百十六話
「ブル、落ち着けって……さすがにこの先の戦いは厳しい物になるんだぞ」
「ブ!」
「フィリンだって危険だぞ」
「ユキカズさん。こんな状況で私達が引くと思いますか? 引く様な臆病者が……貴方の脳内友達コレクションに名を連ねますか?」
冷静に、だけど静かな怒りの瞳でフィリンが俺に問う。
ああ……そうだよな。この二人はここで引く様な者たちじゃない。
もしも……この二人に何か危険が迫ったら俺は何があろうと守れる様にしたい。
その為の力で例え命を失う様な事になったとしても誇れる最後を迎えるように……。
「そもそも立場で言えば私も似たようなモノです。身分は偽ってますがペンケミストル国の末姫なんですから、どんな扱いをされるか……むしろ此度の騒動を鎮圧させないとどんな末路があるか分かりません。こう言えばユキカズさんは打算的だと納得してくれますか?」
あの手この手でフィリンは説得しようとしてくるなぁ。
魔導兵の操縦でもそうだけど絶対色々と実際の行動よりも考えてるでしょ。
「わかった。けど、絶対に死なないでくれよ」
「ブー!」
「当然です! 私達なら何処へだって行けます! ユキカズさん! カゲヨシさん! やりましょう!」
俺達は相手の占拠しているペンケミストル国へと戦いに挑む決意を更に固めたのだった。
そうして施設にいるクラスメイト達の成れの果てとの再会を終えた俺達にライラ教官を呼び寄せる。
飛空挺から出した機材の前でラスティと何か話をしているようだった。
「トツカ達か……お前達はこれからどうするか……顔を見れば分かるな」
「止めたって行きますからね」
「止めたりはしない。むしろこんな事態を招いた私達に非があるのだ。出来うる限りの手を尽くすのが筋ってものだろう。お前達の望む結果になるように協力は惜しまん」
おお……ここで止められる展開にはならないのか。
レラリア国が異世界の戦士に関して非人道的に利用しようとしていたってわけじゃないと思いたい。
「話が進んでいる所悪いんだけど、この武器に関してちょっと分かったから教えておこうかしら」
ラスティがライラ教官と今後の方針を話し終えた俺達に声を掛ける。
「何か分かったんですか?」
「基本的にこの手の技術はある程度、物があれば模造自体は出来るのよ。けど言いたい所はそこじゃないのは分かってるわね?」
「はい」
「仕組みとして異世界の戦士から力を吸って完成させる武器の様なのだけど、分かったのはこの武器に入っているエネルギーが誰のモノであるかって所ね」
「つまり武器それぞれに使われた者が特定出来るんですか?」
「そうよ」
おお……じゃあ、希望的な願いだけど武器を取り戻せたら皆を元に戻す事とか……出来るのだろうか?
「そこでこれね」
カシャンとラスティが何故か俺の手に武器を持たせる。
グッとなんか力が走って刀身が出現した訳だけど……ラスティの表情は晴れない。
「やっぱ元の器に戻すのは無理そうねー」
「そうか……出来れば良かったんだがな」
ラスティとライラ教官がため息交じりに言う。
え? それってどういう意味なんだ?
「つまり……この武器に宿っていた力はユキカズさんの力……だったんですか?」
「そうみたいね。異世界の戦士達の成れの果てから得られたデータとか全てを参照して適合したのがね」
「巡り巡ってトツカの元に戻って来たのなら返せるかと踏んだが無理とは……」
「お茶の葉っぱみたいな物なんでしょうよ。一度抽出したお茶を葉になんて戻せないってね」
なんか微妙に嫌な表現をしている様な気がするぞ……。
「後はそうねー女好き二世に似た波形も見つけたけど、心当たりあるかしら?」
「ブー?」
え? ブルに似た波形?
