百十四話
「バルトみたいのがもっといれば飛野のカバーも出来るんだろうけど」
「俺はまだ大丈夫だ。それこそラスティって人にバルトと同じ様な力を持ったのを作って貰えば良いんじゃないか?」
確かに……問題はバルトってこの世界の科学力じゃ再現できない遺物って事なんだけど……。
「バルト、場合によっては飛野もよろしくな」
「ギャウ」
「そんで兎束、確か異世界の戦士たちの所在がわかったんだったか?」
「敵からのリーク情報で怪しいけどさ。何が起こるか分からない。飛野、お前も来るのか?」
「当然……と、言いたい所だけど危険じゃないらしい」
ん? それってどういう事だ?
「先に件の場所に国の者たちが調査に向かったんだ。で、その場所自体は特に問題なく占拠……と言うかほぼ放置されていたって話。騎士の話じゃ拍子抜けする結果になってる」
飛野の話を纏めると、目的の施設は稼働していて、何も知らない人たちがそこで仕事をしていたそうだ。
で、異世界の戦士関連はその施設の中でも奥の方で行われていたそうで工場長でも入れない独自の区画だったらしい。
そこに国からの命令で止む無く区画を開けて中を調べた所、中には人はおらず……って感じだと……。
「何か手を打ってくると思ったけど……あの声の言う通り土産として置いてったって事かよ」
何処まで余裕を見せているのか……下手に罠じゃないってのが非常に怪しいぞ。
本当に大丈夫なのか?
「直ぐに行くんだろ?」
「補給をしたら向かうみたいだ」
「もちろん俺も一緒に行くからな。これからよろしく頼む」
飛野と合流か……相手の出方を確かめるとかもうその段階じゃ無くなっているから当然か。
「何かあってナンバースキルが必要な状況になったら俺が先に使う。兎束は節約しろよ」
「出来れば避けたい所だな」
連絡の取れる異世界の戦士は俺と飛野の二人だけになってしまった。
一緒に居ればいざという時は心強いが、ある意味敵が望んでいる展開なのではないかと感じてしまう。
俺や飛野を遊び相手として招く為に色々と暗躍している段階に来ているんじゃないだろうか。
そんな奴が……武器は元より俺達への施しに善意なんて微塵もあるはず無いだろう。
飛野も言わなくても分かっているのか心なしか不安を抑え込む様な表情をしている。
「ヒノさんですね。魔獣兵が完成した時はどうも……」
「ああ、気安く景義って呼んでくれて良いぜ。これから改めて一緒に行動させて貰う事になったからさ」
「ブ」
飛野はフィリンやブルに親しげに声を掛ける。
「よろしくお願いします」
「ブー」
「おやおや、異世界の戦士様二号が加入かー……仰々しくなってきたもんだ」
アサモルトがやる気のなさそうな声で言って来た。
「お前もなんか変わった所あるのかねぇ?」
じろじろと飛野を見ているが……それはどういう意味だ?
