百十八話
「残されたのはトツカ殿とヒノ殿だけとの話……既に信用無き我がレラリア国が保護をしたいなどとは到底言える立場ではないが……それでも出来る限り、お二方の力になりたい」
「各国が俺達の身柄を求めたりは……」
「その声は多い。が……現状はペンケミストル国を占拠した者達にどう対処するかに意識が向いておる。近衛騎士のローレシアからの話ではトツカ殿達は前線へと向かいたいとの話じゃったな」
俺の問いに王様がまっすぐに見て答える。
「はい。敵は俺達を相手に勝負でもしたいといった様子の声でした。このまま隠れていてもあまり良い状況にはならないでしょう」
「ふむ……だからこそ、敢えて止めさせてほしい。危険じゃ。此度の問題はおそらくこちらの者達の非……戦って貰う事を願ったこちらの尻拭いをトツカ殿達にしてもらうのは間違いであろう」
異世界の戦士を辞退した時の話にも繋がるけど前々から王様は俺達の事はしっかりと考えてくれてはいるんだよな。
断っても良いって言った通り、その後の追求とかは全くせずこうして間違いだってしっかり言ってくれる。
「既にトツカ殿達が持ち込んだ異世界の戦士達の力を悪用した者たちへの対策法は戦地にて実践されて効果は出ている」
え!? はや!?
対応手段とか既に研究されてるのか!
「じゃあ押し返せたり相手の武器を更にとり返したり出来ているってことですか?」
俺の問いに王様は首を横に振る。
「所有者を撃破した所……武器は透明な実態無き魔物の姿に変わり、まるで所持者の元に戻るかのようにペンケミストルの城へと恐ろしい早さで消えて行ったと報告が来ている」
つまり……武器を振りかざしている奴を仕留めても武器は姿を変えて逃げて捕まえる事が出来ない……。
どんだけ便利機能を搭載してるんだよ。
「その機能をこちらが奪取した武器には……?」
「無いようじゃ……」
……うん。決まった。
アイツが俺達に渡したのは不良品って事なんだ。
その不良品の大元である俺に喧嘩を売るってどういう考えなんだよ。
見下してるだろ間違いなく。
「上手く戦えているんですよね? じゃあ前線はどうなっているんですか?」
飛野の問いに王様を含めて国の重鎮たちは揃って首を横に振る。
「相手も出方を変えて連携を取って行動しておる。竜騎兵や魔導兵による武器が発生させた防壁破壊後の多重攻撃も歯が立たず……」
部隊は全滅か……。
「挙句じゃ……日に日に奴等は武器を出す数を増やしておる。もはや16本の武器に収まっておらん」
うわ……燃料さえあればーって感じで無数に武器を量産して投入してるのか!?
「もはや一刻の猶予も無い状況じゃ。だからと言って残された異世界の戦士達を投入して良い理由にはならん」
「王様、貴方の考えは十分にこちらに伝わりました。ですが俺達も引けないんです。皆をあんな風にした奴等に俺達は……戦わないと満足出来ない」
飛野がここで王様にきっぱりと言い切る。
「……トツカ殿は我が国の兵役に就いた身であるが、此度の戦には参加を辞退しても良いんじゃぞ」
「いえ……俺や飛野だって一度はお言葉に甘えて辞退して、こうして命を繋いだ身、我が身可愛さに逃げ隠れをするのはもう限界なのです」
そう……最初の理由こそこの世界側の身勝手な召喚だったのは事実だ。
だが、その責任として使命を拒み、好きに生きる機会を与えてくれた。
どうやら国に巣食っていた連中が暗躍して俺や飛野が平穏に生きれる様にと願う王様達の意図とは異なる動きをさせようとしていたに過ぎない。
と、ここで王様と話をしていると会議室の大きな扉が開き、セレナ様と……銀色の長髪をなびかせた……セレナ様に匹敵する美人の犬耳っぽい耳を生やした少女がやってくる。
「ルリーゼ姉さん……」
俺達の後ろで敬礼しているフィリンがポツリとつぶやく。
確かフィリンをレラリア国の兵役に就けられるように色々と斡旋してくれた人格者な親戚だったっけ。
しかもブルとは異母妹の疑惑の掛っている人。
