百十九話
「異世界の戦士にも何らかの弱点とか苦手な鉱石とかあれば良いんだけどなぁ……」
竜騎兵や魔導兵みたいな燃料とか大きさとか対処する材料があればな。
「申し訳ありません。生憎と調査範囲でそれらしい物は見つかっておらず……」
まあ、その理屈だと俺や飛野も同じような弱点を持つ事になっちゃうしそう都合よく弱点なんか無いか。
いや……敢えて言うなら
「承知しました。異世界の戦士兼レラリア国所属、兎束伍長、各国の皆様の提案する作戦を一命を賭してでも完遂する所存です」
ここは兵士として異世界の戦士として立派に任務に応えてみようじゃないか。
そもそも侵入自体は難しくないだろう。
あの声の主は俺や飛野を相手に遊びたがっているのは分かりきった事だ。
正面から行っても入れるかもしれないんだしな。
「随分と決断が早いのですね」
「これまでの道中で覚悟はありましたから……」
「そうですか……ですが、無駄に命を散らす事など無き様、お願い申し上げます」
ルリーゼ様はそう俺の手を握って願うように発言した。
「は、はい」
うわ……なんか恥ずかしいな。
腹違いのブルの妹さんだし凄い美人だもんな……。
「コホン……ユキカズさん?」
フィリンが咳をしてなんか声を掛けてきた。
「ど、どうしたのフィリン?」
「ブー」
ブルがやれやれって感じで両手を上げてるけどなんだよ?
公的に言えないけどブルの妹さんなんだぞ!
しょうがない。ブル! ここでアピールするぞ。
「ではこの兎束雪一伍長は相棒のブルトクレスと共に王女様の頼みに応える所存です!」
ルリーゼ様から手を離してブルの背後に回り、ブルを抱えるようにして言い放つ!
どうですか? 俺の相棒をみんな見てくれ!
「ブヒィイイ!?」
ブルの方は注目されて声をあげている。
「巻き込みましたね……」
「兎束……お前何にも分かってねえよ……」
なんだ? 何がおかしい!
俺の頼れる相棒だぞ!
「はぁ……嘆かわしい」
ライラ教官が頭に手を当てているけど何がいけないって言うんだよ!
ここで活躍すればブルの立場は遥かに向上するじゃないか!
「ふふ……フィリンも大変ね」
「ですよね」
ルリーゼ様は何故かセレナ様と一緒に微笑みあっている。
「ああもうルリーゼ姉様もセレナ様も……」
フィリンの方はフィリンの方で苦虫を噛み潰した様な顔をしているし……そうか! フィリンも仲間外れにされて嫌なんだな!
「当然フィリンも頼れる相棒ですよ!」
ここで前線から引くなんて事をフィリンは絶対にしないのは分かっているから引かせる様な事は言わない。
前線でも出来る限り守ろうとは思うけどね。
「取ってつけた様に言わないでください。みじめになりますから!」
「ははは、これくらいの方が作戦も上手く行くかもしれん」
なんか王様達が苦笑しつつ前向きに会議の方針は決まって行った。
で……一旦ライラ教官が提出した奪取した武器は、此度の作戦で、俺と飛野をサポートするチームリーダーのライラ教官に正式に預けられる事になった。
仰々しい形で王様とセレナ様の手へと渡った武器をライラ教官が授かっている。
騎士的な儀式って感じだったなぁ。
ライラ教官は膝をついて、武器を授かっていたし。
こうして俺達は作戦決行の為に作戦受領を終え、世界征服に乗り出した敵の殲滅へと向かう。
会議室での会議を終えて出発だ。
なんとも忙しいけれど、時は一刻を争う。
最終決戦は近い……ってね。
そんな訳で飛空挺へと乗り込もうとしている所だ。城の発着場は何時になく慌ただしい。
戦争とかあるのかなと異世界に来た当初思ったけどまさか現実になるなんてな……。
出来ればこんな争いじゃ無くもっと明確な魔物とか魔王との戦いをしてほしかったよ。
……いや、今回の敵もある意味魔王なのか?