ラスティが教えてくれた資料はクラスメイトの成れの果てが記されている。
その資料の成れの果ては……何処となく犬っぽい四足姿と化した代物だった。
「なんでブルと……いや、もしかしたら……」
「ブー」
なんとなくだけどブルも悟りつつあるかのような表情をしている。
「もしかしてブルの父親って異世界の戦士……だったとかでしょうか?」
「ありえなくはないでしょうねー。そりゃ大活躍だったんじゃないの?」
「アサモルト、ブルトクレスの父親はどうなんだ?」
「ま、そうなんじゃないですかい? こっちだって全部知ってるってわけじゃねえさ」
怠け者のアザラシはヤレヤレと言った様子で離れた所で休んでいる。
俺達よりも前にいた異世界の戦士がブルの父親か。
ブルの弟や妹達がなんとなく生きている気がするって言うのも何か不思議な力が働いているのかもしれない。
俺達がクラスメイト達の末路を見てなんとなく仲間だった者だと分かるみたいに。
「ま、それにしたって随分と出力が出てないみたいだけどーむしろコレって荒々しい獣人達のデータとも似てるし言っちゃ悪いけど魔王の破片とかから得られる情報にも似てるわよ?」
「範囲広すぎないですか?」
もはやなんにでも合う情報でこじつけでもなんでも出来てしまうように聞こえる。
「こっちもそこまで専門家じゃないのよ。やるしかないからやってるだけね。で、こっちのデータの方が私には興味が湧くわねー」
ラスティが目を輝かせてなんか画面を見せてくる。
「え? これ……」
フィリンがそこで気付いたのか画面を凝視しているけど……なんだ?
「竜騎兵のデータですよね?」
「そう思うでしょ? 実は違うのよ。これはね。そこにいる蚊帳の外のデータみたいよ」
ってラスティが飛野を指差した。
……蚊帳の外ってもしかしてあだ名か?
「蚊帳の外さん、実験動物に立候補して名前を覚えて貰うのはどうかな? 既に俺は覚えて貰った」
「うーん……なんか嫌だけどこの先必要ならそれも良いのかなー……」
蚊帳の外……まあ、なんて言うか最近起こった出来事なんかを含めると飛野って確かに渦中にいる事は少ない。
幸運とも思える。
「そう言えば……バルトのユニゾンモードって何かに対抗するために疑似的に異世界の戦士の因子を植えつけた者が操縦する事を前提に作られているんでしたよね」
「失われた文明の話ね」
「ギャウ」
「そう言えば……バルトが自身をどんな存在なのかを教えてくれた時に声が聞こえた気がする……アレって」
「なんだ? どういう事だ貴様」
ライラ教官が俺に詰め寄って聞いて来た。
「いえ、本当に空耳なのかもしれませんし都合の良い思いこみの声なのかもしれないのですけど……」
俺はそれまでに聞いた空耳に関してみんなに話をした。
「異世界に来る時にそんな声を聞いた?」
「ああ、最初は薄ぼんやりとしか思い出せなくて最近それが如実に成ってきたんだけどさ……」
「異世界の戦士の因子の大元か……」
「俺は聞いた事が無いぞ?」
え? 飛野も耳にした事が無い?
もしかして俺の幻聴だったりするのか?
いや……さすがにアレは違うんじゃないかと思える。
「まあ、何が大元なのかってのは推測は出来てるけどねー」
ラスティが面倒そうに答える。
「何か知ってるんですか?」
「竜騎兵とは何のために作られた兵器だったのか、とね。失われた文明の記述とか色々と追っていくとその時代に脅威となった化け物……この時代で言う所の人類の生活圏を脅かした化け物に対抗して、過去に現れた化け物の細胞を元に作った、模して作ったなんて御伽噺があるのよ」
確かにあの幻聴も似たような事を言っていた気がする。
「で、蚊帳の外のデータはその竜騎兵のデータに良く似た波形をしてる……更にトツカから得られた情報から察するに異世界の戦士の力の源とは何なのかに答えがあるんじゃないかしら?」
「……まさか」
ライラ教官やフィリンが心当たりがあるかのように絶句している。
逆に俺や飛野、ブルは良くわからんぞ。
ブルの場合はその手の話よりも働く事が大事で過去の歴史なんて近代くらいしか分からないんだろう。
俺達はこの世界の歴史を全て知るには日が浅すぎる。