「トツカ様、ヒノ様、この度は誠に申し訳ありません。もっと私たちがしっかりと監視の目を張って居ればこの様な事態になる前にどうにか出来たかもしれない事態でしたのに……」
「いえ……それで敵の息のかかった者達に関して尻尾は完全に掴めたのですか?」
「はい……ただ、主犯格以外の者たちは口封じとばかりに殺されており、得られた情報も微々たる話ばかりです」
と、言った所でセレナ様の隣にいる銀色の犬耳美少女が一歩踏み出してドレスの裾を上げて会釈する。
「ペンケミストル国から亡命したルリーゼ=ハイン=ペンケミストルと申します。以後よろしくお願いします。異世界の戦士トツカ様とヒノ様」
「よ、よろしくお願いします」
「は、はい」
思わずこっちも会釈してしまったぞ。
セレナ様もそうだけど纏うオーラが果てしない。
アイドルに直接会うよりも凄い何かを感じるぞ。
ルリーゼ様はフィリンにも微笑み、ブルにも手を振っている。
「ブルトクレス様も相変わらず勇猛果敢なご様子で安心しますわ」
あ、やっぱ知人なんだね。ブルの事を知ってるって感じだ。
「ところで……亡命?」
「はい。現在ペンケミストルの城はかの者達に占拠され、城にいた王族の者たちは捕えられ、牢に幽閉されているとの状況です。私も命からがら数名の者達と逃げ出すのに精一杯でした」
おお……敵の猛攻から逃げ切ったとか逆に凄いな。
「あの……それで……」
「はい。現状では敵の所持する異世界の戦士由来の武器に因り各国の軍は大きく打撃を受けている段階、このままでは壊滅するのも時間の問題でしょう」
被害状況が会議室に広げた地図に書き込まれて行く。
同盟国のペンケミストルを中心に各国への被害状況が描かれていて……敵はフィールド型の迷宮等を駆使してペンケミストルから行ける各地に侵略という名の破壊工作をしているとの話で膨大な被害が出ているとの話だった。
何せ軽く武器を振るうだけで大抵の人間は一刀両断、攻撃は障壁で遮り無双状態だ。
一騎当千とはこの事だろう。
被害を受けた国が軍を出しても壊滅し……やむなく降伏をせざるを得ない。
しかも恐ろしい事に迷宮から一部の魔物まで引き連れるなんて芸当を行っているらしい。
その魔物達はペンケミストル国を占拠した者達の指示に従って行動しているとの話だ。
あ、資料が載ってる。
なんだ? 魔導兵みたいな魔物だな……マジックゴーレムとマジックホムンクルス……か。
これも異世界の戦士の力なのか……?
俺達がここに来るまでの間に聞いていた範囲よりもさらに拡大した被害状況に時は一刻を争うのを伝えてくれる。
「その為……トツカ様達が協力して下さる事を前提とした作戦があります」
「それはなんですか?」
俺の問いにルリーゼ様が手を上げる。
「敵の指揮系統と武器の力の統率はどうやら城から行われているのが調査で分かっています。つまり頭を叩けば相手も大いに混乱し、各国の処理もしやすいでしょう」
「理屈は分かりますが……それは願望の範囲では?」
「いえ、占拠されたペンケミストル側とてむざむざやられた訳ではありません。城への緊急時に出入り可能な秘密の入り口はいくつか存在するのです。そのルートを私たちは把握しております」
まあ、王族で優秀な姫様らしいしありえない話ではないか。
「各国は作戦決行時、戦力を総動員して陽動の激戦を行い相手の戦力をそぎ落とし、注意を惹きつけます」
「その間に城へ入る秘密のルートで俺達が内部に侵入、代表を殲滅して敵を抑え込めと……」
「はい。それで難しい場合は戦術的大規模爆破を行う予定ではありますが敵の力を考えると成功率は低いだろうと分析されています」
俺達が作戦失敗した場合、何やらヤバイ兵器を投入する予定の様だ。
こりゃあ想像通り責任重大な任務になるだろう。
ふと……ここで俺達が負けたり逃げたりした場合の事を再度考える。
世界征服みたいな作戦に乗り出した敵のする事だ……碌な未来が想像できない。
俺の元々いた世界だって力を持つ者の独裁が無かったわけでもない。
その果てにあるのは……。
……俺は兵役を受けた身。
こういう時に守りたい者を守るために戦わねばならぬ職業だ。