俺達の力を利用した奴だけど。
「私は王と共に陽動の作戦担当となりましたわ。ライラ、しっかりとトツカ様達を支えて下さいね」
「はい。レラリア国の騎士として何があろうと作戦を成功させて見せます!」
おおう……ライラ教官がいつにも増して真面目な敬礼をしてる。
引き締まるね。
「私もトツカ様達の部隊を道案内するので同行します。以後よろしくお願いしますわね」
ってルリーゼ様がドレスを脱ぎ、動きやすそうな兵士服になった。
下に着てたのか……あ、ブルと同じ尻尾が生えてる。
比べると間違いなく血を感じる。
父親はかなり酷いらしいけど……能力はあるのかな?
「ルリーゼ様も、その、変身とか出来るんですか?」
「変身……ああ、ブルトクレスお兄様の様な? セレナから聞いているわ。何時でも出来るようになったって話ですわね」
「ブ……」
ルリーゼ様に聞かれてブルも困った様子で頷く。
「私の場合は出来ませんわね。ただ、月夜は神経が鋭敏になりますわ」
「そうなんですか」
なんかブルの異母兄弟ってみんな同じ能力を持ってるのかなって思っていたけど違うのか。
「もしかしたらLvを大きく上げたら出来るようになるかもしれませんけどね。後は血の繋がった者達と力を合わせるのは得意……でしょうか」
「それってどういう?」
「なんとなく兄弟がどう動くのか分かって動けるの。集団行動って奴よ。ブルトクレスお兄様も含めて兄弟姉妹で集まった時とか明確に意識出来るのよ」
フフっとルリーゼ様は笑ってる。
狼の集団連携みたいな感じなのかな?
どんな兄弟姉妹がいるのか良くわからないけどもっと会いたいな。
「是非ともブルの弟や妹達と会いたいですね。この戦いが終わったら会いに行きたいな」
「トツカ様なら出来ますよ。その時は改めてよろしくお願いしますね」
「ええ」
「ブ……」
ブルが何故か渋い顔……なんか俺がやらかすと思ってるだろそれ。
なんて感じで俺達はルリーゼ様を連れて飛空挺に乗り込み、一路決戦の地へと向かって行ったのだった。
その道中……ペンケミストルの作戦ポイントまでは飛空挺でも数日以上かかる。
『菓子を作れ……菓子を作れ……』
そんな船内での事……飛空挺の厨房で俺は息抜きに菓子を披露していた。
「お? 今日はケーキか? なんか変わったケーキだな」
「ああ……なんか教わった菓子作りと技能を総合したら頭に浮かんできた」
今日作ったのは三層構造の上はふんわりスポンジ生地、中間はカスタード、下層はしっとりと言う一度で焼いたのに出来あがるケーキだ。
あんまり混ぜずに焼いたら何か出来る気がして作ったけど……まあコレも悪くないんじゃないかと思える。
冷まさないといけないけど、そこは魔法で素早く冷やした。便利だね魔法って。
俺の魔法は攻撃に使うにはまだ心もとないけど、料理をする分には困っていない。
とりあえず飛空挺内の料理をしてくれているラスティの執事であるハナ……いや、彼の名誉の為に名前は思い出さない様にしよう。
今度、あの執事さんの本名を聞く事にする。
執事も菓子作りに関しては俺に任せる形になっている。
気分転換に作る事が結構あるもんな。
前線基地にもあの菓子職人の弟子が居たし……本当何処にでも居て俺に何かを教えようとしてくるから厄介なもんだ。
「ブー」
ブルにケーキを切って与えるとパクパクと食べ始めてくれる。
「今日のケーキはどうだ?」
「ブー!」
美味しいとばかりにブルは笑顔を向けてくれる。
なんとも嬉しい事だ。
お菓子なんて女の食うモノだ! とか拒まないのがブルの良い所だね。
「ギャウギャウ!」
バルトも俺が差し出すと手で持って食べて美味しいと鳴く。
ふふ……ブルとバルトは癒しだね。
ここ最近の嫌な雰囲気とこれからの戦いの事を忘れさせてくれる。
この二名が俺にとっての清涼剤であり、アサモルトの様な不真面目な軍人が好む酒とかたばこの類みたいなもんだ。
菓子作りで誰かに喜んで貰えるってのは中々良いストレス発散になる。





