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十一話

 そんな感じでクッキーの材料を買って訓練校に戻った。


 みんなが残した果物や飴とか甘味料系を確保して三日目辺りに自作の予定を立てる。

 サバイバルと言うかいろんな技術に応用が利くって事でファイアマスタリーを習得。

 修練で習得するのは無理な代物なので、ポイントの無駄にはならない。

 火を使った加工とか料理、鍛冶とかに応用が利くそうなので取って損は無いんだとか。


 試しに釜を使った料理で実験したら思ったよりも早く熱を通す事ができたりした。

 凄いなぁ……とはいえ、俺……割と方向性なくスキルを振ってきてしまっているような気がするけど大丈夫だろうか?


「何作ってんだ?」


 自由時間の際。

 先輩兵士が竃を組んでクッキーを焼いている所に近寄ってきた。

 休日に購入した小麦粉と水、マーガリンみたいな油が採れる薬草と果物を混ぜたクッキー生地。

 割と食事に対する欲求って技術の向上に良いように働くんだなーと過去の記憶にあった麺棒で延ばさなくてもできるどちらかと言うとスコーンに似た物が出来上がっていた。


「食べます? 隣町のカフェで良いなと思ったクッキーの再現ですよ」

「ブー」


 ブルには試食をしてもらっている。

 仕事以外だと腕立てとか体力作りしかしてないからさ、こういった事は誘わないと。


「お、おう」


 先輩兵士がクッキーの失敗作であるスコーンモドキを頬張る。


「お? 中々美味いじゃないか」

「それは何よりです」


 なんて感じに作っていると先輩達が入れ替わり立ち替わりやってきて試食していく。

 いや、多くない?


「あの……」

「良いだろ。お前は訓練兵だろ? 先輩を大事にしろよ! 兵士にとってコネは大事だぞ」

「はあ……」


 ここでも上下関係ってあるのね。

 そう思っていたら調理兵までやってきて俺に友好的に声を掛けてきた。


「うん、味は悪くない。良いぞ!」

「はい?」


 それから調理兵は人目を気にするように辺りを見渡した後、俺に耳打ちしてくる。


「ここの飯、不味いと思わないか?」

「えー……」


 それを言っちゃうのか?

 作っているのはアンタ達だろう。


「おべっかを言わなくていい。不味いだろ?」

「は、はい」


 これって頷くように差し向けて、「やはり不味いと思っていたのか不届き者め!」とか言ったりする流れじゃないよな?


「何故だと思う?」


 どうやらその流れではないっぽい。

 うーん……この訓練校は自主性をそこそこ意識している所を感じる。

 言われた通りに従いつつ、それ以上を求めると言うかなんと言うか。


「ワザと不味く作って訓練兵自身が自炊するように促している、とか?」


 冒険者志望の兵士なわけだし、時に移動先で自炊するだろう?

 ちゃんと料理ができるようにしなきゃいけない。

 俺だってその程度は理解しているし、みんなそこそこ分かっている。

 これは兵士も冒険者も同じのはずだ。


「そうだ。にもかかわらず、ここの訓練兵共は恒例だからとか様々な理屈を捏ねて不味い飯を食うのを伝統にしているんだ。嘆かわしい。冒険者になる奴も携帯食料や倒した魔物の肉を捌いて焼肉にする程度しか考えん」


 ああ……そうなんだ。

 地味に厳しい掟ですね。


「不味い物に慣れておけばどんな環境でも飢えをしのげるという理屈も分からなくはないが、美味い物を食う事も忘れてはならない。その点で言えば貴様は合格だ。きっと料理のスキルを近々習得できるはずだ」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、俺の読みだが……覚悟しておいた方がいいぞ」


 はい?

 そう言って調理兵先輩は去っていった。


 調理兵先輩の読みは……確かに的中したよ。

 先輩兵士達が俺に差し入れとして小麦粉とか果物とか持ってくるんだ。

 自費だったり、現地調達だったり、訓練校の倉庫に眠ってる材料をくすねてな。

 しかも薬草をちょろまかした物まで持ってくるし。

 後は何をしろと誘導しているのかはわかる。


 しょうがないから練習に訓練校の端の方で釜を作ってクッキー作り。

 先輩の調理兵も「だろ?」と言いながら手伝ってくれたけどさ。


 そこから口コミが広まって行くのに時間はかからなかった。

 カフェで買ったり自分で作れよ。

 そんな難しくないだろうに。


 なんでも調理兵先輩曰く、美味いメシが作れる奴は正規兵でも重宝されるそうだ。

 パーティーや部隊に一人はいると何かと便利だとかなんとか。

 そういう意味では上手くやったって事なのかねぇ……疑問が尽きない。




 訓練校入学一カ月後の休み……先輩達に誘われて風俗街に連れ込まれそうになったので逃げた。

 初任給として渡された雀の涙の駄賃が一晩で消えるところだった!

