王族の救出もしなくちゃいけないけど……大丈夫だろうか?
あ、でもルリーゼ様って潜伏が得意らしいし、アサモルトも魔法で霧とか出して隠れたりもできるから救出部隊向けか。
で、こっちは出来る限り相手の注意を引いていくしかないか。
……総力戦になりそうだな。
「では二手に分かれていくぞ!」
「はい!」
「ブー!」
という訳でルリーゼ様は王族の救出へと向かい。俺達は敵の本陣へと乗り込むために城の庭にある直通エレベーターに近づく。
魔獣兵でも乗れる大型の装置……なのか? 端末がある。
「これを押せばいいのか?」
と、思ったところで直通エレベーターの扉が開いた。
「……あっちはこちらをすでに把握済みって事で良さそうだ」
「そのようだな……随分と舐めた真似をしてくれる」