「変わった所?」
飛野が小首を傾げて俺を見る。
「ブウ……」
なんかブルがアサモルトを見てため息を漏らしている。
「カゲヨシさんは……前にも会った事がありますし、ちょっと話をした所だと変な所は無いと思いますよ? もしかしたら何かあるのかもしれませんが」
「前にも似たような疑惑が掛けられた様な覚えがあるな兎束」
「ああ、そいつはアサモルトって言う不良軍人でな。なんか俺を見て異世界の戦士は変わり者が多い疑惑を掛けてやがるんだよ。是非とも異世界の戦士は普通の感性を持った人間だって教えてやってくれ」
「そうだな……兎束と藤平以外の異世界の戦士は変わった奴はいないぞ」
ちょっと待て飛野、なんで俺が藤平と同列で扱われなければならない。
「事もあろうに俺が藤平程の変人と言うのか!」
「下水道騒動の頃から分かってるんじゃないのか? 兎束、お前はベクトルは善側で害は無いけど変わり者なのは否定できないだろ」
って何故か飛野はブルの方に視線を向ける。
「ギャウ!」
バルトまで頷きやがる。
「飛野、それは大いなる誤解だ。お前だってブルを知れば分かるはずだ。いや、分かっているはずだろ? 下水道騒動の時だって俺達よりも早く救助へと向かって行ったんだぞ」
「あー……兎束が同僚を大事にしているのは分かっているから落ち着けって、その同僚の事となると目の色が変わるのが問題なんだよ」
いや、目の色なんて変えて無いんだが……事実をしっかりと伝えたいだけなのに何故みんな理解してくれないんだ。
「ユキカズさんの言う通り、確かにブルさんは良い人です。ただユキカズさんはもう少しブルさんを周囲に認知させようとする行動を抑えれば良いんだと思います」
「フィリン、分かってくれる人は分かると言う考えが謙虚で良いと思うかもしれない。だけどそれじゃ何時まで経ってもブルは正当な評価を得られないと思うんだ」
俺はブルが正しく活躍を評価して貰えるようにしたい。
そしてブルの様な良い人になりたいんだ。
「既にブルさんは評価されてますから十分ですよ。いろんな方を魅了しているじゃないですか」
「ブ……」
フィリンの言葉にブルが眉を寄せて顔を逸らしてしまったぞ。
もしやブルのファンをしている淑女たちの事を言っているのか!
「同志が増えたんだ。俺は嬉しいと思ったさ」
「なんか話が見えないけどそんなにブル……は人気あるわけ?」
「ブブー……」
飛野の問いにブルは嘆くように首を横に振る。
謙虚は時に嫌味に感じるんだぞブル。
そこがブルの良い所だけどさ。
「カゲヨシさんは知らないんですか? 一時期噂になった狼男の話を」
「ああ……なんかいろんな街で危機に駆けつけて名を告げずに去っていく狼男がいるって噂が冒険者の中でも聞いたなって……」
飛野がブルを指差すとフィリンが頷く。
「ブルさんは狼男に変身できるオークなんだそうで、狼男の姿で人助けをしていたそうです」
「はー……噂には聞いていたけどそうだったのか……ヒーローって感じだな」
「どうだ飛野、ブルの魅力が分かったか」
「なんで兎束が誇らしげなのかはわからんが、兎束がブルを尊敬している理由はわかった。だから落ち付け、バルトがお前の頭をこれでもかと噛みついてるぞ」
「ギャウギャウ!」
くそ……何故俺が落ち着かねばならない。
「しかもブルの善性は母親譲りなんだぞ! お母さんも素晴らしい人だった!」
「ブルさん親子と楽しく腕立て伏せしてましたもんね。しかも何時までも帰らないお父さんの代わりになろうと言いましたし」
「兎束……お前は藤平を超える変態だよ」
「何故理解されないんだー!」
事もあろうに藤平を超えるとはどういう事だ飛野ぉおおおお!
俺は変態じゃない!
「飛野、お前は俺の脳内友達コレクションに入れそうにないな」
割と性格が良くてなんでも卒なくこなす候補者だと思っていたのにこれとは……がっかりだな。
「異世界地雷十カ条並みのとんでも発言をいきなりするな。そんなコレクションに登録されるのは勘弁してくれ」
「本当、これさえ無ければユキカズさんは問題ないと思うのですけどね……」
「ブーブー」
みんな揃ってなんで頷くんだよ!
「くくく……楽しいやり取りをしてるねぇ。やっぱ見てて面白い奴だよ。異世界の戦士様ってのはこうじゃ無くっちゃな!」
アサモルトの奴! 俺を嵌めたな!
「だからこれは兎束と藤平だけだから」
「飛野も何度も否定するな。お前だって実は何か変な要素を持ってるかもしれないだろ!」
「そうかもしれないがしっかりと自覚して改善すればいいだけだろ」
「く……」
そんなに良い人と知り合うのがいけない事なのか?
俺は良い人がしっかりと評価される環境で楽しく過ごせれば良いだけなのに……。