 先輩に誘われたところを見るに微妙なコネができてきた自覚はあるけど、さすがにそんな度胸は無いです。


 まあ、夜間に抜け出す事は大目に見てもらえるようになったのが収穫かな?

 本を読んでても何にも言われなくなったしさ。


 そしてできたクッキーは俺専用の半ば通貨扱いとなって融通と友好を築く切り口となった。

 時々合同で訓練する女子新兵に内緒で差し入れしたりね。

 最初は驚いていたけど俺があげたクッキーが気に入ったのか、笑顔を向けてくれるようになった。

 良いね。

 会う度に辛そうにしていたから少しは気が楽になってくれれば良いんだけどな。




 そんなこんなで……兵役二カ月が経過しようとした頃。


「もう訓練兵が新兵になる研修の時期かー」


 などと先輩兵士が夜間の見張りをしている最中にそう呟いた。

 一応規則とか行事に関してはもう大体頭に入っている。

 二カ月でここの訓練に慣れて、そこから新人研修として部隊配属されて雑務や戦闘を教わる。

 訓練校じゃできない事だかららしいし、人員が勿体無いからだとか。


 戦闘訓練とかもそこからで、その後は状況次第で訓練校に戻ってまた別の訓練をするんだったか。

 まあ、現地で抱えられている非戦闘兵というのもいるらしいが、少なくとも俺達よりも階級は下になるんだとか。


 戦闘に関してだが、俺は……ブルのお陰であまり経験せずに済んでいる。

 とは言っても投擲修練を取ったお陰で戦闘には貢献できていると思うけどさ。

 スリープラビットやエレキジェリーには後れを取っていない。

 遭遇と同時に石を投げつけて仕留められるようになった。


「そうなると人によってはここを卒業って事になるんですかね?」


 長いようで短い二カ月だったと思う。


「部隊によるとしか言えない。僻地担当になったり、雑務処理担当だったりと兵士の仕事は無数にある。戦うだけが兵士の仕事じゃないからな」


 そういえばそんな事を言われた気がする。

 補給部隊とか整備隊とか色々あるらしい。


「とは言っても……今年は一カ月半後に大規模な遠征があってな。新兵共々それなりの兵士が派兵されるだろうよ。その時にはまた顔合わせするだろうな」

「遠征ですか?」

「ああ、何でも魔導兵や竜騎兵とも異なる強力な戦力が国に加入したから大々的な遠征でダンジョンの攻略をするそうだ。既にそいつ等は先行してるって話だぞ」


 強力な戦力……ねえ。

 なんとなく俺達異世界人の事を言っているような気がする。

 儀式を掛けると強くなるらしいしな。

 その点で言えば俺のポジションって何なんだろう?


 というか、この世界の人達って人種に拘る所はあっても髪や肌の色にはそこまで執着が無いように見える。

 逆にブルみたいなオークを臭いって蔑んでいるのをここ二カ月痛いほど感じている。

 養豚を乗せたトラックが通りかかった際のあの異臭なんてブルから全然しないんだけどな。

 精々少しばかり汗臭いだけだろうと思う程度だ。

 部活の帰りの生徒と同じくらいかな? 騒ぎ立てるほどじゃない。

 嗅覚が俺達と違うのかな?


「大規模な攻略だし、冒険者も来るから今のうちにコネを作っておくのも良いかも知れねーぞ。上手い事目に止まれば兵士であると同時に準冒険者として活動させてもらえるからよ」


 ああ、そういえば冒険者ギルドでそういった説明されたっけ。

 準冒険者って奴。

 そっちで仕事をしているクラスメイトも居るし。


「魔導兵や竜騎兵も見れるかもしれないしな。アレは兵士の憧れ……花形職だし、整備兵になりたいって奴も居るくらいだ」


 はぁ……としか答えようがない。

 魔導兵っていうのはゴーレムに乗り込んで戦う騎士で、竜騎兵はドラゴンに乗る騎士だとか。

 まあ、騎士って言うからには、言うまでもなく貴族じゃないとなれない職業らしいけどね。

 相当評価された冒険者ならなれるんだっけ? 自由騎士とかあるし。


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