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十二話


「なるほど。楽しみにしてみます」

「とは言っても目の前の仕事を優先すべきなのは確かだ。派遣先によっちゃどうなるか分からんしな」


 将来への不安かー……なんとも嫌な話が転がってくるもんだ。


「つーか、お前は運が悪いんだから気を付けろよ。訓練校の上官や先輩みたいに優しい奴ばかりじゃないんだからな」


 これで優しいとかどんだけ厳しい荒波があるのか不安に思えますね、と言いたくなったのをぐっと堪える。

 結構理不尽な命令をされましたよ? 校庭十周を毎晩してましたし。

 お陰でスタミナは付きましたけど。


 日本だったらそんなにスタミナ付いてないと思う。

 異世界万歳。

 そういえばスキルで成長力向上とかはなかったんだよなー……あったら最優先で取ってる。

 っと考えが脱線した。


「運が悪いとは?」

「だって相棒があの出戻りのブルトクレスだろ? 不運なんてもんじゃねだろ」

「ブルがですか?」


 少なくともここ二カ月だけの付き合いだが何か問題があるようには見えない。

 精々……どうもオークって人種は差別対象だって程度で、本人は何を言ってるか分からないけど、こっちの話は聞いてくれるし問題になった事は無い。


「まあ、お前が知らないのも無理はねえか。アイツはな、色々とあってまた新兵からやり直しされてるんだよ」

「色々、ですか」

「確か……犯罪をして罰せられたんだったか。一度問題を起こして除隊されてる」

「よく入隊許可が下りましたね」


 ブルが犯罪ねぇ……けど逆に凄くないか?

 そういうのも含めて訳ありとかだろうか。


「そうなんだよな。それこそどういう経緯か分からねえけど、訓練兵からならって特例で許可が下りたらしい。俺達も驚きだ」

「なるほど」

「まあ、アイツは体力はあるし、そこそこLvもあるしな。戦いだけなら頼りになるが気を付けろよ。汚れたオークなんだからよ」


 別にブル自体の様子を見て問題を起こしそうには見えないけど……まあ、仮に兵役をやめたって異世界の戦士枠が残ってるだろうから、気軽にいけばいいよね。




 って感じで気楽に構えていると、翌日……訓練兵から階級が上がって新兵は揃って色々と研修先を言い渡されていたんだけど……ついに俺達の番になった。

 ブルと一緒にいつでも出発の準備ができます、と敬礼して上官が言い渡すのを待っている。


「お前等は――」


 で、手元の資料を見ながら俺の隣のタッグが行く先を聞いていた。

 そして俺達の番になり、上官とその補佐である先輩兵が見て眉を寄せた。


「トーラビッヒ=セナイールの所か……」


 その名前に周りで叱咤激励をしていた先輩兵士達もこっちに顔を向けた。

 なんか微妙に静かになったんですが……。

 割と厳しい口調や態度をして俺達に理不尽な命令を出す上官が、目に見えて分かるほど、哀れな者を見る目で俺達を見る。


「エミロヴィアへ研修だ……しっかりと研修をしていくように。お前等が正しく仕事ができる事を切に願っている」


 普段業務的な事しか言わない上官が、多めの励ましを言っている。

 やば……なんか嫌な予感がしてきた。


「ブー」


 そんな不吉な気配の中でブルの鳴き声が妙に俺の耳に印象的に聞こえたのだった。

 先輩達の話ではトーラビッヒってのは悪い意味で有名な人物なんだそうだ。

 それ以上は噂の域を出ない。

 学校で、アイツ嫌われ者だよっていうくらいの話しか聞かない程度だ。

 あくまで噂である事を祈るほかないな。




 で、俺達の派遣先なんだが……乗り合いの馬車で二日ほどかかる。

 しかもなんかショートカットの道を使ったらしい。

 地図上だとかなり移動したぞ。

 新兵を乗せた大型の馬車にどんどこ揺られ、馬車は俺達が降りる街を通っていく。


 道中は……まあ、特に苦になる出来事は無かったかな。

 一応ルートさえ間違えなければ危険な魔物はいないそうだ。

 まあ、暇と言えば暇だったが……で、エミロヴィアって街に到着したので馬車を降りる。

 馬車は俺達を降ろしてパカパカと行ってしまった。

 そこで降りた人に目を向ける。


「あ」


 俺とブル以外に研修で出された……女子新兵が判明って感じだ。

 するとそこには俺達とよく合同で訓練していた女子新兵がいた。

 見知った相手だからか若干顔が明るい。

 もう一人女子がいるかと思ったが……いないみたいだ。


「同じ勤務地だったんですね」

「そうだね。これからしばらくは一緒に仕事になるのかな?」

「ブー」

「たぶんそうだと思います。そういえば……」

「ん?」


 女の子は手を服で拭いてから前に出した。

 握手かな?

