百十七話
「申し訳ないのですが、そういった伝承まで俺は詳しくないのでついて行けてないです」
飛野が挙手して素直に言うとラスティが分かってるとばかりにため息をした。
「魔王と呼ばれる化け物の断片、ないしその力の大元……が異世界の戦士の力の大元だとラスティは答えを提示したのだ」
……確かに、ここまで強力な力を使い、その浸食を終えると異形の化け物になる点で考えるとありえない話では無い。
「後はそうね……異世界の戦士がこの武器に力を奪われずに浸蝕しきったら……実は迷宮に封じられている断片となって人々を脅かす存在になり果てる。なんて事もあるかもしれないわね」
「おい」
なんかどっかで聞いた様な設定だぞ。
力を振るうのには理由があるって感じで……嫌だな。
戦力が何処かで敵として寝返る展開とか……クラスメイト達の末路を見ると嘘だと思えないのが嫌らしい。
ブルの父親が何処かで生きている様にブル達が感じているのも既に父親は浸蝕しきり、化け物となって実は何処かで牙を研いでいる。
なんて事もありえるじゃないか。
「わかってるわよ。さすがにここは推測の域だし、広めちゃいけない事だから言っちゃダメよ」
「当然だ。そもそも異世界の戦士の逸話等にその様な与太話は無いであろうが」
「実際、異世界の戦士って記述自体もおとぎ話の域を出ないのよね。それこそトツカの聞こえる声に答えを聞いてみれば良いんじゃないの?」
「聞こえる時と聞こえない時があるから……わからない。ただ、無駄に命を縮めるなって注意とピンチの時には力を使う事を躊躇わない様にしろって声が聞こえただけで……」
「ふむ……悪しき存在である可能性はあるのに声自身は良くわからん助言をするんだな」
ライラ教官の意見はもっともだ。
もしも……これが異世界の戦士を媒体に魔王を作りだすなんて代物なのだとしたら理由が合致しない訳でもないが、何か引っかかる。
うーん……分からないか。
「ま、まあ俺達の末路……もしも俺か兎束のどちらかが武器を使わずに臨界を迎えて異形化して魔王となった場合は……残った方が息の根を止めて武器に力を入れて異形化するしか……無いよな」
ここに来て飛野の恐ろしい提案だ。
「あ……ああ。けどさ……この話は事が終わってからでこれ以上は良いんじゃないか?」
今俺達がしなくちゃいけないのはみんなの弔いだ。
ここで自分達の不幸を嘆いていたって先は無い。
そもそも使命から逃げた俺達だからこそ、ここで俺達の決断が正しいんだと証明しなくちゃいけないんだから。
「気になったのですけど……異世界の戦士達の力って各々異なるんですかね? この理屈だと竜騎兵と似た波形の飛野は竜騎兵への何らかの特典とか付きそうですけど」
「国の確かな者達の報告では、武器を使用しての戦闘に関してはほぼ差が無かったと言われている」
うーん……どうにもこの辺りの基準が分からないんだよな。
「ただ、あるかもしれないわね。蚊帳の外ってバルトとも直ぐに打ち解けたでしょ?」
「元々バルトは人見知りしませんよ」
「ギャウー」
「いや……兎束、貴様をいつまでも追いかける執念深さは人見知りから来る物だろう。分からんのか」
あ、そうか。
バルトもギクッとばかりに誇らしげにしていたのをやめて俺の背後に頭を隠す。
「藤平って共通の敵がいたから親しくなりやすかった、というのもありますよ」
「ふむ……」
「そこは調べればわかるでしょうけど、トツカの方は多少は分かるんじゃないかしら? エロ」
「その名で私を呼ぶな。トツカの異常性は無駄に目が良い事と魔物名を一目でわかる所だな」
確かに……言われてみれば俺が持っている他の人達とは異なる特徴はそこかもしれない。
「魔獣兵の武装に関しても最も性能を引き出しているのは魔眼よね」
「纏めると目に関わる事が多いですね。見て知る……みたいな感じで」
「ブー」
「そんな能力を持ってるのか兎束」
「飛野は迷宮内で技能無しで魔物名とか分からないのか?」
「ああ、技能無しじゃ分からなかったぞ」
ふむ……やっぱり俺の固有能力ってことで良さそうだ。
「だな。異世界の戦士は本来何かしら武器を使用する以外での特徴を持っていても不思議ではない」
飛野が竜騎兵関連に類似、竜騎兵との何かしらのシナジーがあるかもしれない。
俺は見る事や魔物の名前を一目でわかる事。
藤平はなんだったんだろうか? 性欲とかだったら冗談にしかならんな。
使っていたナンバースキルや外見の変化から考えて……怪力とか耐久力とかである可能性は高い。
滅茶苦茶タフだった。
「後は……お前達を収監するはずだった部屋のナンバーか、お前達のナンバースキルとやらと符合している」
「……ナンバー5」
「ナンバーL」
「ヒノは5号室、トツカのLはいくつか空き部屋がある様だが……貴様の名が候補にあったのは最後の部屋だったぞ」
L……ラストって意味でのLだったのか。
「俺に力を授けてくれているのは最後の魔王ですって感じですね。一体どんな逸話があるんでしょうか?」
「人類の文明を破壊した化け物の伝承回数を確認しても一個余計よね?」
……ラスティの言葉になんか嫌な確信みたいな物が聞こえた気がした。
つまり世界を滅ぼした化け物の中で滅ぼせていない化け物が俺を選んだみたいな感じ?
一体どういう意味なんだろうか。
「とりあえず現状わかったのはこれくらいね。何時までも悠長に事を構えて良い状況じゃないんでしょ?」
ラスティがライラ教官に尋ねる。
「ああ……調べるべき情報は出揃った。国の重鎮達に報告し今後の方針を尋ねるといった所だ。もちろん王やセレナ様もいるしやらねばならん事は分かっているから不穏な事は無いだろう」
「そうだと良いんですけどね」
「信用を落とし続けている自覚はある。だが付いてきてくれるか?」
「ええ、ライラ教官やセレナ様には助けられていますし騙そうとしてるってわけじゃないでしょ」
異世界の戦士の元へと行く俺の方は無駄足となってしまったがそれは全て後手に回ってしまっているからに過ぎない。
飛野の方は問題なく保護されていたのだからさ。
「どうやら敵は俺達を相手に戦いたいって様子だしやっていくしかないですよ。これでも断りはしましたが異世界の戦士ですから」
「ああ……こんな事を仕出かしてみんなをあんな風にした報いを絶対に受けさせなきゃいけない!」
飛野が熱く拳を握りしめて言い放つ。
俺の方が若干熱が足りない様な気もした。
「うむ……だが、貴様らを利用しようとする連中が何処にいるか分からない。無駄に力を使う事が無いように注意してくれ」
「はい!」
と、レラリア国流の敬礼をして俺達は……クラスの皆を置いて一路、セレナ様達に会いに移動をした。
城に到着した俺達は直ぐに城内の会議場へと案内され異世界の戦士達の経過報告とトーラビッヒの捕縛と武器の奪取、その分析結果を提出した。
会議に関しては長引くかと想像していたが国の重鎮達は皆話を終えていたのか難しい顔で提示された資料に目を通している。
みんな相手方の情報に難癖や疑問等をぶつける様子は無い。
いや……もしかしたらそういった事を言う者達はこの場には呼ばれていないのかもしれないぞ。
「フジダイラ殿の知らせから続く、国の為にと頼んだ戦士達の殆どがまさかこの様な事態になってしまっているとは……」
王様も難しい顔をしながら俺と飛野に申し訳なさそうな顔を向けた。