 俺も手を前に出すと握手をしてくれた。

 ブルの方にも手を出して握手をする。

 ちょっと好印象。ブルを嫌ったりしないのは良いね。


「自己紹介がまだでしたね。私の名前はフィリン=ロイリズと言います。階級は新兵です」

「兎束雪一……雪一が名前です。同様に階級は新兵です。こっちはブルトクレス」

「ブー」

「ユキカズさん。名前からすると異国の方でしょうか?」

「ま、まあそんな所だね」


 兵士の中でも俺の名前を聞くと大体そんな問いをしてくる。

 とは言ってもそれ以上は踏み込んでこないけどね。

 国の教育として来るものは拒まずの精神をしているらしい。

 まあ、訓練校を見ると人種の坩堝だし、一々気にしてたらしょうがないんだろうね。


「合同訓練の際や色々と差し入れなど色々とありがとうございました」

「それは会うごとに聞いてるから気にしなくて良いよ」

「ふふ……そうでしたね」


 見知った相手と一緒の新兵研修……出発前は不安だったけどどうにか乗り越えられそうだなー。


 ……なんて気楽に居られたのはその日までだった。

 「地獄の兵役」の幕が上がったのをこの時の俺達は理解していなかった。




 まず俺達が向かったのはエミロヴィアって街の冒険者ギルド。

 ぶっちゃけ冒険者ギルドじゃなくて兵士の詰め所なんじゃないかと思うけど、名称がそうなんだから気にしない。


 そこで訓練校仕込みの敬礼をしながら着任の報告を行う。

 なんかここの冒険者ギルド……城下町の冒険者ギルドに比べて輪をかけて汚らしい。

 と言うか冒険者を含めて人相が凄く悪い。

 ゴロツキのたまり場と言った方が正しいかもしれない。


「ああ、来たか。早速だが荷物を部屋に置いたら仕事をしてもらおう」


 ガラの悪そうな兵士が俺達にいきなりそうぶちかました。

 で、鍵を渡されてギルドが設置した寮へと案内される。


 凄くボロっちい。

 訓練校もそこそこボロかったけどその比じゃない。

 廃墟って言えるくらいだ。

 おんぼろ屋敷で幽霊とか出そう。


「じゃあ私も荷物を置いてきますね」

「うん」


 フィリンとは当然だけど別室だ。

 先輩兵士から聞いた話だと基本的に二人部屋だとか聞いた。

 実際はどうなんだろう?

 期待に胸を躍らせて……はいないけど部屋の扉を開ける。


 ギイ……っと音を立てて扉は開き……ボロボロで今にも壊れそうなベッドと窓、一つの机しかない滅茶苦茶狭い部屋がそこにあった。

 え? ちょっと狭過ぎないか?

 ワンルームって次元じゃない。用具入れってくらい狭いぞ。

 ベッド一つでどうしろと?

 畳二枚分くらいしかないぞ、この部屋。


「ブ」

「ああ、うん」


 荷物をベッドに置いてから直ぐに仕事のために出る。

 フィリンとは途中で合流してギルドにとんぼ返り。

 で、ギルドの重役のいる部屋っぽい所に連れていかれる。


「ただいま新兵が到着しました!」

「入れ」


 ガチャリと音を立てて部屋に入る。

 椅子に腰かけた上司だろうと思わしき人物が舐め切った目で俺達を見つめる。


 こう……そうとしか表現できない気色の悪い目だ。

 顔は……こう、小柄なフック船長とでも言いたくなるような顔つき。

 年齢は……幾つくらいだ?

 30代後半? それくらいに思える。


 で、フィリンの方を見て舌舐めずりをしたような気がする。

 鳥肌立ててるぞ。

 そうして自己紹介をする。


「この度派遣された新兵の兎束雪一です!」

「ブー!」

「お言葉が分からないでしょうから代弁します。同様の新兵であるブルトクレスです」


 ブルの自己紹介は俺が代弁。


「こ、この度、派遣された新兵のフィリン=ロイリズです」


 フィリンも敬礼して相手の自己紹介を待つ。


「お前ら新兵の話は来ている。私がお前達の直属の上司となるトーラビッヒ=セナイールだ」


 で、上司であるトーラビッヒは自分に酔ったような態度で立ち上がって俺達に近寄り、ゆっくりとした歩調で全身のチェックをする。


「ここに埃が付いているぞ。腕立て30分! やれ! ああ、女はしなくて良い」


 は?

 部屋じゃなくて人に?

 人に埃が付いていてどうしたって言うんだ。

 というか、埃なんか無いように見えるんだが……。

 まあ、理不尽な命令として訓練校でもやらされたけどさ。


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